世界観表現と課題解決型のデザイン

ファッションデザインはこれからどうなっていくのか。時代は進化のスピードを緩めない。最新テクノロジーはそのスピードを後押しする。そういった時代背景を考えたとき、ファッションデザインにはどのような方向へ進む可能性があるのか。そのことについて、最近感じていたことを書いていきたい。今回は1万字を超える過去最高ボリュームとなる。ブログをスタートした当初の「簡単に読みやすく」というテーマは、忘却の彼方に吹き飛んだ。

これまでのファッションデザインは、憧れを作ることが仕事だった。デザイナーが自身のアイデンティティを濃厚に表現した世界観が、消費者に憧れを抱かせ、それがブランドの消費につながっていった。モードといわれるカテゴリーに見られる極めてポピュラーな、ファッションの王道をいくデザインと言える。今回、そういったファッションデザインを「世界観表現」と呼ぶ。

一方で世界観表現とは異なるファッションデザインが現れ始めている。僕が「課題解決型」と呼ぶデザインだ。それは、パリやミラノといったモードの場ではないアメリカから登場している。アメリカといってもニューヨークコレクションのことではない。ベンチャーキャピタルを賑わすファション系スタートアップと言える、アメリカの若い企業が生み出すデザインだ。

今から紹介する企業は、その商品を実際に見ているわけではない。あくまで写真を見ての印象になるので、そのあたりご容赦願いたい。ただ、写真を見た際に商品に魅力を感じるかどうかはとても大切な要素になるので(特に現代では)、そのハードルを個人的にはクリアしているデザインとしている。もちろん、実際の商品を体験した際に意見が変わる可能性はあるだろうが。

話を進めよう。

代表的な例で言うと、今日本国内でも話題の「EVERLANE(エバーレーン)」があげられる。透明性をコンセプトの一つにし、原価の内訳を公開し価格の妥当性をアピールし、かつ同ブランドの商品を生産する世界各地の縫製工場を「美しい写真」で紹介し、生産環境のクリーンさを公開している(美しい写真でカッコよさを感じるのもポイント)。商品はユニクロよりもオシャレ層をターゲットにしたような、ユニクロをさらに上品でスマートにしたベーシックアイテムのシンプルなデザインだ。

また、エバーレーンはDirect to Consumer(D2C)というオンラインショップでのみ商品販売を行う、オンラインSPAとも呼べるビジネスモデルである。生産から販売まで一気通貫で自社で管理し、コストカットするのがこれまでのSPAだった。しかし、D2C(オンラインSPA)はさらに店舗運営のコストまでカットする。その浮いたコストを商品開発やカスタマーサービスに投資していくことで、さらなる満足を顧客に届けようとしている。だからこそ、エバーレーンは価格以上に価値を感じられる商品を提供でき、その商品に顧客は満足し、業績を伸ばしているのだろう。ちなみにエバーレーンは売上は公表していないのだが、こちらの記事によると(「原価も工場もすべて見せる『透明なブランディング戦略 ー EVERLANE』)2013年売上高は1200万ドル、2014年売上高は3600万ドルとのこと。

ファストファッションの縫製工場を疲弊させる生産体制への憤り、価格の妥当性といった人々がファッションシステムに抱いていた疑問を、服と服の生産背景を「美しく」公開しながら、服の買い方までに及ぶ課題に対する解決案を提案している。言い換えれば、エバーレーンは服という商品だけでなく、服の生産背景とその背景の伝え方、服の買い方までデザインしている。まさに、本来の意味でのデザイン=設計と言える。ファッションデザインの意味を捉え直し、その領域を拡張した。

ただ、エバーレーンの場合、服そのものに面白いコンセプトがあるわけでない。その点、デザインに面白さを求める層には物足りない面もあるだろう。そこで僕がデザインに面白さを感じたのが、主力商品は服ではないがエバーレーン同様にD2Cをビジネスモデルとし、スニーカーが主力商品というサンフランシスコに本社を起く「Allbirds (オールバーズ)」だ。このスニーカーがシリコンバレーで人気となっている。

