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1日花屋になってみて

夢は持ち続けなきゃ
情熱を持つの
夢は叶えなきゃって私も言うけど
叶わない夢があってもいいと思うの
憧れってやつね
それに願い続けてるとそっちに進んでくものよ


1日だけ
私がお花屋さんになったその日
オーナーさんに言われた言葉

新卒から会社というものに所属し、5年強、会社というものの中で、別の会社というものの中にいる人とコミュニケーションをとって仕事をしてきました。その「会社というもの」から一度抜けてなんとなく感じていたのは、会社の中の人ではなくて、生きている「人」に近いところで仕事をしてみたいということ。

大学時代、お好み焼き屋や定食屋でバイトをしたことはあったけれど、あの時は自分の人生のための仕事としてではなくて、お小遣いを稼ぐための仕事でしかなかったので、わたしが知りたい「人」に近い仕事の感覚は、その頃の経験からは分からず。そんなときに出会ったサービスが、仕事旅行でした。短期でいろんな仕事を体験できるサービスです。

「花屋さんになってみよう」

昔から花屋さんになりたかったわけではないけれど、お花を大切な人にあげることももらうことも好きだし。お花は人に大小の幸せや気持ちを届けるものだから。幸せや気持ちの媒介人みたいでいいなと思っていたこともあり。ネットで応募し、日程確認のメールを受け取って。当日、少し緊張しながら花屋さんにむかいました。

(どんな風に感じるだろう。)

花屋さんに着くと、お店の方が、お店の外にたくさんの鉢植えやお花を外に出しているところでした。

「おはようございます〜旅の方ですか?よろしくおねがいします〜」
「荷物を置いたら、まずは、水やりをしてもらってもいいですか?」

もともとはホテルで接客業をしていて、その後このお店で働きはじめて3年目だという素敵な女性に教えてもらいながら、エプロンをつけて、お店の外のぐるぐると巻かれたホースを全部出して、鉢植え一つ一つにお水を上げていきます。

「あ、多肉植物はお水いいです。あ、この花もいいです。これもいいかな」
(お花によって違いがあるのか。全然知らなかった。)
なんともお花初心者なわたし。

お水をあげ終わり、少し待っていてくださいね。と言われて、お店の外に置いてある鉢植えを端から眺めていく。パンジー、多肉植物、など名前と値段が書かれたプレートが刺してある。プレートがぐるりと回って表と裏が逆さになり、文字が見えなくなっているものをひっくり返す。(あ、外からくるお客さんと中からでていくお客さんどちらにも名前が見えたほうがいいのか。そしたら向きはどっちだ?んー)などと謎な悩みを抱えながらプレートの向きを整えてみる。

「ちょっと」

声をかけられてお店の裏に入ると、そこにはオーナーさんの姿。

「湯上げをしてもらうから。みてて。花を新聞紙で包んでから、茎を少し切る。そのあとにお湯に10秒つけるの。1、2、3、4・・、で水に入れる。はいやってみて。」

(なんでこれやるんだろう)と思いながらも、意味を聞いてはいけない空気を感じて、まずは口じゃなく手を動かすことに。

「あー違う違う。ハサミはこう持つの。あなたそんなんじゃ主婦になれないわよ。え?あら。結婚してるの?料理してるの?だめよ料理しないと。違う違う。工夫をしなさい。ほんと不器用ねえ。」

常々不器用だとは思ってたけどそんなにだとは・・笑
なんとかオーナーさんのやるのを見よう見まねで真似していく。

ふう。なんとか終えて一息ついていたら、次はアレンジメントね。つくってみて。と小さなカゴを手渡される。入れたいお花と葉っぱとってきて。

おおアレンジメント・・。うーんどうやって作っていけばいいんだろう。

悩んでいるわたしの隣で、オーナーさんは私のよりうんと大きいカゴにサッサッと葉っぱをさしている。

「作る前にイメージするの。こんな風にしたいなって。それに合わせて作っていくのよ。ほらイメージして。私のはご近所のはちみつ屋さんに毎月届けているお花なの。毎月テーマをもらってそれに合わせて作るのよ」

迷いながらもいくつか葉っぱとお花を選んできて、作り始める。
(森から摘んできた。みたいなカゴにしたいな)
ざっくりとしたイメージで始めたのでなんとも時間がかかる。正解はない。これで完成。と決めるのも自分。誰かが教えてくれるわけでもない。不安だけど、楽しい。

カゴを作っている途中でお昼になった。オーナーさんと一緒に外に食べに行くことに。オーナーさんは、サッとサングラスをかけて、黒いヒールを響かせて、コートをヒラヒラとさせながら前を歩いていく。

