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サウサンプトンにきて面食らったりした話

はじめに

イギリス、サウサンプトン大学の航空宇宙工学科で空気力学を専攻している田崎です。

サウサンプトン大学はF1エンジニアを多く輩出する大学の1つとして知られており、イギリス内の大学で最大の風導設備を持つなど、特に空力面が優れている(と信じています)。僕はF1のエアロダイナミシストを目指してこの大学に来ました。

大学では学生フォーミュラチームの空力班に所属し、今年はチーム内でも初の試みとなる50%風洞モデルの設計を担当しています。

この記事では、良くも悪くも、サウサンプトンにきて思ってたんと違うなーと感じた話をしていきます。以下に記す話は、全て個人的な感想です。

大学の講義

授業

高専と同レベル+α。海外の大学に想像する、勉強をずっとしていないとついていけない!というのは主にアメリカの大学の話なんかな。ただこれ、高専からの編入生あるあるかもしれない。

渡航前に半年間、科目等履修生としてお世話になった大阪大学の講義と比べると、ここの授業は、理論より実用重視。式はネットで調べたら出てくるし、計算は計算機使えばいい、その代わり、理論の仮定と発想、適用限界を正しく理解してね、というスタンス。将来エンジニアを志望する学生対象の授業なので、この考えには僕も大賛成。

授業の質はかなり高いと思う。ざーっと書くと、授業関連のコンテンツ、授業の録画、過去問などへのアクセスがオンライン上から非常にしやすい。それに授業が上手く設計されていて、大事な部分を重点的に説明するので、入ってきやすい。各章ごとに練習問題が配布されるので、テスト対策もしやすい。板書ではなく全部スライドなので、数式を先生が黒板に書く時間もなく、効率がいい。スライドも事前配布されるので、必要事項を書き込みながら授業聞ける。いい質問をする人が多い。質問内容が解答と合わせてオンラインで全部公開される。学生からのフィードバックはすぐに反映される。いぇい!

課題

量が少ない。高専みたいに1週間おきにレポートはない。各科目につき、学期中に1つとか。8ページ以内などの上限が設けられていることが多い。

ただ、レポートで高得点を取るのは難しい。採点基準表があり、採点返却の際はその表に点数が記載されて返ってくる。この表はレポート課題の発表と同時に公開される。イギリスでの最高評価は70点以上の1st、これに準じた採点基準になるので80-90点を超えることは非常に難しい。つまり頑張って書いても、ここもっとこうしたらいいよというフィードバックがもらえる。これでこそ教育だ!と個人的には満足している。はっぴー!

テスト

イギリスのテスト方式に慣れる必要がある。テストの平均点は55-60点になるように作られる。そのため基本的には初見の問題、記述式、最終的な解答は数字、という形式が多い。証明問題などは、あるけど少なめ。大問が3-4つしかなく、問題の途中で転けたら20点無くなる、みたい致命傷を負いかねないので、手を動かして、計算ミスを少なくする練習が大事。ひぇぇ。

オンラインテストは、コーディングしないと解けない問題や、ネットから情報を見つけてくること前提な問題も出てきて、上手く設計されてるなと感動。たぶんイギリスの教育思想的にはオンライン試験の方が合ってると思う。

学生フォーミュラ

全体

チームが総勢で400人いる。空力は特に人気で、今年は70人くらい。しかも班配属の段階で空力志望の人は200人だとか。多すぎ!ちなみに配属は、チーム内でのクイズ(テストです)によって行われるので、ある程度詳しい人が入れる仕組みになっている。

週1のミーティング以外にチームで集まる機会がない。高専でエコランしてたときは学校終わったら、部室行って8時まで作業、が当たり前だったのでこれには面食らった。あれぇーーって感じ。

空力班

空力班は、個人のペースで自由に開発していいよ、というスタンス。メンバーのほとんどはミーティングの時にちょろっとCADをいじってCFDの結果見て、みたいな感じ。継続メンバーが少ないのか、CADが綺麗に描ける人が空力班の中には10人もいない。その分CADができるだけで重宝される。これは好都合。

部門リーダーはF1のインターンから帰ってきた人が務めることが多く、空力にめっちゃ詳しい。よって大体彼らが提示するBaselineのデザインがそのまま採用されることが多い。彼らと話すと色々と学べる。すごい。

空力班と空力のパーツ製造班が別で、空力班はサーフェスしか設計しない。F1ならこの組み分けが成り立つが、学生フォーミュラではなかなか。空力メンバーは製造を観点に入れず、こんなん作れへんやんみたいな部品を設計してたりする。そういう形状が作れるようになるかは、製造部門のトップの力量とやる気次第。部門を横断して全部自分でやるから、みたいなのは好かれない。

総括としては、頑張ってコミュニケーション取って、名前覚えてもらって仲良くなって、自主的に色々仕事してる人間が評価される。

F1を目指すにあたって

F1との距離

想像より近い。最近の学生フォーミュラの人の進路を見る限り、空力以外の観点からF1を目指すとしても大学はここで良さそう。というのは、サウサンプトンという名前で弾かれることはあまりない。メルセデスにもレッドブルにも行く人はいる。行けるかどうかは個人の技量次第。

求められるもの

経験や専門分野の知識は想定の範囲内。
1つ言及するならば、経験は必ずしも学生フォーミュラである必要はない。さらに、もし学生フォーミュラを経験とするとき、そのチームが強くないといけないとは限らない。その経験が工学に関連していて、自分が何に貢献したのか、それにより結果がどうなったか、何を学んだか、みたいな話ができればオッケー。学生フォーミュラは、この体験をできる最適な1つの機会に過ぎない。

驚いたのは、みんな説明がめっちゃ上手いこと。日本だと、面接での質疑応答は簡潔に、が原則で、長く話せばまとめる能力なし、と思われたりする。イギリスでは1聞くと10返ってくるタイプが多く、それがこちらのコミュニケーションのスタンダード?らしい。

仮定を述べた上でどういう発想で理論が構築されてるのか、適応範囲は、どんな実用例があるか、欠点は?こういった具合で、1つの質問を自分で拡大しながら、順序立てて解答していく人が多い。この文化もあってか、面接などではfollow-up questionがあまり出ない気がする。簡潔に答えると、口にした部分しか理解してないと思われかねない。なので1つの議題に対して、自分の理解を存分に示す必要がある。

これまで簡潔な受け答えが望まれる環境で育ってきた僕にとって未知の世界で、1回インターンの面接で落ちてから1年かけて説明力を磨いた。今年のインターンの面接、翼理論の説明に15分使った。受かった。

まとめ

自由時間がたくさんできるので、その時間を自学に当てられる人がどんどん伸びていく。与えられたことだけをこなそうとする人にとっては得られるものは多くないかもしれない。

以上、ありがとうございました!

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