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既知でありながら、未知の服をデザインするアンブッシュ

*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年4月22日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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始まりはジュエリーブランドでありながら、後にアパレルラインを始動し、2017年LVMH PRIZEでファイナリスト8組に選出され、今や世界から注目を浴びるブランドがある。それが「アンブッシュ(AMBUSH®)」である。

2004年にYOON(ユン)とVERBAL(バーバル)の二人が、ジュエリーラインとして「アントニオ マーフィー&アストロ(Antonio Murphy & Astro)」をスタート。18金とダイヤを使用した代表作「POW!」が示すように、高額であったアントニオ マーフィー&アストロよりもプライスを抑え、ポップでユニークなラインとして2008年にスタートしたのがアンブッシュになる。

アンブッシュのアパレルラインは、必要性に駆られたことから始まる。ジュエリーのルックブックを撮影する際、他のブランドの服では世界観をうまく表現できなく、それならジュエリーとマッチさせる服を作ろうということになり、2012年からスタートしたのがアパレルラインだった。

当初はトップスばかりで始まったアパレルラインであったが、フルアイテムを揃えた2017AWシーズンがLVMH PRIZEの審査を通過し、セミファイナリストに選出される。

デザイナーのYOONは、韓国をルーツに持ち、アメリカのシアトルで育つ。当時、彼女が夢中になったのはグランジで、Nirvana (ニルヴァーナ) が大好きでよく聴いていた。グランジからはファッションの影響も大きく受けたと彼女は語っている。その後、ボストン大学でグラフィックとアート史を学び、大学時代にVERBALと出会う。

ブランドのディレクターを務めるVERVALは、ボストン大学では経済と哲学を学ぶ。m-floやTERIYAKI BOYZ®のメンバーでもあり、アンブッシュではディレクターとして主に経営面を担う。二人はビジネスパートナーであると同時にプライベートでは夫婦でもある。

YOONはキム・ジョーンズ率いる「ディオール メン(Dior Men)」のジュエリーデザイナーにも起用され、活動のフィールドを拡大させている。エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)やカニエ・ウェスト(Kanye West)、レディ・ガガ(Lady Gaga)、リアーナ(Rihanna)といった現代のスーパースターもアンブッシュを愛用し、ブランドの人気は高まっている。

売上高も詳細は公表されていないが、2桁億円台にまで伸びてきている。(*東洋経済「ストリート系「AMBUSH」世界で注目される理由」より)

今回、フォーカスするのはジュエリーではなくアパレルラインのデザイン。アンブッシュの服にはどのような特徴があり、魅力となっているのか。そのデザインを探っていきたい。

私はアンブッシュのコレクションを初めて見たとき、困ってしまった。形容するにふさわしい言葉が見つからなかったのである。

YOONはグランジから影響を受け、過去には不良のキッズたちを写すスイスの写真家カールハインツ・ワインバーガー (Karlheinz Weinberger)をテーマにするなど、彼女のデザインにはアンダーグラウンドでデコラティブな要素が際立つ。

一見するとそれは現在のキング、アグリーな(ダサい)ストリートスタイルに通じる。

しかし、だ。

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