アフタヌーンってどんな雑誌問題

 アフタヌーンの編集長、金井暁と申します。ちょっと思い立ちまして、マンガについて考えたことなどを実話や経験とあわせて書いてみようと思います。
 昨年2022年12月5日、渋谷LOFT9のイベントに高松美咲さん、幸村誠さんと一緒に、マンガ大好き芸人・吉川きっちょむさんのお招きで登壇しました。その際きっちょむさんから、
「アフタヌーンってどんな雑誌ですか?」
と質問され、正直うまく答えられませんでした。
「お前、編集長だろ!?」と言われても致し方ないのですが、アフタヌーンは言葉にしようとすると実相から遠ざかるんです。言葉で説明しにくい。その一方、SNSでやたら目にするのが「ジャンプ(またはジャンプ+)で読んだマンガ、アフタヌーンかと思った!」というコメント。目にするたびに「どこらへんで!?」って少々モヤモヤするのですが、読まれた方がそうお感じになったのならこれも致し方ないですね。というわけで最初にまずアフタヌーンってどんな雑誌か、なぜ言葉で説明しにくいのか、その辺りを考えてみようと思います。
 アフタヌーンの創刊は1986年12月25日。今年で37周年です。1日早く生まれた先輩が石原さとみさん。同い年の有名コンテンツは「ドラゴンクエスト」です。5年先に生まれたモーニングと同じ名編集長が初代編集長をなさっています。
 創刊時のコンセプトはモーニングが「日本は面白い」、アフタヌーンは「漫画は面白い」だったそうです。これが換言されてモーニングは「日本が面白ければモーニングは面白い」、アフタヌーンは「漫画が面白ければアフタヌーンは面白い」という仮説に基づいて出発したのだそうです。モーニングのコンセプトからは日本の森羅万象を漫画にしてやろうという意気込みが伝わってきます。一方アフタヌーンのコンセプトからは1980年代に漫画表現が次々と自身の殻を打ち破って表現領域を広げていった息吹が感じられます。漫画に無限の可能性を如実に感じられたのでしょう。
 漫画の領域が拡大して変化すれば自ずとアフタヌーンも変化するはず、これが創刊時の目論見だったのでしょうし、実際アフタヌーン自体もめまぐるしい変貌を繰り返しました。その証拠となるのが雑誌表紙の左上に掲げられた雑誌コピーの変遷です。モーニングですと昔から一貫して変わらず、「読むと元気になる」と謳われています。ではアフタヌーンはどうかというと、これが本当にめまぐるしいのです。
 
1987年2月号(創刊号)~「読むと心がゆれる」 
  「元気になる」と対にしたのでしょう。
1987年12月号~「QUALITY COMICS FOR MEN」 
  「FOR MEN」と言っちゃう辺りが時代です。
1988年8月号~「VIVA COUNTRY COMIC」 
  なぜ「COUNTRY」? 田舎マンガってこと?
1989年2月号~「COMIC NEW POWER」 
  それにしても英語好きですね。
1990年4月号~「読み出したら止まらない」 
  唐突にかっぱえびせん。
1990年9月号~「Wild & New」 
  これなんかも時代を感じさせます。
1991年1月号~「COMIC FRONTIER」 
  ここら辺から覚えてらっしゃる方がいるかも。
1991年11月号~「MANGA FRONTIER」 
  「COMIC」より「MANGA」が普遍的とのこと。
1992年10月号~「いちばんおもしろい」 
  厚さ1000ページを超えた途端の勝利宣言。
1993年2月号~「MANGA FR∞NTIER」 
  「O」が「∞」表記に。読めなくない?
1993年4月号~「読むと元気になる」 
  2号だけコレ。何があった!?
1993年6月号~「MANGA FR∞NTIER」 
  で、再登板。
1994年8月号~「MANGA 1000PAGES」 
  創刊100号を機にボリュームを誇示。
1995年1月号~「最強漫画1014PAGES」 
  ここから2年半、「最強」誇示。
1997年10月号~(コピー無し) 
  この号からコピー消失。たぶん1000Pを下回ったから。
2003年1月号~「MANGA AGGRESSION!」 
  最長期間掲げられた、最も意味不明なコピー。
2010年1月号~(コピー無し) 
  そのまま今に至ります。 
 
 迷走を繰り返したわけではなく(それもちょっとはあったかもしれませんが)、アフタヌーンは自身の輪郭を規定せずに37年間やってきた、ということだと思います。僕は2015年からアフタヌーンの6代目の編集長を務めておりますが、アフタヌーンがどういう雑誌か言葉で規定することに、半ば宿命的に、半ば伝統的に、躊躇しているのだと思います。「こういう雑誌です」と言った瞬間に、それが輪郭となり、それが限界となることを恐れている訳です。どこまでいっても言い訳がましいですけどね。
 でもその結果、アフタヌーンは現在、最大多様性を誇るマンガ雑誌であると自負しております。アフタヌーン2023年2月号(2022年12月24日発売)新連載の『クオーツの王国』、作者のBOMHATさんはカナダ出身の新進気鋭で20代。かたや『乾と巽―ザバイカル戦記―』連載中の安彦良和さんはリビングレジェンドにして70代。国籍、民族を問わず、半世紀隔たりがあろうが年齢を問わず。自らを規定せず、でも全体で混沌としつつ「アフタヌーン」を形成している。そう、混沌としていていいんじゃない?と思っています。なぜって、世界が混沌としているのですから。
 ジャンプでもサンデーでもマガジンでも、ほぼすべての漫画雑誌には何かしらの「らしさ」があります。その「らしさ」から外れた作品が載ったときに、読まれた方はきっと「アフタヌーンかと思った」って言われるのじゃないかと思っています。やっぱり少々モヤモヤはするのですが、アフタヌーンはそこがいいトコ!ともやっぱり思っております。
 そんなわけでして、自分がこれから描こうとしている作品が「世界中のどこにも居場所がないのでは!?」と思われている方、どうぞアフタヌーンを思い出してみてください。居場所あります。なければ作ります。いつでも大歓迎申し上げます。