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【働くあのひと case.5】本と関わっていくこと

5人目は、出版社で雑誌の編集をしている小串 環奈さん(通称:ぐしおさん)。東京で書店の営業担当を約2年間勤めた後、現在は関西で月刊誌の編集をしています。ちょうど東京にいらっしゃったタイミングで、突撃取材に成功しました!同業他社の方にお話を聞けるとは…!


―まずは、現在のお仕事内容について教えてください!

新卒で入社した出版社で、月刊誌の編集をしています!大きく言えば、「生きがい」をテーマとしていて、悩んだり困ったりしている人の支えになるような「言葉」をまとめた雑誌をつくっています。

例えば、ある著名人に取材に行って、「あなたが挫折をしたときに、心の支えになったものってなんですか?」など聞いてみたり。
誰かの人生のヒントになるようなものを集めて、記事にしています。
読者層は60代くらいの方がメインで、どちらかというと年配の方にむけての雑誌だけれど、どの世代の人が読んでも頷けるようなものになるように、工夫しています。
編集長とわたし含めて、5人の編集部員で一冊をつくっています。

―就職活動で、出版社を選んだ理由を教えてください。

小さなころから本がすごく好きで、文芸書の編集者になりたくて出版社に入った。物心ついたときから絵本や児童文学を読んでいて、小学生になると日本の古典も読み始めたし、ミステリー全集とかもはまった。
青い鳥文庫はお気に入りで、何冊も読んだり。ジャンル関係なく、自分が面白そうだと思うものは、とにかく読む幼少時代だったかな。

物語の中にでてくる言葉とか、登場人物の動きって、現実にいる人の言葉よりも心に沁みたり勇気になったりすることもあって。
困ったときは、小説で読んだ言葉を思い出して乗り越えたりもできた。
こんなに面白いものを、文字だけでつくるなんてすごいなあって、純粋に思ってた。
だから、小説をつくる編集者さんになりたくて、出版社で働くことを決めました。

―実際働いてみて、どうですか?

最初に配属されたのは、書店の営業だった。
地域の書店さんに直接出向いて、本の売れ行きデータとかを見せながら「この本置いてください」って交渉しにいくことが主なお仕事。
たまに、書店の法人チェーンや取次さんとお話することもあったかな。

会社に入る前から、「出版業界は不況だ」とは聞いていて、苦しい状況なんだなってわかってたんだけど。
でも、小さいころから本がずっと好きでこの世界に入ったから、出版業界が不況であるってことが、はじめはあまり信じられなかった。
「なんでこんなに面白いものがたくさんあるのに、出版業界は不況なんだ」って納得できない思いがずっとあって…。

だけど、実際入ってみるとそれが痛いくらいわかってしまって。
本を介してのビジネスって、すごくやりづらいんだってこととか、版元と書店の間に入る取次さんとの関わり方とか、本当に難しくて。
読者も確かに減っているし、書店さんの数も減っていっているし。
現実は厳しいんだってことに気づいた。

業界全体も大変だけれど、出版社の営業内容も専門的で。
いくら本の魅力を伝える営業担当だって、全部の本に目を通すことって物理的にできない。
月に何十冊も新刊がでるから、仕事をしながらそれらを読んだ情報を把握するのには結構な時間が必要で、追いつかないこともあった。

それに、自分が「すごくいい」と思った本でも、全然売れないこともある。
逆に、面白いと思わないものが売れているってこともあるし。
本の「面白さ」って、読み手の主観でしかないから、受け取る人によってまったく違う。
それをどう書店さんに伝えるかが、すごく難しかった。

例えば、電化製品だったら、その性能や使い勝手の良さを伝えられれば正解なんだろうけれど、本の場合はそうもいかない。
すごく難解な文章の本があったとして、難解だからといって面白い・面白くないが決まるわけではないし、売れる・売れないも決まらない。
特に小説は概要だけ話しても、その本の魅力は伝わりにくいわけで。

一人の書店員さんが面白くないっていったものでも、他の方には面白いって思ってもらえたりするから、営業として売り込むのが大変だった。
だから、短い時間で本の魅力が少しでも伝わるように、プレゼンの資料とかを自分で作って伝えてた。
書店員さんも、ほかの作業がある中で私の話を聞いてくれている訳だからそんなに時間もないんだよね。

―営業をしていて、忘れられないエピソードなどありますか?

