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ユニクロの実験装置としての役割を果たすUniqlo U

*このテキストは「AFFECTUS subscription」「AFFECTUS letters」参加メンバー限定有料ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年8月27日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

無料公開期間:2019年9月30日(月)まで

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ストリートウェアが世界を席巻する今、ついにはストリートとは縁遠いと思われていた、北欧ならではのテキスタイルデザインが人気の「マリメッコ(MARIMEKKO )」もストリートウェアラインを始めるまでになった。そのニュースを知り、驚くと同時にストリートウェアとは異なる服への欲求が私の中で強くなっていることを感じる。

ストリートウェア自体、私はとても興味があり、このLOGICAZINEでは何度もストリートブランドのデザイナーたちを取り上げて現在も注目している。しかし、ストリートウェアを何度も見ていくうちにこうも思い始める。

「派手なグラフィックデザインも複雑なディテールも、技巧を凝らした素材もいらない。欲しいのは気持ちいい素材感と、適度な量感の服。そこに柔らかく明るい色が数色乗れば満足」

一見すると面白みのない服かもしれない。創造性を競うモードでは見ることのできない服かもしれない。しかし、グラフィックデザイン推しの服に、少々食傷気味になっている私がいるのも事実で(好きな方には申し訳ない)、そんな私にとって一つ気になるブランドがある。

それはクリストフ・ルメールとユニクロのコラボライン「Uniqlo U(ユニクロ ユー)」だ。このラインがスタートしたのは2016AWシーズンであり、2019年8月現在、3年が経過したことになる。

モードファッションのデザイナーとユニクロのコラボラインと言うと、真っ先に浮かぶのはジル・サンダーと組んだ「+J(プラス ジェイ)」である。2009年に始まった+Jは2011年に終了しており、継続期間は2年であった。当初、Uniqlo Uが発表された時も私は短期で終わるのではないかと危惧したが、+Jの継続期間を超えるだけでなく2018年7月にユニクロはルメールとのパートナーシップ契約を5年更新した(同時にルメールのシグネチャーブランド「ルメール(LEMAIRE)」に約49%出資したことも併せて発表する)。これはユニクロがルメールとのコラボに高い評価をしている証明になる。

Uniqlo Uのデザインはシンプルだ。シンプルな服はマーケットを広げる。しかし、シンプルな服ゆえにデザインを差別化するハードルが上がる。

シンプルな服はデザインできても、シンプルな服をデザインし続けるのは難しい。シンプルな服で売れ続けることは難度のハードルが高い。この難題に、ルメールはUniqlo Uでどのように挑んできたのだろうか。

Uniqlo Uのデビューコレクションである2016AWから最新コレクションの2019AWまでを観察すると、強く感じたことがある。

「一貫してデザインが変わっていないように見えるのに、新鮮さがさりげなくシーズン毎に感じられてくる」

私に訪れたこの感覚はいったいどういうことなのか。

デビュー以来、Uniqlo Uにデザインの大きな変化は起きていない。いつのシーズンも同じ印象を抱く。ステンカラーコート、ダウンコート、デニム、Tシャツ。毎回のコレクションで構成されるアイテムは、ユニクロでも販売される服のスタンダードであるベーシックアイテムで、そこに尖ったデザイン要素はない。極めて普通だ。スタイルにしたってそうだ。アイテムのスタイリングにも変化がない。色使いも同様である。青・緑・茶・赤と色数は多様であるが色味は鮮やかではなく、くすんだ色味で落ち着きをもたらす。

では新鮮さを感じた理由はどこにあったのだろうか。Uniqlo Uの全コレクションを通して見ていくと次第に判明したことがある。とても緩やかに変化が生じていたのだ。

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