現代と戯れる山本耀司のY-3

 今、山本耀司のシグネチャー「ヨウジヤマモト」が若者たちの間で人気となり、そのダイナミックなグラフィックデザインはブランドの新しい武器となってInstaglam時代の今にふさわしい美しさを獲得している。

 しかし、ここで完璧に全くの主観を述べさせてもらうと、今の僕はヨウジヤマモトよりも、山本耀司がデザインするもう一つのブランド「Y-3」が好きだった。そこには、僕が見たいと切に望んでいた山本耀司の姿がある。

 2009年の経営破綻を乗り越えて復活してきた今のヨウジヤマモトには、現代のトレンドを鷲掴みにした迫力がある。

「お前ら、これが欲しいんだろ」

 そう挑発するような、自信に満ちた大胆不敵さが迫ってくる。服をキャンバスに見立てたような、迫力満点な絵画調プリントはウェアラブルペイントと呼びたくなり、服を小説のように見立て、紙の上に書き殴られたように連なる日本語の一群が強烈なメッセージを訴えてくる。

 いずれのグラフィックデザインも「Instaglamなエレガンス」を表現した、時代ど真ん中のデザインだと言える。それは確かに新しいエレガンスを提示されたようで、とても魅力的だ。一方でこうも思う。やっぱり、僕にとって山本耀司最大の魅力はその「布さばき」なんだ、と。人間の身体に布をまとわせて、どこに量感を入れてどう布を流すか、その布さばきの美しさこそが僕にとっての山本耀司だった。

 今のヨウジヤマモトは新しい魅力がある。それは間違いない。けれど、その豪放磊落な人間的ダイナミズムに満ちたグラフィックデザインがあまりに強烈で、僕が見たい山本耀司の美しい布さばきをコーティングしているようにも感じてしまう。

 僕はやはり山本耀司の技術と知識と感性が凝縮された、世界最高の布さばきが見たい。しかも、そこにInstaglamなエレガンスとは異なる現代の感性を捉えた姿で。

 その僕の望みを叶えてくれているのが、Y-3だった。

 アディダスのアイデンティティであるスポーツは、人々を歓喜させもするが、残酷な現実を突き付け落胆もさせる。スポーツは人間のリアルをあぶり出す。そのリアルを何よりも大切にするのが、今という時代。自分をカッコよく見せるだけの行為はカッコ悪く、自分のカッコ悪さも晒してユーモアを獲得することがカッコいい。その価値観にフォーカスするには、グラフィックデザインをメインにすることよりもふさわしい選択肢がある。

 人間のありままを投影した服。つまり人間の動きを個性として捉えた服があればいい。それを可能にするのが、山本耀司の布さばきだ。彼が人間に布をまとわせれば、身体が動くたびに服は個性化していく。

 ある人間とある人間が同じ動きをする。それは似た動作であっても、完璧に同じではない。二人の動きにはズレがある。そのズレがニュアンスを生み、人の動きを個性的にする。「あの人のあの仕草、いい」といった具合に。服には身体の動きという個性をより魅力的に見せる力がある。裸で見せる身体の動きよりも、服を着た身体の動きの方が美しく見える服が世の中にはあるのだ。そんな服を現実化するのが山本耀司だった。ヨウジヤマモトよりもグラフィカルな要素が抑えられ、布の表情が読み取れるY-3は、Instaglamなエレガンスでは味わえない味を堪能させてくれる。

 山本耀司が愛する黒は、Y-3でも健在だ。しかし、その印象は異なる。ヨウジヤマモトの黒がクラシックなダンディズムを漂わすなら、Y-3の黒はソフィスティケイトされたモダニティを匂わす。ヨウジヤマモトがどう生きてきたかという、これまでの生き様を表す服なら、Y-3はどう生きていくかという、これからの生き方を表す服。Y-3は未来に向かって、早足で歩いていく。そのイメージをいっそう魅惑的にするのが、山本耀司の布さばきである。ショーを歩くモデルたちが、スニーカーを履いた足の角度を鋭く速く変えターンする。その瞬間たなびく布は、実に美しくその瞬間を彩る。

 そして、Y-3のスタイルは現代都市を生きる若者たちの姿を投影したかのようなカッコよさだ。綺麗だが従順なわけではない。佇まいの綺麗さの中に潜む反抗的な匂い。Y-3は山本耀司のセンスを、現代的感性の中で最も楽しめる服だ。

 かつてオートクチュールへ喧嘩を売った武器=最高の布さばきがアディダスのDNAと融合し、スポーティ&クールなスタイルに伝統的なエレガンスを吹き込んだモダンスタイルで若者たちを包む。山本耀司が現代と戯れるY-3を見ていると、彼のこんな語りが聞こえてきそうだ。

「へえ、お前らそういうのが好きなのか。俺も作ってみるか」

<了>


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