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ヘロン・プレストンが作る熱とは何なのか

*このテキストはサービス「AFFECTUS subscription」と「AFFECTUS letters」加入メンバー限定ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年6月25日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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人がファッションに魅了される瞬間、そこには心高鳴る熱い時間が訪れる。「熱」を感じるからこそ、そのファッションが「着たい」「欲しい」となる。ファッションデザインとは、その「熱」を作ることだ。

そして今、その熱が最も圧縮されている場がストリートウェアである。ストリートの熱を先導してきた人物の一人は、ファッションの専門教育は未経験ながらルイ・ヴィトン メンズディレクターという世界最高峰にまで上り詰めた、あの男。その男の名はヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)。

ヴェージルは自らのデザインだけで若者たちを惹き込んでいるわけではない。仲間を作り、その仲間が新たにストリートの熱を作り、伝えていく伝道者となっている。世界のファッションを牽引するストリートウェアを生み出すデザイナーが、ヴァージル・アブローを中心にしたコミュニティから何人も現れている。その一人がヘロン・プレストン(Heron Preston)である。

プレストンはデビュー早々に、ストリートキッズたちを熱狂の渦に巻き込んだ。いったい、プレストンの魅力とは何なのか。プレストンはどんな「熱」を作り出したのか。

1983年サンフランシスコ生まれのヘロン・プレストンも、ヴァージル同様にスラッシャー(多面的な活動をする人物)である。マーク・ジェイコブスやプロエンザ・スクーラーを輩出したニューヨークが世界に誇る名門、パーソンズ美術大学を卒業した後、ナイキに入社してデジタルプロデューサーとしてキャリアを積む。プレストンは新たな活動も始める。アリクス(Alyx) のマシュー・ウィリアムズ( Matthew Williams)、「オフ-ホワイト(Off-White)」 の ヴァージル・アブローと共に「ビーン・トリル(BEEN TRILL)」を立ち上げた。

ビーン・トリルとはDJ・アートディレクション・ストリートウェアなど音楽を中心に多様な活動をするグループであり、この活動でプレストンはニューヨークストリートのアイコンとして知られていく。また、プレストンはカニエ・ウエストのクリエイティブ・コンサルタントとして「イージー(YEEZY)」にも関わっており、その点でも彼の知名度は上がっていた。

親友であるヴァージル・アブローとの出会いはチャットだった。そしてヘロン・プレストンが自らのブランドを立ち上げるアドバイスをしたのも、ヴァージル・アブローである。多くのストリートブランドと同様に、プレストンの服作りはTシャツから始まる。それが好評を受け、いくつかリリースしていくうちに新作のTシャツについてヴァージルに相談する。すると、ヴァージルはTシャツだけを作るのはもったいない、フルコレクションを作るべきだとアドバイスする。ヴァージルは、自らのブランド「オフ-ホワイト」をバックアップするイタリアのニューガーズグループ(NEW GUARDS GROUP)とプレストンを繋ぐ橋渡し役となる。

そうしてプレストンは、ニューガーズグループの生産・流通のバックアップを受けて、シグネチャーブランド「ヘロン・プレストン」を2017年にデビューさせる。以前からの活動による彼の知名度も相乗効果となり、デビューして瞬時に世界のストリートシーンを駆け上がり、一気に人気ブランドへとなっていく。

ヘロン・プレストンのデザインとはどのようなものか。

クレイグ・グリーンやキコ・コスタディノフと同じく、彼もワークウェアがスタイルのベースになっている。そこに様々なイメージの混合が起こる。プレストンのコレクションから私が感じたイメージを列挙していきたい。

消防士、ヒップホップ、ランニング、スケーター、宇宙、地図。各々のイメージが断片的につなぎ合わされ、スタイルが作られている。この特徴は、他のストリートブランドにも見られる傾向であり、私が最も注目する現代ファッションデザインの特徴だ。

プレストンの行うコラボは、他のストリートブランドとは一線を画す。ナイキとのコラボスニーカーという、ストリートの王道コラボはある。だが、プレストンらしいコラボといえば、まずニューヨーク市清掃局DSNY(The New York City Department of Sanitation)とのコラボがあげられる。

ワークウェアを軸にするプレストンらしい選択であると同時に、一見ファッション的魅力はないような場所=DSNYからファッション的魅力を見出すプレストンの審美眼は注目に値する。プレストンは、清掃局員から集めた素材をリサイクルしてコラボユニフォームを作る。

プレストンは社会課題に対してストリートウェアを通して解決を試みるという、独自のポジションを取っており、その姿勢が社会課題への関心が高い現代の若者たちから熱い指示を得ることに繋がっている。

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