このスタートアップを創業したのは、元プロサッカー選手のティム・ブラウンとバイオテクノロジーの技術者ジョーイ・ズウィリンガー。オールバーズのスニーカーの特徴は、素材にニュージーランド産のスーパーファインメリノウールを使用していること。このスニーカーを履いた人々の感想を読んでみると、皆一様にその履き心地を賞賛している。メリノウールの素材感は肌にとても優しく、軽量で換気性と伸縮性に優れ、寒いときには温かく暑いときには涼しいと評価され、そのレビューを読んでいると、メリノウールの靴下をそのままスニーカーにしたイメージが浮かんできた。そのイメージを想像した時、「面白いな」と僕は心の中でつぶやいていた。その気持ちいい素材感を十分に堪能したくて素足でスニーカーを履きたくなる。そして、その気持ち良さそのままに街を歩きたくなる。そんな気分を加速させるスニーカーに思える。

デザインはランニングシューズタイプとスリッポンタイプの2種類。外観にはロゴはなく、装飾的要素は一切なし。その軽快で気持ちいい履き心地をそのまま視覚化したような、シンプルなフォルムでクリーンさを感じさせるデザイン。そして価格は、2種類とも95ドルとお手頃だ。

僕はその外観のニュートラルな雰囲気と、実際に履いた人々の感想を読んでいるうちに「気持ちよさそう」と感じ始め、とても履きたくなったし欲しくなった。現在、日本では本格展開されていないのがとても残念だ(価格が高くはなるが入手すること自体は可能)。ファッションアイテムを見て、「かっこいい」ではなく「気持ちよさそう」と思わせ物欲を刺激させられたのは、とても珍しい経験だった。エバーレーンがユニクロをスマートにクールにしたものとするなら、オールバーズは無印良品にスマートさとクールさを持ち込んだと表現できる。気持ち良さとカッコよさが両立したスニーカーだ。ちなみに2015年の創業以来、オールバーズは合計2750万ドル(約29億円)もの金額を資金調達している。

オールバーズもエバーレーン同様にD2Cであるため、ショールーム形式のショップを運営している。現在日本でも、ショップには在庫を準備せず顧客が商品をその場で持ち帰らないで済み、後日発送するという形式の販売方法が徐々に増え始めている。

iPhone=スマホの登場で人々の生活は激変した。そんな現代にあって貴重で価値あるモノ、それは「時間」ではないだろうか。スマホはあらゆる情報や目的地までの最短ルートがその場で瞬時に調べられ、時間を効率的に無駄なく過ごすことを可能にした。スマホ登場以前の1時間と現在の1時間では、時間の密度が違う。同じ1時間でも現在は、スマホ登場以前よりも多くの様々な楽しみを体験できて濃密に過ごすことができる。

そんな現代にあって、大きなショッピングバッグを持って歩くことは煩わしい。ましてや、ファッションのショッピング体験は以前よりもプライベートを満たす主たる目的ではなくなった。余程のことがない限り、服は緊急性を要するものでもない。後日商品到着するにしても、デジタル機器での生活に慣れてきた人々にとって手書きで送り先を書くよりも、例え同じ時間がかかるとしてもデジタル操作のほうが心理的ストレスも少ない。パソコンやタブレットを使用してオンラインで後日発送の手続きを手軽にする。商品を持ち帰らずに済むことでショップを出る瞬間手軽になり、快適さをもたらす。その快適さのまま、映画を観たり美味しいお店へ足を運んだり友人と飲みに行ったり、様々な楽しみを体験しやすい方がいい。また、全色全サイズの商品を揃えるショールーム形式のショップなら、売り切れで試着できないということも回避できる。欲しい商品が「体験」できて、手に入れられる確率が格段に高まった。

「あなたの時間を、少しでも多くのあなたの好きなコトに使えるように」。D2Cのビジネスモデルには、そんなメッセージが潜んでいると僕は感じている。今後、人々の生活がますます進化する中で、時間はますます貴重なものになる。そういう時代背景を考えると、D2Cのビジネスモデルはさらに価値が増すと予想する。その一方で、商品購入後すぐに手に入れられる従来のリアルショップも、その価値を維持し続けるだろう。すぐに手に入る。やはりこの価値がもたらす満足感はとても大きい。ファッション界は、消費者の目的に応じて二つのビジネスモデルが両立していくだろう。

世界観表現の代表ともいえるデザイナーズブランドの販売方法は、卸がメインだ。卸の売上が好調になっていけば、直営店もオープンするブランドもある。現在でもそれらの手法が多くのデザイナーズブランドの主たる手法だろう。アメリカのファッション系スタートアップは、商品デザインだけにとどまらず、現代の時代背景を考えて顧客のショッピング体験までデザインしていく。どうしたら顧客のショッピング体験が向上するか、そこもデザインとして捉えている。オールバーズの共同創業者、ティム・ブラウンは2017年9月に投資会社から約19億円の資金調達を実現した際、こう述べている。

