見出し画像

ストリートのマルタン・マルジェラ -モードな視点からシュプリームを読み解く-

 2018年現在、ファッション界のビッグトレンドとなっているのは言わずもがなストリートである。2014年にデビューしたヴェトモンによってストリートは一躍ファッション界の最前線へと進出し、コム デ ギャルソンのサポートによってゴーシャ・ラブチンスキーはビジネスが成長すると共に、一気に若者たちの間で人気を獲得していく(その後、ゴーシャ・ラブチンスキーは2018年4月に活動終了を発表)。

 ストリートはファッション界の最先端であるモードをも飲み込み、ファッションデザインに多大な影響を生む。キャップ、スニーカー、ロゴプリント、ビッグシルエット。ストリートのキーを、どのブランドも取り入れているのではないか。そう錯覚させるほどのムーブメントだ。

 その勢いは、とうとうラグジュアリーブランドのディレクター職にまで及ぶ。ルイ・ヴィトンはヴァージル・アブローをメンズディレクターに起用することを発表し、デビューコレクションを2019SSに披露。クリスチャン・ディオールは、退任したクリス・ヴァン・アッシュのメンズディレクターの後任としてキム・ジョーンズを指名。キム・ジョーンズは、エディ・スリマンとクリス・ヴァン・アッシュが作り上げてきたロックでエッジなそれまでのディオール オムとは異なる(クリスのデザインはエディとはまた異なる面はあるが)、新しいディオールの男性像を描く、甘く華やかなコレクションを2019SSに発表し、そのスタイルは本来ディオールが持つDNAを体現したかのようであった。しかし、モデルたちの足元を飾るスニーカーは、ストリートのDNAがしっかりと刻まれていた証明であった。

 こうして、ストリートはヴェトモンの登場からわずか4年という短期間の間に、ファッション界のトップオブトップまで到達してきた。そしてそのストリートの世界で圧倒的な支持を得て、ストリートのキングと言える地位にまで昇りつめたブランド、それが「シュプリーム(Supreme)」だ。

 スケートへの関心がなかった私がシュプリームを知ったのは、代官山にシュプリームのショップがオープンした1998年ごろだった。しかし、スケートに関心のなかった私は、その後もシュプリームのファッションに特別な興味を持つことはなく、現在まで続いてきた。

 だが、ここまでストリートがファッション界を席巻し、王者と言えるほどの勢力を増してきている中、その中心となるシュプリームへの興味がこれまで以上に強くなった。

「シュプリームとはいったい何なのか」

ここから先は

7,552字

¥ 500

サポートは新作のAFFECTUSの出版費用、執筆の活動費に使い、言葉がファッションを面白くする体験をもっと届けたいです。よろしくお願いします。