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Essay

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ジャーナリングの効果とは?解き放つことと積み上げること

ジャーナリングの効果とは?解き放つことと積み上げること

このところずっと集中してエッセイ本を執筆していた。
ボツワナで敬愛するベッシー・ヘッドのお墓参りをしてから一年になるが、ボツワナのセロウェでのアーカイブ調査と、出会った人々の話など、ボツワナとジンバブエ旅全般についてのエッセイ本だ。

既刊の『雨風の村で手紙を読む ベッシー・ヘッドと出会って開発コンサルになったわたしのアフリカ旅』(雨雲出版)は、大学時代にアフリカに行った話から国際協力業界での仕事

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好きなだけ書いて作りたいと夢に見ていた時間~雨雲出版と今の仕事

好きなだけ書いて作りたいと夢に見ていた時間~雨雲出版と今の仕事

ずいぶんリアルな夢を見た。
昨年まで7年ほど勤めていた開発コンサル会社の同僚に単発の仕事を頼まれる。

ブラジルで2週間ばかり研修アテンドの仕事を手伝ってくれないか。スケジュールとカリキュラムはこれこれこうだ、云々。
その仕事は実際に過去の様々な案件でやってきたものと似ていたし、わたしも5月の文学フリマには間に合うスケジュールだし、収入は昨年会社を去って以来マイナスだからとても助かる、と実にリアル

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[ベッシー・ヘッド] 出版するための翻訳作業は孤独だがようやく次の段階へ

[ベッシー・ヘッド] 出版するための翻訳作業は孤独だがようやく次の段階へ

南アフリカ生まれでボツワナに亡命した作家ベッシー・ヘッドというひとを知ってから四半世紀以上。

彼女の長編小説の一冊を日本語に翻訳して出版したいと具体的に考え始めたのは、それから少し後だったかもしれない。2004年には、ある翻訳スクールで文芸翻訳基礎コースを受けているのだから、少なくとも足掛け20年は経っている。

何度も数えきれないくらい翻訳をやり直し、自分でも信じられないほど人生の時間と労力を

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何度引っ越しても、いま暮らす場所が帰る場所だから

何度引っ越しても、いま暮らす場所が帰る場所だから

現代人は一生のうちでどれくらい引っ越しをするのだろう。

少ないひとはゼロかもしれない。
多いひとは、数か月に一度、なんていうひともいる。

もっとも多い「引っ越し」をする部類の人々は、伝統的には季節移動生活をしている遊牧民だろう。
昨今では、そのような遊牧民の伝統を受け継いでいるのか、ノマドワーカーと呼ばれるひとたちの中には、家までなくてホテルなどを転々と暮らしているひとまでいる。そういうひとた

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心に寄り添う静かな病院図書室

心に寄り添う静かな病院図書室

病院に図書館があるのをご存知だろうか。

その多くは図書館とは呼べない小学校の図書室のような小さなものと思われるが、案外少なくない数の病院に入院患者や通院患者向けに本を集めた部屋があるのを、昨年初めて知った。

昨年11月中旬に、手術のため一週間ほど入院した。

都心の大きな病院で、どのような施設があるのか興味があったので院内案内図を細かく見ていたところ、とても小さな文字で図書室と思われる部屋の名

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毎日椅子に座り続ける~ライティンググループのすすめ

毎日椅子に座り続ける~ライティンググループのすすめ

大きな仕事を成し遂げるひとは偉大だ。
例えば、800ページにもなるような大作を書き上げること。

ボリューミーでかつ内容の素晴らしい本を書ける作家は、類い稀な才能に恵まれている。
多くのひとはそう思うだろう。わたしもそう思っていた。

きっと、とびぬけた才能を持ち合わせてこの世に降りてきた人々もいるだろう。
でも、そう思って小さな自分を振り返りテンションが下がるとき、必ず思い出すことばがある。

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今の生活を楽しむために揃えるもの

今の生活を楽しむために揃えるもの

昔からインテリアは好きで、いつも洗練された雑誌やインスタ、ブログなどを眺めてはワクワクしている。

ひとり暮らしをはじめたのは大学のころ。
小さなアパートだったし経済的な余裕もないので、憧れるような家具を買うことはできなかったが、小物だけは好きなものを集めていたように思う。

