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しまむら理論でバレンシアガと戦ってみる

今回からはいよいよ、デムナ・ヴァザリアがディレクションするバレンシアガへのカウンターとなるデザインを考えていきたい。

 実際にコレクションシーンでは、バレンシアガのカウンターとなるデザインが現れ始めた。その一つが、ラフ・シモンズ率いるカルバン・クラインである。2019RESORTコレクションが、まさにそうであった。

 スケータースタイルから派生してきたストリートに対して、名門エリート大学の学生たちのスタイルから派生したアメリカントラッドを全面に、ラフ・シモンズはコレクションを構成した。まさに正統なカウンターと言えるアプローチだ。

 アメリカントラッドはアメリカを代表するスタイルの一つ。カジュアルながら綺麗な着こなしと、遊び心あるユーモアを織り交ぜたスタイルは、時代を超えて愛され続けている。

 そのアメリカントラッドを、ラフ・シモンズはカルバン・クラインのDNAであるミニマリズムでフィルタリングし、よりスマートにクールに仕上げた。アメリカントラッドならではのユーモアを磨き上げながら。

 同時にそこには現代のトレンドをしっかり踏まえた表現もなされている。インスタグラムとビッグシルエットである。

 アイビーリーグの大学名をロゴにして打ち出し、カラーバリエーション豊富な柄と色使いのアイテムを同時にスタイリングすることによって、一目で惹く大胆さ=インスタグラムなエレガンスを作り出した。また、アウター類に顕著なのだが、幅広い肩幅のショルダーラインが力強い。デムナのバレンシアガほど誇張されたものではなく、もっと自然な肩幅で、それは1980年代の空気を感じさせる。だけど、80年代のような華美さや贅沢さはなく、シンプルに綺麗に仕上げている。これはカルバン・クラインというフィルターにかかったからだろう。

 アメリカントラッドは、アイビーリーグと言われるアメリカの有名私立大学8校(ブラウン、コロンビア、コーネル、ダートマス、ハーバード、ペンシルベニア、プリンストン、イェール)の大学生たちのスタイルが源流となっている。大学名を聞くだけでわかるとおり、エリート学生たちのスタイルだ。そのため、着こなしには自然とスマートさがにじみ出ており、上品で綺麗な装いとなっている。一方で学生から生まれたスタイルであるがゆえ、その装いはカジュアルでもあり、また遊び心あふれるユーモアもあり、色使いにも爽やかさと明るさが見える。

 カルバン・クラインが今回ロゴとして打ち出した大学は、「YEAL(イェール)」と「 BELKELEY(バークレー)」だった。イェールは、前述の通り私立大学8校に含まれているが、バークレーはカリフォルニア大学バークレー校のことであり、私立大学のアイビーリーグに対しパブリックアイビーと言われる公立大学の一つである。

 イェールは49人のノーベル賞受賞者を出し、5人の大統領を輩出し、特に政治家の輩出において注目されている。まさにエリート中のエリートと言える。一方、バーレクー校も負けず劣らずで、2014年までに70人以上のノーベル賞受賞者を輩出し、シリコンバレーにも近く、ハイテク企業を中心に創業者も多数輩出する。とりわけ特徴的なのがスポーツで、バークレー校出身者は100以上のオリンピックメダルを獲得している。(以上Wikipediaより。ノーベル賞受賞者数やメダル獲得数は、現在Wikipediaに記載された数字を参考)

 なぜこの2校にフォーカスしたのか、それも気になるところであるが(ここでの考察は控えたい)、カルバン・クラインはかなり真正面からストリートへのカウンターを打ち出している。そして、カルバン・クラインのコレクションにも「オリジナルスタイル(ミニマリズム)×トレンド(ビッグシルエット・インスタグラム)」が潜んでいる。オリジナルスタイルに関して言えば、今回はアメリカントラッドもかけ合わせている。

 もう一つ、ストリートへのカウンターとして僕が注目しているのは、ヨウジヤマモトである。これはカルバン・クラインとはまた異なるカウンターを生んでいる。そこには東洋から西洋へのカウンターという意味合いも感じられ、同時に実はデムナのバレンシアガで弱いと僕が感じる「インスタグラムなエレガンス」において、今のヨウジヤマモトは優位性を掴んでいる。日本では、若者の間で人気を獲得しビジネスでも成長させているヨウジヤマモトについては、次回詳しく追っていきたい。

 今回のメインテーマは「しまむら」になる。

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