ヨウジヤマモト 2003SS

2002AWオートクチュールの開催期間に発表された、ヨウジヤマモト2003SSコレクション。これが、僕が思う山本耀司のベストコレクションだ。通常の春夏プレタポルテの発表時期よりも3ヶ月早く発表されたのが、このコレクションだった。オートクチュール期間に発表されたが、あくまでもこれは既製服のコレクション。特別で格別な挑戦がある服ではない。厳かに静かで潔い服だ。

服もシンプルであれば、ショーの演出にも特別さは一切ない。ただ音楽を背景に、モデルたちが歩くだけ。極めて普通。流れてくる音楽は「ボレロ」。派手さを徹底的に排除している。こんなショーを、豪華絢爛さを競うオートクチュール期間に発表したことに、山本耀司のギラギラした反発精神を感じる。そしてその反発精神は、服そのものにも宿っている。

布を使い、人間の身体をどんな技術でどう表現するか。服作りの原点。その技術で勝負しているように僕は感じた。このコレクションから感じるのは、そのことに集中している山本耀司の姿。デザイナーというよりは、服作りの職人という趣を感じる。

「首元から衿はこの分量で離そう」
「ダーツの位置はここで分量はこうだ」
「ウェストから足元に向かってのシルエットはこれで」

ボディと布に対して真摯に向き合う姿が見えてくるのは、気のせいだろうか。ファッションというより服を見せられている感覚だ。時代に受けようとか、そういうことではなく、山本耀司自身がそれまでの経験の中で培った美意識を、見る人に問う服に思える。「お前ら、これどう思うんだよ。ちゃんとわかるか?」というふうに。

モデルがジャケットの袖をまくり、ポケットに手を入れている。僕はその手の形に歪んだポケットにも美しさを感じた。ポケットに手を入れた時にも美しく見えるよう、ポケットの布の分量まで計算しているのでは。そう思えた。このコレクションは徹頭徹尾、至る所に美しさが「控えめ」に漂っている。女性の身体に布を沿わせては離す。服はその連続で作られていくもの。誰かを美しくするために、自分の技術と感覚のすべてをもって服は作るもの。そんな当たり前のことを、大切さを伴って思い出させてくれる。

僕がこのコレクションを好きなのは、そういった服作りの原点が美しいことを、教えてくれるからだ。服とは誰かのために、自分の技術と感覚を総動員して作るもの。僕はそう思っている。僕が最近感じる疑問は「自分の着たい服を作る」と言うデザイナーが多いこと。それを完璧に否定するわけではない。その考えはあっても良い。しかし、デザイナーという立場で世の中に服を出すからには、もう少し「誰かのため」という精神を感じさせる言葉を聞かせてくれてもいいのではないか。この山本耀司のコレクションは、その「誰かのために」という精神を強く感じる服で、その精神で作られた服には美しさが宿ることを教えてくれる。

服作りに技術は必要だ。だけど、日本は技術を重要視すぎるきらいがあって、僕はそれがどうも好きになれない。そこはデザインの本質ではないから。でも、感覚一辺倒で作ることにも僕は大きな疑問を感じる。立体の曲線である人間の身体に、平面の布をまとわせるのが服。そこに技術は絶対に不可欠で、その技術の習得の過程で養われた目は、服を美しく完成させるためには欠かせない。特にリアルなデザインが重視される現代では、シンプルな服になる故にそのフォルムのニュアンスに変化を生むには、技術力が左右する。これからの時代は特にそう思える。

デザイナーに技術はいらないという考えには僕は疑問を呈する。少なくとも、服作りにはある一定の技術は必要だ。正確に言えば、技術が大切というより、技術を習得し磨くことでしか身につかないセンスがあり、そのセンスは服作りにおいて重要な役割を果たすと僕は思っている。そのセンスがあれば、デザイナー自らパターンを作る必要はない。あれば、の話だが。

この2003SSコレクションは、服作りの教科書とも言える。服作りの原点を気づかせ、教えてくれる。学生当時、教科書というのは退屈なものだ。だけど、卒業してから教科書の面白さに気づくこともある。そしてこの山本耀司の教科書が、普通の教科書と違うのは極めて美しいことだ。僕はこの美しい教科書を、これからも見返すはずだ。忘れたくないものがあるから。

<了>

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