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言い訳の苦しいラーメン屋

仕事場の近くに奇妙なラーメン屋がある。

私がそこに通い始めたのは、2023年の11月頃だ。

1日の平均気温が12度前後へと下がり肌寒い日々が続いていた。見せかけのエコを理由に意地でもエアコンをつけない仕事場の人間達に嫌気が差した私は、いち早く身体を温められ、さらに満腹感まで得たいという欲求のために血眼になりながらGoogleマップでラーメン屋を検索していた。
仕事場の周りには驚くほど飲食店がない。
安価なチェーン店に行くにも、15分は歩かないと辿り着けないような陸の孤島で、かすかな希望を信じて検索ボタンを押した。

出た。
一番近くのラーメン屋までは徒歩2分だった。

こんなところにラーメン屋を建ててくれた店主に感謝して、私はお店に向かった。
店内はダークウッドのログハウスのような薄暗く落ち着く内装で、1席ずつ仕切られていた。ピーク時間を過ぎていたからか、はたまた僻地だからか、店内には私1人と店主1人だった。

一番安い塩ラーメンの食券を購入し、店主に差し出す。ラーメンを作り始める。ここまでは普通だった。

突然裏から店主そっくりの男性がもう一人飛び出し、カフェラテを手に「どうぞ」と差し出してきた。

頼んでいない。驚いて言葉を失っていると彼は、
「女性しかいない時にサービスで出してるんです」
と説明を付け加えた。

さらに困惑した。
大盛りを定期的に頼んでお店に還元しているサラリーマンのお客への手厚い待遇ならまだしも、初めて来て1番安いラーメンを頼んだだけの小娘にサービスを施されても…とどういう顔をすればいいか分からなくなった次第である。

しかしそれにしても、カフェラテ。
なぜカフェラテ。
こってり濃厚味噌ラーメンとの食べ合わせは誰がどう考えても悪いと言えるだろう。

しぶしぶカフェラテをすすって半ば、「ほいどうぞ」とラーメン様のお出ましだ。

うまい。
うまい。
麺が見えなくなるほどデコレーションされたもやしとにんにくチップ。その上にずっしりと横たわる厚さ2センチの肉塊。そしてちょっとしたグミくらいにはコシのある麺。
全てが完璧だった。

カフェラテを出してくる以外は。

それから私は毎週、そのラーメン屋に通うようになった。カフェラテ以上に、他では味わえないラーメンのガツンとした脂身に虜になっていた。
完敗である。

ちなみに店主はその後、男性客がいる時ですら一度もカフェラテの提供をやめなかった。なんなんだ。



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