愛の進路

眼鏡を探しているときにいつも思うこと

一生のうちの何日分、あるいは何年分をこれに費やしているだろう

しかもその眼鏡は

何度も不意に踏んでいつからか曲がったままになって

レンズに傷がついているからこのメガネをかけると世界はいつもよごれている

眼鏡の置き場所を決めておけばいいんだけど見つかれば喉元過ぎれば熱さを忘れ

昔 ひどい嘘をついて

ある人を裏切ったことがある

それ以来その人に会っていないから

そのひとが 今 悲しいのか嬉しいのかは知れない

だけど裏切ったことを、私ははっきりと覚えていて

こういうときに思い出す

なぜ嘘をついたのか

なぜ裏切ったのか

なぜ心の変化があったのか

眼鏡はたいてい

枕の下か居間の机の上か机の下、

になければ浴室かキッチン

狭い家をうろうろと行ったり来たりする

気持ちもうろうろと行ったり来たりする

世の中では

出会いも別れも運命も

名前のついているものはみな自由自在で気軽なステージになっている

次の階段を登れば運命があり

左のドアを開けてもまた運命がある

そのドアをちょっと開けやっぱりやめて右のドアにしても

運命がある

自分がこれと決めれば、それで決まるのだ

昔あなたが好きだった私のなにがしかを

もうあなたは好きではないだろう

あるいはそれを私がすでに持ち合わせていないかも

かたわらには小さいものや猫の手があり

私たちはそれらを通じて喜びを共有し

それらを介して手をつないでいる

時間は関係を変え、ふたりをふたりだけでは無くした

あのときと同じような過ちや嘘や裏切りはもう無い

とは約束されていない

だけど私は決めている

私はこれから

あなたの手に触れたりしないかもしれない

あなたは今さら

私を抱きしめたりしないかもしれない

だけど私は

あなたと生きることを決めた、私は決めたことを知っている

見つけました

文字通りぼろぼろの眼鏡

をかけた私を見てあなたは

そんな眼鏡をかけた女は正視出来ないときまじめに言う

私はよごれた世界の中にいるあなたを見て

にやにや笑う

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