安い居酒屋で安いレモンサワー頼んで、無邪気でいられる関係がいい

金のかかる人間関係に、いいものはなかった。女子ならではのオシャレを意識したご飯屋さんにはワンピースを着ていかなければその場の雰囲気にそぐわないだろうから、いつもは着ないフェミニンなお洋服を選ぶ。鏡に写るわたしは、確かに普段よりはきちんとしては見えるけれど、どう見ても似合っていなかった。
大きめのTシャツにデニム、だてのラウンドグラスに大ぶりのピアス、最近は帽子ブームといった、THE カジュアルみたいな女だから、正直女子会ってきつくてしょうがなかった。本当に好きな友人としか、女を見せ合うことなんてできない。

女だけで集まれば、目に見えない火花を飛ばしあってマウンティングが始まるのなんて当たり前だし、それがこの世界の「ジョーシキ」ってものだ、そう学んで生き延びてきた。
まだ見えない結婚の話に、声色は高くなる。そこにあるはずの彼氏との日常とか、合コンで出会ったどうでもいい男のどうでもいい話、そういうのは大声で吐き散らかせるというのに、仕事の話はやっぱりみんなしないものだ。
働く女が普通になる時代は、多分まだ遠いんだろう。夢を愚痴る女といるより、夢を語る男といた方が、どうしても楽しいと思ってしまう。許してくれ。

キラキラOLに憧れたこともあったけれど、OLでいる自分は嫌いになってしまいそうだから、なりたいとはあんまり思わない。サマンサタバサのカバン単体は可愛いけれど、その可愛さを引き立てることができている女の子は、この世界にどれくらいいるんだろうか。
似合う服を着れている人間って、死ぬほどいない。服に着られてしまったら、それはもうオシャレなんかじゃない。

だから、背伸びをして女性らしくいるのは苦しい。苦しかった。それを着たわたしは、素でいられないから、靴擦れする踵よりも先に、擦り切れるのは自分の心だった。
女らしくいることを否定しているわけではないのだけれど、わざわざ写真映えするお料理屋さんに集まって、愚痴を言い合うだけのあの時間に、あんなワンピースは合わないのだ。
ワンピースが可哀想だ。可哀想にさせているのは、持ち主のわたしが重たくて悲しくて卑屈な思いを抱えているからなんだろうけれど。

この歳になれば、人間関係の最適化みたいなものが上手くなってきて、どうでもいい昔の知り合いと会うことも少なくなった。心の底から会いたいと思う人は、片手で数えるほどしかいない。大事なものは、少ない方が幸せなのかもしれない。
それでいいはずなんだ、なんだけど。
新しく出会う人々と、どうしても仲良くなれないのは、心を開けないのは、なぜなんだろう。
もう数十年も別の世界で、別の人々と暮らしてきたあなたを、わたしはどうやって理解していけばいいのだろうか。
そして、こんな風に分かり方を模索しているうちはきっと、わたしはもうその人に興味なんかないんだ。

知りたいって、愛情だ。
お互いに知ろうと、探り会おうとするのが愛で、その先に信頼があるのではないだろうか。
理屈で仲良くなんて、なれない。
知りたい、知ってほしい。好奇心がない関係には、数秒先の未来もない。

新しく出会って、親しくなって新しい関係性を0から築く。わたしはもはや、それがめんどくさい。多分一番めんどくさがっちゃいけないことなんだけど、死ぬほどめんどくさい。
一瞬でも、第六感で「この人は違う」って思ってしまったら、もうずっと違う。なんかそこから先の人間関係に、興味がない。描く明日に、その人を思い浮かべられない。

逆に、「なんかいいな」って一瞬でも思ってしまえば、それはもう、なんかいいのだ。自然と近づけるようになる。磁石みたいだな、なんて、別に珍しくないような感想。

お洒落なお店でお洒落を強いられ愛想笑いを浮かべてディナーに連れていかれるくらいなら、安い居酒屋で濃いレモンサワーを飲んで馬鹿笑いしていたい。なんでもないような1日が途端に楽しくなっちゃうような、別に話さなくていいようなことを永遠と話しながら、氷が溶ける前に「次、なに飲む?」なんてお互いにお酒を注文しちゃって、いつのまにかほろ酔いになっていたい。
私がしたいのは、これからもし続けたいのは、それしかないのだ。そうやって、日常に溶け込んでいたい。それ、それだけなのだ。
特別に見えない適当そうな時間に、宝物が詰まっていたのだ。

トリキの金麦大を飲みながら、もちもちチーズ焼きを頬張って、締めに近所のラーメン屋に入る。たまたま歩いていたら見つけたこぢんまりとした居酒屋に、ドキドキしながら二人で入る。そしたらやっぱり料理は美味しくて、ビールも美味しくて、ああそれでいいんだけどな、それじゃだめなのかな。なんて、言えたら楽なのにな。
気を使ってお店探してくれて、それは嬉しくて女の子扱いしてくれてるのもわかるんだけど、これは違うって思ってしまうの、これなんなんだろうな。
フォーマルな服装よりも、ちょっとよれたTシャツをお互いに着て、汗がじんわりにじむ肌とか、綺麗な手とか、飲み込む時に動く喉とか、そういうのを近くで感じていたい。変態って言われるかもしれないけど、それができなくなるのなら、変態でいいや、なんて。

愛がなんだとか、そんなのわたしは知らない。ずっと知らない、ずっとわからない、ずっと更新し続ける、ずっと探し続ける。
知らないけど、愛がある時間は確かにわかる。
原価の安そうな、でもなんかなつかしい味のする居酒屋で、幸せなんてものが見つかればそれでいい。それがいい。それがいいんだって、それでいいんだって言われたい。

#エッセイ #愛がなんだ #ちなみにわたしは愛がなんだは観ていない #恋愛

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saku

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