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伝統の美を愛でるセンスを持つステファノ・ピラーティ -後編-

 後編となる今回は、いよいよピラーティのデザインの特徴を言語化していきたい。同時、今回がnoteにアップする最後のLOGICAZINEとなる。

サンローラン時代

 まず注目したのはサンローラン時代のピラーティのデザインだ。彼のサンローランデビューは2005SSメンズコレクションになる。このデビューコレクションには、ピラーティのDNAが如実に現れている。

 チョークストライプのダブルのジャケットスタイル。これぞクラシックと呼ぶにふさわしいスタイルだ。2005AWではジャケットスタイルが多く登場するが、シャツやブルゾンを用いたカジュアルスタイルも登場する。しかし、そのスタイルにルーズさは無縁で、気品ある佇まいを決して崩さない。

 ピラーティのDNAはクラシック。ファッションに根付く伝統の美を愛する彼の姿勢が、デビューコレクションから表現されている。

 その姿勢はウィメンズでも変わらない。

 しかし、一気に自分のテイストをピラーティは押し出さない。トム・フォードの女性の身体をセクシーになぞるシルエットを引き継ぎながら、トム・フォードの挑発的セクシーを徐々にカットするアプローチでサンローランのウィメンズを堅実に、しかし確実に更新していく。

 メンズでは早くから自分の色を出したピラーティだが、ウィメンズではコレクションを重ねるごとに、自分の色を出していくアプローチを取っている。それはなぜか。これはあくまで推測になるが、ビジネス面の理由ではないだろうか。

 サンローランのビジネスはウィメンズが柱となるはず。そのウィメンズをトム・フォード時代から一気に更新することは売上への影響が大きい。そこでトム・フォードスタイルをベースに、徐々に自分の味付けを加え、それを新しい魅力としてさらに売上を伸ばしていこうという狙いがあったのではないだろうか。逆に、売上面への影響の少なさからメンズは自分の色を早くから出しやすかったとも言える。

 シグネチャーブランドのランダム アイデンティティーズでは、Instagramのストーリーズで2回も試作品を公表して反応を調べるという慎重さを見せたピラーティなら、考えられるアプローチだ。

 徐々にトム・フォードスタイルからの変化が見られたピラーティによるウィメンズだが、2007SSで完璧にトム・フォードから脱却する。

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