「小売業をもう一度考え直し、靴の試着方法をもう一度考え直し、全ての手順をとことん考える素晴らしいチャンスだ」/『「世界一履き心地の良い靴」が19億円を調達、販路拡大へ』より

デザイナーズブランドのデザイナーが、小売視点の発言をすることは稀だろう。おそらくほとんどない。オールバーズに限らず、ファッション系スタートアップはファッションビジネスを商品デザインにとどまらず、全方位でどうしたら「より面白く快適に便利になるか」を現代的な方法で提案することを模索している。そこがデザイナーズブランドとの大きな違いになる。

日本で僕が最近面白いと感じたケースは、 今年2017年5月に創業したばかりの「Flatt(フラット)」というスタートアップが運営するアプリ「PinQul(ピンクル)」だ。このアプリでは、ライブ配信でその場で気に入った商品をすぐに購入できるライブコマースを体験できる。ピンクルはインスタグラマーを起用し、彼女たちが本当に自ら良いと思える商品を情熱をもって伝えていく。そのビジネスで、新しい試みだと感じたのがインスタグラマーがデザインした商品を、ODMを活用しながらピンクルのプライベートブランドとして販売したことだ。

通常、既存のアパレル企業ではインスタグラマーを起用したブランドを立ち上げると、インスタグラマー自身のシグネチャーブランドとしてスタートさせる。しかし、僕がこのアパレル業界を長年見てきて感じるのは、インスタグラマーを始めとしたモデルやタレント(今回まとめてインフルエンサーと呼ぶ)がデザイナー(ディレクター)となるブランドは、継続性に問題がある。つまり長続きしない。梨花の「Maison de Reefur(メゾン ド リーファー)」はとても珍しいケースだ。ブランドが長続きしない理由は様々なものがあるのだろう。売上が伸び悩むケースもあるだろうし、デザイナー(ディレクター)であるインフルエンサーの情熱やデザインスキルの問題もあるだろう。

しかし、ピンクルのビジネスモデルなら継続性に課題が出てきたインスタグラマーが現れたら、新たなインスタグラマーを起用して新商品を提案できるので、そのインスタグラマーのフォロワーを新しく顧客化できる循環が生まれる。それがうまくいけば、プライベートブランドを成長軌道に乗せ、継続させていくことを可能にする。これは、これまでのインフルエンサーを起用するブランドの課題=継続性を解決する、とてもうまいビジネスモデルだと思う。僕の知る限りにはなるが、これまでお目にかかったことのないケースだ。

また、インスタグラマー自身が自ら本当に良いと思える商品をデザインして提案することは、インスタグラマーに企業の商品をPRさせる方法とは異なり、リアルさと情熱が生まれる相乗効果をもたらす。例え、その企業の商品をインスタグラマー自身が本当に気に入ったとしても、自らデザインした商品への愛情に勝ることはないだろう。その愛情こもる商品をライブで勧めていく。論理的ではないと思われるかもしれないが、売り手(作り手)がその価値を信じて自信を持って勧める商品は、魅力的に見え始め、消費者の物欲を刺激する。

結果、ピンクルはプライベートブランドの放送は6回ほどで合計3時間にもかかわらず、1ヶ月に数百万円という売上をあげる。方法の一つ一つを見れば、目新しいことではない。けれどその組み合わせ方が新しい。

インスタグラマーを起用したブランドではスタートと同時に何千万円と売り上げるケースもある。それに比べれば、数百万円は小さい売上金額だ。しかし、このサービスを発表しているのは、現役の大学生たちが今年創業したばかりの、世間的にまだまだ無名なスタートアップだ。しかも彼らはアパレル業界を経験してきたプロではない。そんな彼らが、新しい仕組みで数百万円の売上をわずかの期間で作ったことは特筆に値する。正直、僕は驚いた。すごいなと。

こういうケースがあると、売上金額の多寡だけでジャッジするケースを見る。しかし、それはとても危険だと思う。その背景も考えた上で、その数字が持つ価値をジャッジしないと、新しい才能や企業を見逃すリスクが高まる。大手企業が立ち上げた新規事業が売上数百万では問題だが、立ち上げたばかりの小さい会社なら数百万の売上でも成功と言えるケースがある。規模が違えば、数字の価値も違ってくる。このあたりは、クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』に通じる話だろう。

