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時代性を獲得するイッセイミヤケのメンズウェア

*このテキストはサブスクリプションサービス「AFFECTUS subscription」加入メンバー限定サービス、メルマガ「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年4月9日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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今、一人の消費者として気になるメンズウェアがある。それは「イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)」である。イッセイミヤケのDNAと言えば、先端技術や日本伝統の技法を硬軟自在に取り入れた素材だろう。精緻な研究が凝縮された素材は、イッセイミヤケの根幹を成していると言える。

しかし、ここで主観を述べさせてもらえれば、私はイッセイミヤケの素材が苦手だった。服の素材というよりも、布という物体にフォーカスを当てたプロダクトデザインのように思え、あまりに素材のインパクトが強く、服そのものに魅力が感じられることが私にはなかった。服のための素材ではなく、素材のための服とでも言えばよいだろうか。

しかし、私がイッセイミヤケに抱いていた感覚に変化が生じる。その要因となったのは、2014SSシーズンにメンズラインのデザイナーに就任した高橋悠介のデザインに他ならない。

なぜ、それまで苦手であったイッセイミヤケの服に魅力を感じるようになったのか。以前にAFFECTUSでも一度ピックアップしたイッセイミヤケのメンズウェアだが、今回のLOGICAZINEでは、私個人の感覚を深掘りすることでデザインの価値が何を理由に変遷していくのか探っていき、イッセイミヤケのメンズデザインを改めて紐解いてみたい。

今回、近年の中でも私が特に秀逸だと感じる2019SSメンズコレクションを軸に述べていこうと思う。

高橋以前の、私にとってイッセイミヤケのコレクションは、素材の可能性を探求するプロダクトデザインだった。だが、高橋のデザインには「スタイル」が先立つ。イッセイミヤケの世界観を反映しながらも、彼自身が今の時代にクールだと思えるファッションを打ち出しているように私は感じる。

なぜ、そのように感じたのか。それはファッションデザインのコンテクストがデザインの中に入り込んでいるからである。

2019SSコレクションでは、ストリート・デコラティブ・ビッグシルエット・アグリー(ugly:醜い)といった現在のファッションデザインのコンテクストが高橋流に解釈され、シックな大人の気品を漂わせながらも(従来のイッセイの顧客にマッチするであろう匂い)、ゆったりとしたシルエットにカジュアルな装いがストリートの残像を刻むスタイルとして(イッセイに新しい顧客を惹き寄せる要素)、イッセイミヤケならではの装飾性に満ちた素材がある種の癖=アグリー(現在のコンテクストの主流)を帯びながらブランドの中に昇華されている。

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