20181023_マルジェラ

マルタン・マルジェラ論 -1989AW-

 ファッションデザインの歴史上、一人デザイナーの名前をあげるとすれば、それはマルタン・マルジェラだ。なぜ、クリスチャン・ディオールでもココ・シャネルでも、イヴ・サンローランでも、川久保玲や山本耀司でもないのか。

 それはマルタンのデザインが、ファッションデザインの構造に革新をもたらしたからである。ファッションデザインは、彼の登場以前と登場以降に別れる。そう表現するのは、決して大げさではないだろう。

 すでにファッション界を去ってしまったマルタンだが、その影響力は未だ衰える気配がない。いや、むしろ姿を消してしまったことで伝説となり、影響力を増しているようにすら私には思える。

 マルタンのデザインを知ることは、現在のファッションデザインを理解することにつながり、新しいデザインを生み出す礎にもなる。私はそう考え、今回のシリーズを始めることにした。これも私の勉強のためでもある。私自身、マルタンのデザインを理解しきれていない感触がある。マルタンのデザインを読み解く過程を、シェアできたらと思っている。

 そして、そこから私以外の誰かが書くマルタン・マルジェラ論を読むことができたなら、望外の喜びである。私は、マルタンについての様々な視点と解釈を強く欲している。これほど、ファッションを読むことを堪能させてくれるデザイナーは他にはいない。

 いったい、何が彼のデザインの特徴となっていたのだろうか。

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