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混沌さと共に変化するパーム・エンジェルス

*このテキストはサービス「AFFECTUS subscription」と「AFFECTUS letters」加入メンバー限定ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年7月9日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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この1ヶ月半、国内外のストリートウェアに関する資料を調べて私が感じたのは、ストリートウェアはスケートのようにある一つのカルチャーが起源になり、発生しているということ。

だが、そこから進化を重ねた現代のストリートウェアは単一のカルチャーのみを反映しているわけではなく、今ファッション界を席巻するストリートブランドの多くは、いずれもデザイナーが影響を受けてきたカルチャーや体験を、相性というものをさほど重視せず、いくつもつなぎ合わせてスタイルを作り上げている。ストリートウェアには綺麗にまとまっていない雑多な雰囲気がある。それも、デザインの構造が理由ではないかと思われる。

今回のパーム・エンジェルス(Palm Angels)も、その構造を持つモダンなストリートウェアだ。

パーム・エンジェルスのコレクションアーカイブを2017SSから、先月発表を終えたばかりの最新2020SSまでを見終えると、私の頭にあるフレーズが浮かんできた。それは「ストリートギャングとイタリア絵画」である。

イタリア絵画という印象を感じたのは2018AWコレクションを見たときだった。このコレクションは男性モデルが頭を目出し帽で覆い、目元にはサングラスをかけるというギャングスタイル。頭を覆う目出し帽や女性モデルのヘアバンドには、銀色の細い棒が何十本も取り付けられ、まるで針が大量に刺されている剣山みたいになっており、鋲を打ち込んだウェスタン調シャツやジャケット、黄色×黒 or 赤×黒チェックといった素材も使われ、かなりパンキッシュな味付けが施されている。

一連のスタイルの中に、褪せた色調の20代から30代前半と思われる女性と、メガネが掛けた70代ぐらいの男性の顔をダイナミックにプリントした素材を使ったパンツやシャツ、スカートが登場するのだが、そのプリントの持つ雰囲気は、ボッティチェリやラファエロといった15世紀に活躍したイタリアの芸術家たちが描いた絵画の色調を連想させた。

さらにはデニムやワークウェアのディテールも組み合わされ、パンク、ギャング、イタリア絵画、加えてスポーツ、ウィメンズはロングドレスも混ぜられ、大量のイメージが一つのコレクションの中でつなぎ合わされている。

このスタイルに調和のとれた美しさを感じるのは不可能であり、従来のファッション的美意識に照らし合わせると、パーム・エンジェルスのスタイルに魅力を感じるのは無理だろう。

シーズンは前後するが、2017SSコレクションはブレザーやスウェットといったプレッピーな要素が強い。プレッピーとは、アメリカのアイビーリーグなどの名門大学に入学するための進学コース、名門私立高校(プレパラトリースクール)に通う裕福な家の子供である学生たちが着ていたスタイルのこと。

そう言うと、上品で綺麗にまとまったスタイルが連想されるかもしれないが、若い時期の反動と言えるように彼ら彼女らはその育ちの良さを隠す、少しヤンチャな色使いや着崩しで伝統的アメリカンスタイルを着ている。名門大学派生のスタイルにアイビーもあるが、アイビーよりも若々しい。プレッピーが高校生、アイビーが大学生のスタイルと表現するのが感覚的にわかりやすいかもしれない。

2017SSのパーム・エンジェルスはプレッピーのイメージが強いのだが、翌シーズンの2017AWになるとスウェットやブレザーといったプレッピーアイテムが消失し、フード付きアイテム、ボリューミーなシルエットのダウンやキルティングのブルゾン、チェック、柄、ロゴなどグラフィックデザインが大量に施された素材も増加し、頭をフードで覆ってサングラスを掛けたモデルの姿はストリートギャングのイメージを一気に加速させる。

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