世界観について話したいと思う。

課題解決型にも世界観はある。ブランドや企業には世界観が絶対に現れる。どうしたって世界観は生まれるものだ。ただ、その世界観の濃さが世界観表現のブランドとは異なる。課題解決型はとてもニュートラルなのだ。強烈で鮮烈な世界観はない。オールバーズやエバーレーンのウェブサイトを見れば、それは感じていただけると思う。しかし、世界観が強烈ではない代わりに、消費者が手を伸ばしやすく自分の生活に溶け込ませることがスムーズにできるブランドになっている。それは憧れよりも共感が大切になってきた現代の時代背景とマッチする。

冒頭で課題解決型は最近現れた傾向と言ったが、厳密に言えばずっと以前から登場している。例えば、日本でいうなら無印良品。課題解決型のデザインの代表と言える。ユニクロもそうだ。それまでにはなかった低価格と高品質を両立させた課題解決型デザインになっている。海外に目を向ければ、ザラもその筆頭だ。モードでトレンドなデザインを、低価格で早期に実現して販売していく。ザラは高額商品のモードを手軽に楽しめるように提案した点で、課題解決型だ。ファストファッションは総じて課題解決型と言える。

そういった巨大ファストファッション企業とファッション系スタートアップの違いは、やはり売り方に現れている。ウェブの力を活用しながら、クリエイティブな発想で商品の売り方を革新させようとしている。その点が大きな違いとなっていると僕は考える。ファストファッションよりも、よりユーザーファーストになっているとでも言えばいいだろうか。

世界観表現と課題解決型、どちらが良い悪いという話ではない。そこに価値の差はない。どちらにも楽しみはあるし、気分や目的、予算に応じて消費者は選択すれば良いだろう。言えるのは、憧れを作ることがファッションデザインのメインだったが、時代の進化とともに消費者の暮らしを快適に便利にすることを重視するファッションデザインが現れてきたという事実だ。しかも既存の課題解決型ブランドとは異なる形で、テクノロジーを生かした提案をしながら。

世界観の強烈なモードは、やはり面白い。高揚感がある。現在、その王道的手法をストレートに実践しているのが、ラフ・シモンズがチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務める「Calvin Klien(カルバン・クライン)」だろう。

ラフによる新生カルバン・クラインのデビューコレクションは2017AWシーズン。それに先駆け、ラフは鮮烈なビジュアルを発表する。美術館に展示されているアンディ・ウォーホルの作品を前に、若い男性モデルが白いブリーフ姿、女性モデルは白いタンクトップとルーズなフィット感のジーンズ姿で佇む「American Classics(アメリカン・クラシック)」と称されたビジュアルだ。美術館のクリーンで白い空間に、数人の男性モデルが白いブリーフだけを履いて全身の肌を晒す姿には、性欲を刺激しないセクシーと呼べるミニマムな空気が漂う。

特にそのミニマムなセクシーを表現したビジュアルが、同様にアンディ・ウォーホルの作品の前で、男性モデルと女性モデルがお互い上半身裸でジーンズを履き、男性モデルが女性モデルの露わになった胸を手で押さえつけて抱き合い、顔を寄せ合いキスをする直前のようなビジュアルだ。現実世界では見ることのできないファンタジー(白い空間の美術館でアンディ・ウォーホルの作品を前に、上半身裸で男女が抱き合う様のピュアな美しさ)が、このビジュアルでは表現されている。

そしてこのビジュアルを撮影したのは、ジル・サンダーやクリスチャン・ディオールでも仕事を共にしてきたラフの盟友ウィリー・ヴァンダピエールという世界の超一流フォトグラファー。ラフのカルバン・クラインはこれでもかというぐらいに、強烈な世界観を作っている。その手法は、まるでモードの教科書のようだ。

世界観表現のファッションデザインはエモーショナルだ。感情に訴えてくる。ゆえに、熱い高揚感を沸き起こす。僕自身それは今でも楽しい。しかし、次々とスタートアップが立ち上がり新しいサービスが発表されていく現代を思うと、こうも思えてきた。世界は急速にユーザーファーストへ傾いている。消費者のために我々は何ができるか。消費者第一主義と言える思考だ。

ファッションデザイナーが世界観の表現に注視するのではなく、顧客の課題の解決とその方法を設計して、ファッションとして表現し提案する。それを服だけでなく、服に関わるあらゆる領域を含んでデザインするという形で。これからの時代、ファッション界、特にモードの世界でもそちらにシフトしたファッションデザインが生まれる可能性を僕は感じている。

