20190226_複雑なタイトルをここに

新しい考え方を手にいれる

*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年3月12日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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3月7日、楽しみにしていた本が届く。その本のタイトルは“複雑なタイトルをここに”(INSERT COMPLICATED TITLE HERE)。この本は、オフホワイト(Off-White)のデザイナーであり、現在はルイ・ヴィトン(Luis Vuitton)のメンズ・アーティスティック・ディレクターも務めるヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が、2017年10月26日にハーバード大学デザイン大学院で行った特別講義の内容を収めたものである。

この本は本文自体のページ数が約70ページで、とても短い。読み始めれば1時間もかからずに読み終えるだろう、とてもシンプルな本だ。しかし、そのシンプルさの影に、ファッションデザインにおける重要なことをヴァージルはさらっと語っている。そこに記されているのはクリエイティビティを発揮するための考え方。ただし、その語り口が軽快であるがゆえに、その重要であるはずの考え方を見落としがちにもなる。

今回は、私がこの本を読んで興味を惹かれたヴァージルの「考え方」(それはビジョンと言ってもいい)を3つ紹介したい。

一つ目はロジックの応用である。冒頭でヴァージルは、建築の世界で学んだ方法のロジックが、他の分野でも使えることを述べている。これはとても重要な考え方だと私は感じた。今の時代、インターネット上やamazonは、多くの成功エピソードが書かれたテキストで溢れている。大事なのはそのエピソードを知ることではなく、成功を導いた方法論を抽象化すること。

例えば、ある美味しい料理があったとする。その料理の特徴は何かと、皿の上の料理を観察する。すると、ある一つの特徴に気がついた。この料理は素材に極力手を加えず、素材の持つ独特の食感と味を生かす点に、美味しさの特徴があった。その料理法をこう抽象化する。

「素材の特徴を武器に変えていく」

つまり、素材が持つ武器を探すという考え方ではなく、素材が持つ特徴をどうしたら武器になるかと考えていくアプローチである。このように抽象化することで、他の分野でも応用が可能になる。素材はモノとは限らない。人間の場合もあるだろう。ある人間を見るときに、長所・短所という見方はせず特徴を捉えるようにする。そうすると、世の中の常識では短所に見えるものもフラットな視線で見ることができ、武器への転換方法が考えやすくなる。

方法論の応用=抽象化ができるからこそ、ヴァージルはイケアやナイキ、昨年村上隆のギャラリーで発表したアートプロジェクトなど、ファッションにとどまらない幅広いカテゴリーで、自身のクリエイティビティを発揮することができている。そうして自ら実践して体験した方法論をさらに抽象化し、次の新しいプロジェクトへ応用することも可能になるだろう。その連続で、クリエイティビティとスキルは磨かれていく。

二つ目は自分のシグネチャーを探すこと。ヴァージルは講義でこう問う。

WHAT 'S YOUR SIGNATURE

「あなたのシグネチャーは何か」。彼は、この問いの答えを見つけることの重要性を指摘する。

シグネチャーとは何か。ヴァージルはこうとも言い換えている。それはDNAである。つまり「自分が自分であるためのもの」、それが何なのか見つけることが必要だ。好きでも嫌いでもない、その体験・物事・文化があるからこそ今の自分がある。そのエッセンスを投影させてデザインすることで、あなただからこそのオリジナルの魅力を放つプロダクトが完成する。

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