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見たことのないデザインは、どうしたら生まれるのか

*このテキストは「AFFECTUS subscription」「AFFECTUS letters」加入メンバー限定サービス、ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で2019年6月18日に配信されたタイトルです。

本文は以下から始まります。

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デビュー時から高い評価を得ていることを知りながらも、個人的にそのデザインの価値を判別しずらかったデザイナーがいる。それがロンドンのスター、クレイグ・グリーン(Craig Green)である。

ロンドン北西部出身のグリーンは、名門セントラル・セント・マーティンズでMA(修士)を取得し、卒業後の2012年、自らの名前を冠したシグネチャーブランドをスタートさせる。グリーンはデビュー早々に話題を呼び、2014年にBritish Fashion AwardsでEmerging Menswear Designerを受賞したのを皮切りに、ドーバーストリートマーケットでは早期から取り扱われ、2018年6月にはピッティ・イマージネ・ウォモでゲストデザイナーに選出、同年モンクレールが世界中から選んだ8人のデザイナーを起用したコラボライン「モンクレール ジーニアス」に参加し、第3弾コレクション「5 モンクレール クレイグ・グリーン」をローンチするなど、数多くの栄誉を勝ち取ってきた。

世界的に高い評価のグリーンだが、彼のデザインを何度見ても私はその魅力を捉えずらかった。知りたい。グリーンのデザインのどこに、どのような価値があるのか。私はその欲求がさらに強くなる。先日発表されたばかりの2020SSコレクションを見たことによって。

そこで今回のLOGICAZINEは、グリーンのデザインを深く観察し、彼の特徴を捉えることにする。

まず私はグリーンのInstagramアカウントにポストされているすべてを、過去にまで遡りチェックした。すると、そこでもう結論が出てしまった。グリーンのデザインがなぜ評価されているのか、もちろんこれは私の視点ではあるが、その結論が見えてきたのだ。

「今までに見たことのないメンズウェアをデザインしている」

言葉にすると、なんともありふれた表現だが、グリーンのしてきたことはそのフレーズに凝縮されている。

だからこそ、彼のデザインは見る者の美意識を刺激し、ファッション界で高い評価を獲得してきたのではないだろうか。

私がグリーンのメンズウェアの価値を捉えずらかった理由は、私自身の「好き嫌い」という観点の個人的趣向から外れていた点と、これまでに見たことのない服だからゆえの、理解する難しさだったのではないかと今はそう考えている。

グリーンは今までに見たことのないメンズウェアをデザインしているのだ。

彼のデザインのベースはワークウェアにある。ファンタジーからもっとも遠く離れた労働のための服。ブルーカラーのユニフォームをベースに、グリーンは自らの創造性の限りをぶつけてくる。グリーンのコレクションには、現実的に着られる服がある一方で、必ず挑戦的で挑発的、大胆で過剰な表現のデザインが発表される。保守的なメンズウェアでは信じられないほどダイナミックなデザインを。

例えば先ごろ発表された2020SSコレクション。ショー終盤に登場するデザインに、私は目が止まる。それは高揚感とは別の感情だった。

「いったい、これは何なのか……」

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