カリビアンカルチャーとパブロ・ピカソの融合
*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年5月14日に配信されたタイトルです。
本文は以下から始まります。
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2019AWシーズン、新生ニナ・リッチが見事なコレクションを披露した。ブランドの舵取りを託されたのは、ルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)とリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)という二人の若き才能だった。
ニナ・リッチといえば、女性の持つ繊細さにフォーカスし、その繊細さを美しく可憐に見せていくスタイルが印象深いブランドである。2007年から2009年までアーティスティック・ディレクターを務めたオリヴィエ・ティスケンスはニナ・リッチの可憐な美しさに、自身の持つダーク&ゴスな一面を溶け込ませ、悪魔的な妖精と呼びたくなるドレスを軸にしたロマンティックなコレクションを披露した。
その後、2009年から2014年までディレクターを務めたピーター・コッピングは、繊細で可憐な世界観をキープしつつ、よりリアルな視点を持ち込み、コンサバティブなスタイルを見せる。彼が手がけたコレクションは「淑女」という表現がよく似合う。
そして、2014年から2018年までディレクターを務めたのは、カルヴェンを人気ブランドへと押し上げたギョーム・アンリだった。彼はコッピングのレディライクなスタイルを引き継ぎつつ、徐々に現代のモードコンテクストに寄せていく。ストリートから派生したカジュアルの波に、ニナ・リッチを乗せていったのだ。ゆっくりと、少しずつ。
ティスケンスとコッピングのニナ・リッチは、ドレッシーな側面が強かった(特にティスケンスは)。しかし、アンリはドレッシーな側面を弱めていき、ジャケットやパンツなど現代女性のデイリースタイルをベースにしていく。可憐で繊細なニナ・リッチの世界観はそのままに。
そのプロセスを経てアンリの後任として就任したのが、ボッターとヘレブラーのデザイナーデュオだった。
現在、モードシーンにおいてストリートからフォーマルへの移行が始まったからなのか、メンズウェアがデザインの潮流として現れ始めた。近年注目のデザイナーはメンズブランドから現れることが多く、イエールやLVMH PRIZEといった新しい才能を発掘するファッションコンペでは、メンズブランドがグランプリを獲得することが多い。
ボッターとヘレブラーのシグネチャーブランド「ボッター(BOTTER)」も、メンズブランドである。二人はメンズウェアの構築感を、ニナ・リッチへ持ち込み、ブランドをより現代的にしていく。
ニナ・リッチにおける二人のデビューコレクションとなった2019AWシーズンでキーアイテムとなったのは、テーラードジャケット。
ジャケットとパンツのセットアップスタイルはもちろん、ミニドレスにジャケットをスタイリングするなど、メンズライクな匂いを強めている。シルエットには、従来のニナ・リッチ的優雅さを漂わすドレープ感があるのだが、そこにスクウェアなシルエットのジャケットが織り交ぜられ、不思議な差異を生み、美しい調和とは異なるシンプルながら違和感ある魅力を放っていた。
例えるなら、大きく広い白い部屋の角に、白く綺麗に輝く砂が山積みされているような、そういう現代アート的な不可思議さが香ってくる。
アグリー(醜い)スタイルのエレガンス化。そうとも言えるスタイルを披露し、私は二人のデザインに対して一気に興味を強めていった。
ルシェミー・ボッターとリジー・ヘレブラーとは、どのようなデザイナーなのか。二人のルーツが投影されたシグネチャーブランド「ボッター」のコレクションに触れていきたい。
ルシェミー・ボッターは、カリブ海にあるオランダ領キュラソー島の出身であり、ベルギーの名門アントワープ王立芸術アカデミーを2017年に卒業。リジー・ヘレブラーは、ボッターと同じくカリブ海にあるドミニカ共和国の出身で、オランダのアムステルダム・ファッション・インスティテュートに入学し、「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR&ROLF)」でのインターン経験を持つ。ボッターの卒業後、二人でシグネチャーブランド「ボッター」をスタートさせた男女のデザイナーデュオである。*以下「ボッター」はブランド、ボッターの表記はデザイナーを意味する。
ボッターとヘレブラーの二人は昨年2018年、世界の2大ファッションコンペに挑む。LVMH PRIZEとイエールモードフェスティバルだ。「ボッター」は両コンペで同時にファイナリストへ選出されるという快挙を成し遂げる(2017年にマリーン・セルも達成)。LVMH PRIZEではグランプリ獲得とはならなかったが、イエールでは見事グランプリを獲得する。今、二人は世界のファッション界で、注目度の高いデザイナーだと言えよう。
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