大槻駿介

某大学のミステリー研究会OB。学生時代は英米文学を専攻していました。本を読んだり映画を…

大槻駿介

某大学のミステリー研究会OB。学生時代は英米文学を専攻していました。本を読んだり映画を観たり。たまに文章を書いたり翻訳したりも。

最近の記事

椅子の一生

 誰にも座られることのない椅子がいました。  その椅子は、とあるお爺さんによって作られ、売りに出されましたが、誰に座られることもなく隅のほうでずっと佇んでいました。  ほかの椅子たちが次々と人々に買われていくなかでも、その椅子は一向に売れません。しかし椅子はお爺さんの言葉を何度も思い出しては、それを励みにしていました。 「お前はかたちは悪いけれど、しっかりした椅子だ。」とお爺さんは言っていました。「だからほかの椅子たちを妬んだりしてはいけないよ。きっとお前を必要としてくれる

    • ささやかなファム・ファタール論~由伊と富江

       綾辻行人の『眼球綺譚』では、収録されている短編のすべてに「由伊」という名前の女性が登場する。作者も言っているように、それぞれの由伊は、名前は同じであるものの、基本的には別人であり、したがってその年齢や立場、性格も各々異なっている。  読者として気になるのは、由伊という名前の由来だろう。作者が昔好きだった人の名前、恋人の名前、行きつけの店のママの名前、ペットの名前――等、いろいろと邪推はできそうである。角川文庫版の『眼球綺譚』に収められているあとがきで、綾辻は、由伊という同名

      • 『ミステリー・シーン』掲載記事「密室シーン」

         島田荘司先生の『本格からHONKAKUへ 21世紀本格宣言Ⅱ』を読んでいたときのことでした。この著作には歴代の「本格ミステリー・ワールド」の巻頭言が収録されているのですが、「本格ミステリー・ワールド2011」の巻頭言「2011年の転換点」の中に、個人的に興味を惹かれる記述がありました。その箇所を以下に引用してみると――。  そのパグマイア氏が、「ミステリー・シーン」七月号掲載の「密室シーン」という特集記事を送ってくれた。英語で書かれたこの記事が、日本のミステリーへの好

        • 綾辻行人『十角館の殺人』ワシントン・ポスト掲載レビュー

           綾辻行人さんの代表作『十角館の殺人』の英訳版である The Decagon House Murders の出版を受けて、ワシントン・ポスト紙にレビューが掲載されました。それが2015年7月15日ということで、もう3年ほど前のことになるのですが、最近ふと思い立ち、探してみたところレビューの完訳が存在しなかった(あったらすみません)ので、訳してみることにしました。個人の趣味での翻訳なので、お読みになる際は、誤訳・文章の拙さをご理解いただいたうえで、あくまで参考程度にご覧ください

        椅子の一生