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有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析と処理の原則(2) 先行性

前回取り上げた、情報の分析と処理の原則のうち、先行性について考えましょう。

先行性とは「インテリジェンスの活動が、状況判断や意思決定に先立って実行されること」説明しました。行動すると意思決定する際は、事前に情報を集めて分析・処理し、行動すると決めることが適切かどうか判断するのが常です。その反対側にあるのが、犯罪報道などでよく使われる「カッとなって」でしょう。とはいえ、カッとなるにはそれまでの状況の積み上げがあったはずなので、広い意味では本人の中で情報の収集、分析、処理が行われているといえます。動機に至る過程ですね。

ここまでは当たり前のことしか書いていないと思われそうですが、意外とそうではありません。日常生活でも、レストランで料理を注文してから、なぜそれを頼んだのか後付けで考えてしまうこともあったりします。ステーキを食べたいと急に思ってレストランに入り、勢いで頼んで、後から会計でびっくりするといった、そんなことを経験した方も数多くいらっしゃるのではないでしょうか。このあたりは、今後、ビジネスリスクインテリジェンスと意思決定プロセスのトピックで詳しく説明します。

さて、前回の最後に提示した、営業秘密の漏洩というシナリオをベースに、ビジネスインテリジェンスにおける「先行性」を考えてみましょう。この場合、二つのケースが想定されます。
一つは、漏洩というイベントが明らかになる前に、「何かおかしい」と感じるケースです。状況でいえば、平時から有事に向かいはじめるステージです。たとえば、自社が開発している製品やサービスとよく似たものが先にライバル企業から公表される、特定の技能を持つ社員の退職が増えているなどといったケースです。そのほかにも、顧客から「よく知らないセールス電話で困っている」といったクレームが多数寄せられていたりといった、普段とは違う状況が発生していることも当てはまるでしょう。

もう一つは、イベント発生後に、状況をさらに悪化させないようにするための「先行性」です。漏洩を5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)で整理し、何がわかっていて何がわかっていないかを整理します。そのあと、漏洩の影響や漏洩の発生原因、関係する組織や人の特定などの作業が行われます。この際、漏洩というイベントが発生した後に起こる可能性がある悪影響を想定し、その度合いを評価します。この時点では、すでに有事の段階に入っていることがほとんどで、漏洩に該当する部署だけではなく、全社的な対応を取る態勢の構築が必要となってきます。

一つ目の段階を可能な限り早く察知し、事前に防止できることが望ましいですが、悪意をもってインシデントを引き起こすような状況では、すでに手遅れとなっていることも少なくありません。そのため、実際には一つ目の段階の対応をしつつ、裏では二つ目の段階の対応を準備するという「二段構え」が求められることになるでしょう。そうしたインシデントが発生しにくい組織やビジネスプロセスを構築する経営努力を、普段から進めることが望ましいですが、それについては本稿のスコープの範囲外となりますので、ここでは議論を割愛させていただきます。

※本連載は、中小企業診断士たる筆者個人の意見の表明であり、筆者が所属する組織団体その他の公式な見解を示すものではありません。

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