20190129_エディコブドレス

エディ・スリマンとこぶドレス

*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年1月29日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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1997SSシーズン、モードファッションの歴史に残るドレスが発表された。そのドレスが発表されたコレクションのタイトルは“Body Meets Dress, Dress Meets Body”。美の基準を揺るがすドレスをデザインしたのはコム・デ・ギャルソンであり、通称「こぶドレス」の誕生だ。

エレガンスという言葉を聞いた時、私たちが浮かべるファッションとは全く異なる造形のドレス。ドレスのあちこちにパッドが詰められ、タイトフィットしたドレスはそのパッドに合わせ、異様な凹凸を身体上に幾つも作り出している。そのドレスには「クラシック」や「モダン」といった、従来のファッションで多用される形容は意味をなさない。

すべてがあまりに歪で、すべてがあまりに想像外であった。コム・デ・ギャルソンのデザイナー、川久保玲は抽象的かつ異形な造形で美しさを根本から問い直そうとした。

発表から20年以上経った今、こぶドレスを見ても、ファッション的美しさを感じることは困難だ。しかし、2019年の今、私はこぶドレスを見るのと同じ感覚を2019SSメンズコレクションで味わうことになった。その感覚を味わせてくれたブランドが、エディ・スリマンによるセリーヌのメンズコレクションだった。

エディ・スリマンとこぶドレス。まったく関連性のないものに思える。なぜ私がエディのセリーヌを見て、こぶドレスのイメージが浮かんできたのか。今回のLOGICAZINEでは、その生まれた感覚を言語化していこうと思う。

今、ファッションには新しい時代の新しい感覚が訪れようとしている。

まず最初に、先ごろ閉幕した2019AWメンズコレクションの傾向を簡単に振り返っていこう。

2019AWシーズンの先頭を切ってスタートしたのはロンドンのメンズコレクションだったが、そこで散見された傾向が第1回目のLOGICAZINEでも述べた通り「スペーシー&ワークウェア」だった。宇宙的イメージとワークウェアの融合したデザインが、ロンドンメンズではトレンドに浮上した。

このトレンドが、その後のミラノとパリでも継続されるのか注目していたが、結果的にはロンドンだけの傾向に終わった。コレクションシーンがミラノに移るとスペーシー&ワークウェアに変わり、トレンドに浮上したのが「クラシック&エレガンス」だった。LOGICAZNEやAFFECUTSで、私はこれまでストリートの反動からドレッシーなエレガンスがカウンターとして現れる可能性を述べてきたが、ここにきていよいよエレガンスの本格化が始まった。

クラシック&エレガンスはミラノだけに終わらず、パリでも継続された。目立ってきたスタイルがスーツである。ストリートがトレンドの主流になる以前からファッションのカジュアル化は世界的に進行し、それ以降現在に続くまでカジュアルはトレンドの中心を占めている。私はこのカジュアルスタイルが、まだしばらく続くだろうと思っていた。しかし、その予想は外れ、2019AWでは久しぶりにスーツスタイルを発表するブランドが多く見られたのだ。

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