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ベルリンクラブカルチャーとGmbH

*このテキストは「AFFECTUS subscription」「AFFECTUS letters」加入メンバー限定のニュースレター、「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年5月21日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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これまで幾度か述べてきているが、今の私はストリートブランドに対する興味が強くなっている。現在、モードシーンがカジュアルなストリートからフォーマルなエレガンスへ振れ始め、メインストリームが変わろうとしている。これは私の性格が理由でもあるのだが、そんなトレンドになると逆にストリートが気になってしまうのだ。

そして、現実的には市場におけるストリートへのニーズは未だに強く、人気が高くよく売れている。そこで、今回ピックアップしたブランドは、ベルリンのクラブカルチャーを背景にした「GmbH(ゲーエムベーハー)」である。

まずブランドの略歴について触れ、その後GmbHのデザインにフォーカスしたい。

ブランドの始まりは2016年と比較的新しい。ファッションフォトグラファーのベンジャミン・アレクサンダー・ヒュズビー(Benjamin Alexander Huseby)とメンズウェアデザイナーのセルハト・イシック(Serhat Isik)の二人が中心となり、ベルリンのクラブのダンスフロアで出会った10人ほどの友人たちと共にスタートした。

ブランド名のGmbHはドイツ語で「会社」を意味し、英語の「INC.」や「LTD.」と同じように使われる言葉になる。そこに込められた意味は、ブランドを構想した当初、できるだけ多くの人たちにブランドへ参加してもらいたいと考え、ブランド名を個人の名前ではなくグループを意味する言葉を選択したということだった。

また「会社」という言葉はジェンダーレスであり、ベルリンには多くの移民が住んでおり、多人種・異性愛・同性愛といった多様性を内包する意味もGmbHというブランド名には込められている。実際、GmbHが起用するモデルは中東、アジア、東欧など様々な背景の人々であり、国境や文化を横断して新しい価値観を作ろうとする姿勢がうかがえる。

これにはブランドを立ち上げた二人、ヒュズビーとイシックの背景も関係していた。ヒュズビーはノルウェー系パキスタン人、イシックはトルコ系ドイツ人で、彼らは中東系ということで不当な扱いを受けた経験がある。そのような他文化への理解不足に憤りを感じ、社会の意識を揺さぶろうとしている。

これは、私が最近気になる傾向なのだが、このような社会問題に対する姿勢をブランドコンセプトに取り入れ、それを商品デザインに投影させる例が見られるようになってきた。社会問題に対する意識が強いZ世代が消費を左右する存在になる今後を考えると、こういったソーシャルな姿勢は重要になるだろう。

GmbHにはサスティナブルな姿勢があげられる。当初、資金が少なかったため、デッドストックの生地を使うことからスタートしたことがきっかけになり、それがブランドの象徴にもなった。

以上が、GmbHの簡単な略歴になる。それでは次にデザインにフォーカスしたい。

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