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フセイン・チャラヤンとビジネス

*このテキストは「AFFECTUS subscription」「AFFECTUS letters」加入メンバー限定サービス、ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年7月16日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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ファッションはビジネス。ゆえにファッションデザインの目標は消費者に「欲しい・着たい」と思わせる服を作ることだと私は考えている。消費者の購買意欲を刺激する服を作ることができなければ、ブランドは存続できなくなる。どれだけ崇高なメッセージやビジョンがあろうとも、売れ続けなければブランドは消滅してしまう。これは避けようのない現実で、決して逃れることはできない。

世の中には売れ続けるブランドと、ブランドをクローズするまでには至らないが、ビジネスが小規模あるいは伸びないブランドがある(ブランドがその規模感のビジネスを望んでいるケースは別だが)。

ビジネスが小規模のブランドに素晴らしい才能を持っているデザイナーもいるが、ブランドのビジネスがその才能から受ける印象とは異なり、伸びていないケースがある。売れ続けてビジネスが成長するブランドと、そうではないブランド。その差はどこから生じるのか。

今まで私がLOGICAZINEでピックアップしてきたデザイナーは市場で人気を獲得し、ビジネスも伸ばしてきた人物ばかりである。それは、彼ら彼女たちのデザインを観察していき、共通点があるかどうか、そこを見出すことでファッションデザインの成功率(売れること)と再現性(売れ続けること)を高められるのではないかという考えもあったからである。

もちろん服が売れる・売れないは、単純にデザインだけが理由とは限らない。商品の販売場所・時期・購入方法などの要因が絡んでいるケースも多い。極端な例にはなるが、たとえば20代のスポーティなスタイルを好む女性向けデザインのブランドを、老舗百貨店のフォーマルがメインのミセスフロアで販売しても売れるのは難しいだろう。ブランドターゲットと販売チャネルの重要性は、私が企業にデザイナーとして勤めいた時に実感したことでもある。

だが、今回はデザインに焦点を当て、話を進めようと思う。売れ続けるブランドと、そうではないブランドのデザインの差とは何かを考えていきたい。

私の好きなデザイナーにフセイン・チャラヤンという人物がいる。素晴らしい才能を持ったデザイナーだ。1970年生まれのチャラヤンはキプロスの首都ニコシアで生まれた、母国語をトルコ語とするトルコ系キプロス人である。チャラヤンが12歳の時、彼の両親は離婚する。そのことが理由でチャラヤンは父親と共にイギリスへ渡る(父親はイギリスでレストラン経営を行い、成功する)。

イギリスで育ったチャラヤンは、ロンドンの名門セントラル・セント・マーティンズに入学し、4年間を過ごすことになる。1993年、チャラヤンはセント・マーティンズの卒業コレクションを友人宅の裏庭に埋め、衣服が土の中でどう腐敗していくのかを研究した。土の中に数ヶ月間埋められたシルクドレスは、ロンドンのセレクトショップ「ブラウンズ」のショーウィンドウを飾り、チャラヤンの才能は世に知れ渡ることになる。

卒業後、すぐに自身のブランドをスタートさせたチャラヤンは、創造的かつ思索的コレクションを意欲的に発表し、そのどれもが見ている者に「ファッションとは何か」という問いを投げかけているようであった。

私がフセイン・チャラヤンのデザインを決定的に好きになるきっかけは、2002SSコレクションを見たことだった。ショーに登場する女性モデルたちが着用するドレスは、薄汚れてボロボロ。捨てられていた衣服の残骸をかき集め、布の断片をつなぎ合わせてドレスに仕立てた。そう表現するのがふさわしいドレスだった。しかし、そのドレスを身に纏った女性モデルたちには儚い美しさが漂い、とても詩的で、私はこのコレクションを見たことでチャラヤンのファンになる。

2002SSコレクション以前のデザインで印象深いのが2000SSコレクション。「アフターワーズ」と題されたこのコレクションは、トルコ系キプロス人であるチャラヤンが1974年の国家南北分断以前にキプロスで民族浄化にさらされた過程の考察からデザインを展開し、難民の苦境や、戦時中に突然我が家を強制的に去らねばならない恐怖を、ファッションへと具現化している。

ショーは通常のランウェイではなく、ある家の部屋を模したような舞台で発表される。舞台にはテレビ・テーブル・椅子が配置されており、その舞台へ入ってくる女性モデルたちはカッティングに特徴はあるが基本的にはシンプルで都会的なデザインの服を着ている。しかし、シンプルであるはずの服がコレクションの進行と共に変化する。とりわけ強いインパクトを放つのが終盤に披露されたデザインである。部屋に配置された椅子はバッグに、テーブルはスカートに変貌し、宗教歌のような荘厳な生演奏のBGMを背景に女性モデルたちは横に並び、突然舞台は暗転し、ショーは終わる。

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