でも、どうせ引っ越すのだからと家具の類をきちんとそろえることはなかった。
最低限のベッドや実家から持ってきたデスク、小さな

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辞書を引く楽しみ

辞書を引く楽しみ

子どものころ、父は使い込んだ自分の辞書をよく自慢げに見せてくれた。
小さな英和辞書だったが、ページは開いてすっかり分厚く柔らかくなり、小口部分には手垢がくっきりと黒い帯のようになっている。
父は仕事で英語を使っていたので、日ごろからよく勉強をしていた。

小学校六年生でアメリカに渡り現地の学校に通うようになって、わたしも辞書を買ってもらった。
何せ学校でコミュニケーションを取るのに英語がわからなく

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辰年が来たということは

辰年が来たということは

昨年末から、いつもの喫茶店や雑貨店などでちらほら見かけるようになった。
2024年の干支、辰のモチーフを。
そして、はっと気づいた。そうわたしは辰年生まれなのだ。
つまり、年末にはいよいよ作家ベッシー・ヘッドが亡くなった年齢に追いつくということだ。
(作家ベッシー・ヘッドについてはこちらを参照してほしい)

G.S.アイラーセンが執筆したベッシー・ヘッドの伝記によると、彼女が小説を最初に書いたのは

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生きている限り心に寄り添う本と出会って、ジンバブエへ行った『ゼンゼレへの手紙』

生きている限り心に寄り添う本と出会って、ジンバブエへ行った『ゼンゼレへの手紙』

心の奥深くにいつもひっそりと生きている本がある。
何度でも読み返し、そっとカバンに忍ばせ、ふとした瞬間にその本の言葉を思い出す。
長い年月のあいだ、ずっと一緒に生きているような本。
わたしにとってその一冊とは間違いなくJ.ノジポ・マライレ氏著の『ゼンゼレへの手紙』だろう。(ベッシー・ヘッド作品とは別だ)

最近、もう何度も読んでいるのだけれど、またこの本を味わいつつ丁寧に読み返していた。

『ゼン

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活用する機会がないことを願いながら、非常時に備える

活用する機会がないことを願いながら、非常時に備える

子どものころ、JALの訓練所を見学させてもらったことがある。

パイロットが訓練するフライトシミュレーターでコクピットに座ったのだ。
また、機体と機内を再現してある訓練施設では、サービスだけでなく緊急時の対応や緊急脱出の訓練ができるようになっている。脱出用のスライドは海上着水時にはボートになり、水上訓練ができるプールもある。

子どものころは、アメリカにしばらく住んでいたこともあり、飛行機に乗ると

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名刺を手放す

名刺を手放す

名刺交換の機会が減った。昨今のオンライン化事情の影響は少なからずある。
オンラインで電子名刺のようなものを用意するひとも見かけはするのだが、それをうまく保存し、ましてや物理的な名刺のように整理しようだなんて気はなかなか起きない。

仕事柄、開発コンサルタントや国際協力関係では人に会う機会も多く、出張先での調査ともなれば100枚は使ってしまうのではないかしらというくらいに名刺をばらまくこともあった。

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所属する場所を去るべきときはいつ

所属する場所を去るべきときはいつ

子どものころは、懐かしいという感情をどうして良いのかわからなかった。
何度も転校をして、環境を離れ、場所を離れ、人から離れ、その記憶にはせる思いは誰とシェアできるものではなく、だから少し寂しげな懐かしさが生まれるのだと思っていた。

わたしはいつも去る者だった。

なんてことをぼんやり思ったり思わなかったり。

先週金曜日に、7年11か月所属した会社の部署のメンバーが送別会を企画してくれた。
卒業

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積読が過ぎて読書枠を確保しようと試みるが

積読が過ぎて読書枠を確保しようと試みるが

何か変化を欲しているのか、単に活字を欲しているのか。
ネット上で目にした本をあれもこれもと読みたくなってしまい、結果として積読がタワーのように空へと成長する。

図書館と好きな書店、ときにネットと使い分けながら、次々と本を入手してしまうのは中毒のようなものだ。電子書籍が一般的になったぶん、昔よりはずいぶんましなのかもしれないが、それでも部屋のスペースを占拠してしまうのはうれしつらい(新語)。

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