今、こんなにも便利になった世界でどんな課題があるだろう。個人それぞれが感じる課題があるとは思う。最後に、僕個人が感じる課題を述べて終わりにしたい。

それは創造性が狭まる危機感だ。例えば、ショッピングサイトには消費者の購入履歴から次のおすすめ商品をレコメンド(推奨)する機能がある。そこでレコメンドされる商品を見ると、確かに「あー良さそう、使ってみたい」と思える。しかし、本当に欲しいのは「え!?こんなのあったの!?すげー欲しい!!」と驚きをもたらす商品だ。つまり、現在自分には「想像もできていない商品」が欲しいのだ。想像もできていないから、何が欲しいのかもわかっていない。そんな商品から得られる未知の新しい体験が欲しい。その体験が、創造性を刺激し、新しい楽しみを生んでくれる。

ショッピングサイトだけではない。もし仮にSNSなどウェブで見るものすべてがユーザーの履歴データから参照にしたものしか表示されないとなると、とても怖さを感じる。自分が新しい体験を逃すように思えて。

以前、うる覚えだがTwitterでこのようなツイートを見かけた。「好きなものだけを見てしまうウェブと違って雑誌は、強制的にいろんなものを見てしまうから、思ってもないものに出会える面白さがある」。つまりはそういうことなのだ。

iPhone登場以前に、未来の携帯電話の姿としてiPhoneの形を思い浮かべていた人間は、世界中にどれだけいたのだろう。そして、そんな未来の携帯電話が、世界をここまで激変させることにまで想像が及んでいた人間はどのくらいいたのだろう。恐らくその人数は極めて少数に違いない。スティーブ・ジョブズはそんな世界を想像していた数少ない一人なんだろう。少なくとも自分は、携帯電話がiPhoneのような形になるとは想像もできていなかった。もちろん、その後の世界の激変もだ。むしろ驚くのは、iPhoneよりもその後の世界の変わりようだ。

僕がやりたいのは、ファッションで想像外の楽しみに出会える体験をテキストで実現させることだ。ファッションには「着る・見る・読む」の楽しみがある。今、その3種類の中で最もニーズが満たせていないのが「読む」だと僕は思っている。ファッションを読む体験を欲している人たちが、確実に世の中にいる。その人数は2000年代よりも増えているように思える。そのことを僕はブログやTwitterでモードばかりについて述べてきて、そこに対する反応で実感してきた。

以前Twitterで、写真が一切ないビジュアルゼロのファッションテキストメディアをやりたいと述べた。例えば、ヴェトモンについて様々な人々の論評を発表する。そこには様々な視点が生まれるはず。本当に同じブランドについて語っているのかと思えるほどの、視点の違いが生まれる可能性がある。そういう様々な視点に出会うことは、創造的な刺激と興奮をもたらす。読み手によっては、全く想像もしていなかった視点に出会うことだってあるだろう。その時、そこには面白さと興奮がきっとある。

また、そのテキストを執筆する人々はプロでもアマでも構わないと考えている。面白ければいい。面白い視点の持ち主たちが書くからこそ面白い。

世の中、実績や経歴を重視しすぎではないか?
そのことで、見逃している新しい才能はないだろうか?

僕がそのことを強く実感したのは、2020年東京五輪で問題になった新国立競技場建設とエンブレムデザインのコンペへの参加資格だった。両コンペとも受賞者数がかなり少数の、高名な賞の受賞歴が参加資格となっていた。そのことに対する批判も生まれた。

また、新国立競技場は再コンペとなった際、建築家単体の提案ではなく施工会社と組んでの提案ではないと応募できない『設計・施工一体型が条件』という規定になった。そのことで、最初のコンペで最終リストまで残っていたある建築家が苦戦していた。その建築家の名前は田根剛氏。最終リストの中で、競技場が緑の木々や蔦で覆われた案を覚えている方はいるだろうか。あの建築案を作ったのが田根剛氏である。田根氏も再コンペに出ようと思い、大手ゼネコンに打診する。しかし、結局はどことも組むことができず、再コンペへの応募を断念する。その様子が情熱大陸で放送され、憤りが伝わってくると同時に日本ではほとんど実績のない新しい建築家を採用するリスクを怖がる、とても日本的な匂いを強く感じた。

