237.呪いのリュック

夫は毎年誕生日にプレゼントをくれる。去年の誕生日のとき、そろそろ仕事用のバッグが古くなってきたので新調したいとリクエストしたら、夫はネットで色々探していくつか候補を選んで提示してくれた。
でも結局、私が望むようなバッグがなかなか見つからず、「どんなのが欲しいかわからないから自分で好きなの買えばいいよ」と呆れ気味に匙を投げられ、私も面倒になって誕生日プレゼントはもういらないと言った。
(Wインカムで生計を同じくしてるのに、誕生日プレゼントとか意味あるのかな?と毎年思ってしまう)

古いバッグを使い続けていたらついにファスナーが壊れてしまい、だいぶ不便だったので新しいバッグを買うことにした。
三連休の最終日に外出する良い口実が見つかった。彼も予定がなかったので、デートを兼ねて2人で選びに行くことにした。
彼と一緒に選ぶことに心が躍る。その理由はもしかしたら少しおかしいかもしれないけど。

10時半頃に彼と待ち合わせ。彼と駅で待ち合わせすると違う改札から出てしまって出会えないことが多いが、今日はちゃんと1回で会うことができた。

帽子を被らないで髪をきちんとセットしていたので、「なんだか今日はいい感じですね」というと、髪を切ってパーマをかけた、という。
それは気づかなかった。長さが変わってないし、強いパーマでもないから、加減の良い束感はたまたまセットが上手くできたからだと思った。
「いつも素敵ですけど、今日は特にカッコイイですよ」と正直に伝えると、
「マイさんだけですよ、そう言ってくれるのは」と言っていた。いや、控えめに言って素敵です(爆)

デパートでは手を繋ぐこともなく、適度な距離感を保っていた。勤務地からそう離れてないエリアなので、どこで知り合いが見てるかわからない。
でも、エスカレータで2人きりになったときにベルトに置かれた手の上に手をそっと重ねたりした。彼が前に立っているといい匂いがして思わず抱きつきたい衝動に駆られたけど、そこは我慢。

1つ目のデパートでピンとくるバッグを見つけた。私はすぐに紺とか黒とか無難な色を選びがちだけど、彼はオレンジ色のリュックに惹かれたようだった。

モバイルパソコンがちゃんと入るとか、ポケットが多いなどの機能面はもちろん、私自身の好みも大切にしつつ、今日は彼の意見を全面的に取り入れるつもりでいた。
リュックにオレンジ色は絶対選ばないけど、彼曰く私のイメージカラーはオレンジ色らしい。

形や色は気に入ったけど、リュックが少し小さめなのが気になって一度売り場を離れて他のデパートに探しに行った。でも結局、最初にピンときたオレンジ色のリュック以上に心惹かれるものがなく、ランチを挟んでまた最初の売り場に戻った。

午前中にいた店員さんがまた対応してくれて、色違いの黒色のリュックも出してくれた。試しに背負ってみると「うーん、やっぱりオレンジがかわいいかな」と彼は言っていた。店員さんは、服と合わせやすい、季節を選ばない無難なのは黒ですが…と黒を推していたし、私も黒でもいいかも?と思ったけど、彼はオレンジが良かったみたい。「僕はオレンジですねー」と譲らなかった。
あんまり物事決めないタイプの人が、ここまで言うのだから、買うのはオレンジに決めた。

リュックを彼と選びにきたのは、買い物を口実に会う以外にも理由があった。
前に2人で買い物に行ったときに折り畳み傘を買ったことがある。お互いに選び合って決めたから、雨で折り畳み傘を使うたびにそのときを思い出して、少しだけ雨の日の憂鬱も小さくなったものだ。

だから彼と一緒に選んだものを毎日使うのっていいなと思った。
4月から関係が変わってしまう確率が高いのに、あえて彼を彷彿とさせるようなことを残したいのもチグハグだけど、今はそんな気持ちだった。

彼もそれをわかっていたのかデートの前日に、
「せっかくなので一緒に選びましょう。Specialなヤツを。一緒に買って呪いをかけるかもしれませんが」とメールに書いてあった。

呪い・・・
離れても、私が彼を思い出す"呪い"か。
毎日毎日通勤で使うから、そのたびに思い出すのか。
彼もきっと、本当は私と離れたくないし、忘れて欲しくないからそんなことを言うんだろう。
彼のそんな可愛い呪いならかけてもらって構わない。

にしても、私にあげる誕生日プレゼントのために何日もインターネットでバッグを探してくれた夫のチョイスより、ふらっとお店に行って数時間で決めてしまう彼の方を選ぶとは皮肉なものだ。

リュックも買い終わり、まだ時間があったから彼のマンションに行くことにした。待ち合わせしてから4時間ほど、ほとんど体に触れることなくただ一緒にいるだけでも幸せだったのは間違いないけど、それが盛大な焦らしになっていて、私は我慢ができなかった。

次のセックスは◯回目(←具体的な回数は自重)の節目だったから、悔いの残らないものにしたいとお互い思っていたのかもしれない。
彼は電車の中で耳元で「エッチするんですか?」と聞いてきた。野暮なことを。

次回、エロ編へ続く(たぶん)。



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