20190212_マリーンセル

マリーン・セルのボーダーレスデザイン

*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年2月12日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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ある要素とある要素をミックスして、新しいイメージを作り上げる。デザインのアプローチとしてそれは極めてオーソドックスだ。しかしながら、とても有用なアプローチでもある。

ポイントは何と何をミックスするか。パワーが出てくるのは、対極の要素、異なる要素のミックスだ。

 例えば、ウェディングとスポーツといったように、通常の生活においては接点のない要素同士を組み合わせると、新規性ある面白いデザインが生まれる可能性が高まる。一方、それは接点のないもの同士をコネクトするため、魅力あるデザインに仕上げる難度が高い。

デザインアプローチとしてこのミックス手法で、今新しいイメージを見せてくれているのがマリーン・セル(Marine Serre)だ。

世界最大のファッションコングロマリットLVMH主催の新しい才能の支援を目的とした、今や世界最高峰のファッションコンペ「LVMH PRIZE」においてわずか25歳で2017年にグランプリを獲得したのがマリーン・セルだった。

1991年12月生まれの彼女は黒髪のショートヘアがトレードマークであり、身長が152cmと小柄。フランス人のセルだが、出身校はフランスではなくベルギーのラ・カンブルである。ベルギーのファッションスクールといえば、多くの人はアントワープ6やマルタン・マルジェラを輩出した名門アントワープ王立芸術アカデミーが浮かべるだろう。

だが、ベルギーにはもう一つ注目するファッションスクールがあり、それがブリュッセルの芸術学校ラ・カンブルである。今では注目度で劣ってしまったが、LVMH PRIZE誕生以前、新しい才能を発掘するという点で世界一注目を浴びていたのは、フランスのイエールで開催されているイエールモードフェスティバルだった。

ラ・カンブルの学生は、このイエールでファイナリストに選出されることが多く、グランプリを獲得した人物もおり、現サンローラン・クリエイティブディレクターのアンソニー・ヴァカレロは2006年に受賞している。

セルはラ・カンブル卒業後、アレキサンダー・マックイーン、メゾン・マルジェラ、ディオール、バレンシアガでインターンとして経験を積む。LVMH PRIZEでグランプリ獲得時、セルはまだバレンシアガに在籍しており、自宅のリビングでファイナル(最終選考)に向けたコレクションを制作していた。

なおセルはLVMH PRIZEグランプリ獲得時の同年、イエールモードフェスティバルのファイナリストにも選出されており、二つの高名なファッションコンペで同時にファイナリストになるという偉業を達成している。

それでは、セルのデザインについて見ていきたい。LVMH PRIZEグランプリ獲得以降、彼女は着実なステップを見せている。

LVMH PRIZEでグランプリを獲得したコレクション「Radical Call for Love」を見ると、不思議なニュアンスが感じられてくる。まず受ける印象はエアロビクス的スポーツ要素。身体にフィットしたボディスーツを思わすトップスに、細いボーダーのボリュームたっぷりのギャザースカートをミックスし、スポーツウェアとデイリーウェアの境界を曖昧にするデザインだ。そこにもう一つのアクセントが加わっており、それがアラブ。ヘアバンドで髪を覆い隠したルックが、アラブ女性の服装を連想させる。スポーツとアラブのミックスという、これまでに見ることのできない世界をセルは確立していた。

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