あくまでこの意見は、僕が見て感じた実感であり、実情は異なる点も様々にはあるだろう。しかし、そういう実感を持った人間がいたと考えてもらればと思う。

才能(商品)だけを純粋に見る世の中にしたい。そういうジャッジができる世界にしたい。世の中のモノの見方を変えたい。その思いがある。それを自分で実現させたい。

テキストから創造的刺激と興奮を得ることが大好きな人たち。その人たちのためのサービス。様々な視点に出会うことの面白さを提供したい。個人の創造性を加速させるビジュアルゼロのファッションテキストメディア「AFFECTUS(アフェクトゥス)」。それが僕が感じる課題への解決方法=デザインとなる。

その解決方法の中で、服も役割を果たすようにする。あらゆる視点に触れる時、大切なことはなんだろう。僕はその一つに、気分がニュートラルであることだと考えている。あるがままの自然な状態。着ていて、そんな気分になれる服。それが現在僕が取り組む「 MISTER TAILER(ミスターテイラー)」の服になる。

ニュートラルな状態になる上で、ハードルとなるのは「ファッションは個性を表現する」という考え方だと僕は考える。ここでいう「個性を表現」とは、何かに憧れて意識してスタイルを作ること。そこには必要以上に自分を飾るリスクもある。ありのままのあなたでいることが気持ちよくて魅力的。そのために、身体の体型を個性と捉える西洋の服作りではなく、身体の動作を個性と捉えた東洋的視点の服作りを行う。服をまとった際に現れる人間の無意識の身体の動き。その動きに合わせて揺れる布の襞(ひだ)や陰(かげ)に現れる布の陰影を、着る人の個性として表現する。その東洋的視点で作る布の造形を、西洋のスタンダードアイテムへ落とし込んでいく。スタンダードアイテムを選択するのも、ニュートラルな状態を促進するため。スタンダードアイテムは日常の暮らしに溶け込みやすい。

「あの人のあの仕草好き」

自然とにじみ出る個性。そこに魅力があり、そんな服を着られたら自分を意識して飾る必要もなく、とても自然でニュートラルでいられる。そんな気分で、多種多様な視点のテキストを読んでもらうことが、創造的刺激と興奮を加速する装置となる。SNS全盛の今、自分を飾ることに疲れることはないだろうか?もし、ありのままの自分が美しく表現され、それが魅力と感じれてもらえたなら、それはとても心地いいことではないか?

ありのままのあなたを美しく見せる。だからこその東洋的視点でのフォルムの探求であり、気持ちいい素材感へのこだわり。気持ちいい素材を贅沢なシルエットで、気持ちよくカッコよく着てもらう。そしてその服を着ながら多種多様な視点のテキストを読んで、創造的刺激と興奮が加速する。そういうフローを僕は作りたい。

そしてエモーショナルな部分にも届けたい。誰も彼もが、自信を持って強気で生きていられるわけではない。「頑張れ」という励ましがマイナスになることもある。「頑張れ」よりも「その気持ち、わかるよ」という一言がプラスになることがある。その共感で救われ、生きる力がもらえること人々がいる。そのことを表現するビジュアル、そして動画を制作したい。動画は30秒か45秒ほどの短いシンプルなメッセージ動画で。

僕は今、卸を目指さず直接ダイレクトに服をお客さんに届けたいと思っている。そのためには資金が必要で、この2ヶ月ほど事業計画書作りに集中していて、資金調達を目指している。これまでとは違う、ファッションブランドのあり方を目指したくなったからだ。「ファッションを読むこと」が大好きな人たちのために。すべてはその思いが強くなったから。そのためには、服作りだけでなく服の伝え方・売り方まで行う必要がある。これまで以上の覚悟とリスクを背負って服を作り届けたくなった。簡単なことではない。特に資金を準備することは。しかし、諦めずやりたい。

いや、気持ちが諦めても身体が自然と実現に向かって動くのが僕の長所。そうでなければ、以前ブログで述べたように父親が白血病で入院したにもかかわらず自分の好きを貫かないし、今ここで諦めたら貫いた過去も意味がなくなる。その歩みが遅くなって、立ち止まることが何度もあるけれど、必ず進んでいく。進展がないときは、苦戦していると思ってもらえればと思う。それでも、僕はやりたい。今、自分が頭の中に描く服とその人間のイメージに、喜んでもらえる人たちがいると確信しているから。

だって、それがメチャクチャ面白そうなんだよね。

<了>

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