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モードの教科書

言語化によってファッションデザインの理論化を試みるのには理由がある。

「ファッションをより面白くする」

 ひとえにその思いである。ファッションデザインの構造が明らかになれば、その構造を創造的論理で組み替え発展させ、天才肌の感覚派デザイナーとは異なるデザインで、ファッションをこれまでと違った境地へ到達させる新しいタイプのデザイナーが登場するかもしれない。

 前回は現在のファッションデザインの傾向から、そこに見え隠れする共通点を言語化して、現代ファッションデザインの理論化を試みた。今回はその理論がどう使われるのか、その具体例を示しながら解説していきたい。

 対象としたのは今や世界最高峰の一人となったデザイナー、ラフ・シモンズのデザインだ。

 ここでは、2タイプのデザインを例に挙げ、その構造を見ていきたい。2タイプとはカウンター型とフォロー型である。

 カウンター型とは、これまで何度も述べた通り、トレンドへの反動を起こして新境地のデザインを切り拓くタイプである。このタイプは、成功へのハードルは高いが成功すれば、モード史に刻まれ、時代を変革するほどのムーブメントを起こすケースが多い。

 一方、フォロー型とはトレンドをなぞりながら新しい解釈を加え、トレンドのデザインを更新するタイプである。このタイプは革新性は弱いが、時代のトレンドを的確に捉えるため、市場での人気を獲得しやすい。

 ラフがデザインを行ってきたブランドは、ジル・サンダー、クリスチャン・ディオール、カルバン・クラインとあるが、今回ピックアップするのは、ラフのシグネチャーブランド「ラフ・シモンズ」である。

 他のブランドではなく、「ラフ・シモンズ」を選んだのは、カウンター型とフォロー型の両面においてわかりやすい具体例があったからである。カウンター型では1990年代、フォロー型では2016AWシーズンがデザインサンプルとして好例だった。

 ラフのデザインは「モードの教科書」と呼んでもいいほど参考になるケースが数多くあり、とても勉強になる。ラフのデザインアプローチはもっと研究されていい。誤解を恐れずいえば、ラフはトレンドに忠実だ。かなり敏感と言ってもいい。 

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