見出し画像

イスラエルから生まれたモード

このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」のニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年4月30日に配信されたタイトルです。*サービスに加入するとニュースレターが購読可能

本文は以下から始まります。

***************


イスラエル出身で、現在はパリを拠点に活動するヘド・メイナー(Hed Mayner。)2019年のLVMH PRIZEファイナリストの中で、一人個人的な好みで名前をあげるとすれば、私の場合そのデザイナーはメイナーだ。

ジャケットやパンツ、シャツ、ジーンズ、Tシャツといった現代のワードローブに欠かすことのできないベーシックアイテムに、イスラエルの衣服解釈を織り交ぜ、アラブの伝統衣装と着こなしを投影させた洋服を作り上げている。その外観は、布をボリューミーに纏うことに長けた遊牧民が、現代の衣服を自身のセンスで着こなし、都会で暮らしているようでもある。

メイナーの服を見て、私の中に同種の系統として浮かび上がったブランドが2つあった。イッセイミヤケとヨウジヤマモトである。

イッセイミヤケとメイナーの違いで、わかりやすい点といえば装飾性の有無になる。イッセイミヤケは素材開発がDNAと言え、非常に特徴的な素材を用いている。そのパワーは素材だけで鑑賞作品になり得るほどだ。だが、ビジネス的観点で言えば、イッセイミヤケのシルエットは好きだけど装飾性高い素材が苦手という消費者はいるだろう。

メイナーの服はマーケットのその穴を突く商品になる。メイナーが使用する素材は外観にシンプルなタイプが多く、また色使いもホワイト・ベージュ・オフホワイト・ブラック・ブラウンとベーシックで、ミニマリズムの系譜に連なる都会的な雰囲気も醸す。イッセイミヤケの素材は、特殊なタイプが多いだけにその装飾濃度の濃さによっては老けて見えるリスクがある。

スタイルもメイナーはより現代的だ。イッセイミヤケもデザイナーが高橋悠介に交代後はカジュアルになり、ストリートのテイストも織り込まれてきたが、まだ従来のイッセイミヤケの伝統工芸的な側面が強い(しかし、それがイッセイミヤケの魅力でもある)。メイナーのスタイルには、セットアップ、ダッフルコート、フーディといったリアリティあふれるアイテムをベースにした手に取りやすく着やすい要素がある。

一方ヨウジヤマモトとの違いでは、イッセイミヤケと同じで装飾性があげられる。現在のヨウジヤマモトはダイナミックなグラフィックが最大の武器となっている。メイナーにはそのようなグラフィカルな要素は皆無と言っていいだろう。

また相違点としてもう一つ注目したいのは、ベースとなるスタイルの違いである。ヨウジヤマモトのベースはクラシックなエレガンス。1950年代に生まれたパリ伝統の王道エレガンスになぞることのできるテイストを持ち、布が身体の上を上質感を持って流れ、古風な美しさを持つ黒い服。それがヨウジヤマモトである。

メイナーはヨウジヤマモトよりもアーバンなエレガンスを持ち合わせている。先ほど述べたように、色使いやアイテムの種類で都市生活を過ごすのにマッチするクリーンなスタイルをデザインしている。無印良品がボリュームアップし、モードテイストを含んだとでも言えばいいか。

また、シルエットの面でも同じ平面性を生かしたように見えるが、メイナーとイッセイミヤケやヨウジヤマモトとの違いが見えてきた。

続きをみるには

残り 1,857字 / 1画像

¥ 500

サポートは新作のAFFECTUSの出版費用、執筆の活動費に使い、言葉がファッションを面白くする体験をもっと届けたいです。よろしくお願いします。