少し薄暗いカフェ兼バーだというお店のカウンター席に座り、それぞれスパゲッティをオーダーする。ごそごそとカウンターの後ろに倒れそうに積み重なるCDの山から1枚取り出して店員さんが曲を流す。

「私ずっと会社で働いてきたんです。また次働くってなった時に会社ではなくて、もう少し「人」が近いところで働いてみたいなと思って、体験してみたくて今日来ました」

「確かにあなたがいう「人」は近いわよね。良い人がいらっしゃるとそれは嬉しいわ。だけどね世の中良い人だけじゃないの。おかしな人や嫌だなと思う人もいるのよ。私はいちいちそんな人が言うことを真に受けないから。他人に興味がないのよね。自分が一番だから。だから30年もやってこられてると思うの。そこを気にして落ち込んでしまう人には難しいわね」

午後は少しだけ店先にも立たせてもらった。

お家に飾るお花を買いにきた方。大きなお花をバスで持って帰るという。お花の名前を書いてもらえますか?と言われ一つずつカードに名前を書き、Thank youの言葉とニコちゃんマークを勝手に書き足してお渡しし、お見送りする。

運動の帰りなのかサンバイザーをつけた素敵なマダムがいらっしゃる。予算は3000円で、男性にあげる花束をお願い。と言われお話をしながらオーナーさんが花束をつくる。ありがとうございました〜!とお見送りする。

お母さんとお父さんの結婚記念日なのよね。何がいいかしらねえ。とハロウィンの帽子をかぶった女の子とおばあちゃんが一緒にお店にやってくる。お母さん何色が好きかな?とお店の人と話してブーケを作る。

お店の中と外を長いこと見ていた素敵なカップル。オーナーさんが話しかける。結婚式のブーケをお願いしたいんです。お願いできますか?

今こうして文字に起こしているとなんだか涙が出そうになるような光景だった。毎日を生きる人を肌で感じながら、その人たちの毎日を彩る仕事。それだけじゃないんだと思うけど、だけど、会社でしかちゃんと働いたことのない私には全ての光景が新鮮で幸せだった。会社で働くにしても、こうして人と近いところで働くにしても、全ての人に生活があることを忘れないようにしようと思った。

お仕事をしながら、色んな話をオーナーさんとした。

「あなたインドネシアに住んでるの。いいわねえ。私も一度でいいから海外に住んでみたいの。デンマークも行きたいでしょ。それからほら、アフリカなんかも行ってみたい。私動物が大好きなのよ。前ねイルカの大群を見に行った事があるの。すっごかったわよ それはもう。オランダやパリは買い付けで行ったことがあるわ。すっごく素敵だった。ショーウィンドウとかね、本当に勉強になるの。ほらこれも見て素敵でしょう?」

「映画はいいのよ。たくさんの事が学べるの。ほら、みて。このお洋服すてきでしょ〜。家具も食器もすてきなの。」

「ダンスをしてたのね。どんなダンス?私はダンサーになりたかったの。この映画知ってる?「Flashdance」え?ダンスしてたのに知らないの?わたしもう何度見たか分からないわよ。この子がね もうすごいの 頭でねぐるぐるって回ったりね 。ああ こんな風に踊るダンサーになりたかった。何度も見てね この子になったつもりになるの。」

夢は持ち続けなきゃ
情熱を持つの
夢は叶えなきゃって私も言うけど
叶わない夢があってもいいと思うの
憧れってやつね
それに願い続けてるとそっちに進んでくものよ

1日花屋さんをやってみて。花屋のオーナーさんと話をしてみて。自分の仕事についてもそうだけれど、生き方について感じることがたくさんあった。

オーナーさんは夢と情熱と憧れを常に持っている人だった。「あんな風に生きたい。これをしてみたい。あれをやってみたい。」いくつになっても、好奇心を持ち続け「あれをすればよかった。これをすればよかった。」じゃなくて「あれをやりたい!これをやりたい!」そう言い続けられる人生を送りたいな。情熱を持ち続け、諦めずたくさん感じて吸収して学んで、夢を少しずつ叶えていける人になりたいな。

仕事旅行さん、素敵な体験をありがとうございました!オーナーさん、お花屋さん、またすぐ遊びに行きますね。

最後に。オーナーさんが教えてくれた映画の主題歌の歌詞。

What a feeling
Being’s believing
I can have it all
Now I'm dancing for my life
Take your passion
And make it happen
Pictures come alive
You can dance right through your life


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