当時担当していた栃木県エリアのチェーン店さんが、うちの会社のある文庫を全店舗で仕掛けて売ってみようって言ってくれたの。全店の店長を集めて作戦会議をするから、小串さんも来てくださいって呼ばれて。
そしたらそこの会議で、「こうやったら売れるんじゃないか」とか、「こういうチラシをつくってお客さんに配ろう」とか、店長さんみんなが売り方を考えてくれてた。
ひとつの本を売るために、こんなに皆が動いてくれるなんて、すごいことだなって思った。
本を売るために真剣になってくれて、楽しそうに本気で話し合ってくれるんだって、感動したの。
企画のおかげで、その文庫は通常の本より4倍くらい売れ行きが良かったの!

―書店の「営業」だからこそできた体験ですね!

そういう意味では、営業時代の心残りはたくさんあるかも…。

その時の企画は、書店さんが自発的に動いてくれて、選ばれた本がたまたまうちの会社でつくったものだってだけなんだよね。
たとえばわたしがもっと書店員さんに、「この本、こんなに面白いんです!」って熱意をもって動けていたら。
もっと他の本も売れていたんじゃないかとか、思ったりもした。
もっと頑張ってプレゼンとかすればよかったのかなあとか。

本が持っている「面白さ」を書店員さんに伝えるってことは、きっとまだまだできていなかったって思う。
それを話せるようになるための、書店員さんとの関係づくりが大切ってわかってたんだけど…。それができるくらいの密接な関係をつくれていたかと振り返ると、できていなかった。
本を売り込みに行こうとか、ノルマ達成するためにとにかく売らなきゃって思いばかりで、書店員さんと仲良くなれないままだったこととかもあって。それは後悔してるかも。

でも、実際に書店員さん達の「本を売るための工夫」が見れたのはすごくよかった。
不況だって言われているけれど、なにもしていないお店なんてひとつもない。
小さい書店さんだったら在庫はあまり持てないから、蔵書の数では大型店に負けるかもしれない。
でも、じゃあなにができるんだろうって、すごく真剣に考えてくれたりもする。手描きのPOPやパネルとかをつくったり、客層を考えて棚をつくってくれたり。
この本に興味をもつひとは、きっとこっちの本にも興味をもつから、ここにはこれを並べようとか。
すごく小さい店内にも、ちゃんとした理論があって一生懸命お店づくりがされている。
そんなところに、出版社で働くわたしが「ノルマを達成したいから」って理由で売りに行っても、それはもちろん心を開いてくれないよね。
工夫をして、もっと心を動かせるような提案をすべきだったなとか考える。
それに、それができたときには、私もやっぱり嬉しかったし。

出版がいま厳しいんだということは、営業で働かないとわからないことだった。
「こんなにみんなが頑張っても、厳しいときは厳しいんだ」って歯がゆさも、実感できた。
面白いか面白くないかなんて、もうその人の主観でしかない。
でも、「より多くの人が面白いって思ってくれるにはどうしたらいいか」ってことを、書店の現場は常に考えてるんだよね。
営業で感じた悔しさも熱量も、忘れちゃいけないと思ってる。

―今担当している、編集のお仕事はどうですか?

営業にいたときには、「とにかく面白い本をつくってよ!」って思ってたけど…。
当然、制作部門に行ってみたら、面白いものをつくるってめちゃくちゃ難しい!
今は、読者さんが自分よりの年齢が上の方がメインだから、自分が面白いと思って考えた企画でも、それが読者の本当に望むものなのかって改めて考えると、それは違うのかもしれないって立ち止まることもある。
編集チームで雑誌に登壇してもらう人選を考えるんだけど、わたしは小説が好きだから、小説家に人選が偏っちゃうこともあって。先輩達は、もうすこし広い目で人選していて、自分の知識の幅って狭いんだなって感じた。
今は、とにかくいろんな人とお話したり、外にでかけて幅を広げようって思っているところ。

でもやっぱり、著名人の方のお話を聞いてみると、すごく面白い。
この仕事でこの肩書きを持っていなかったら出会うことがなかったような、自分が全然知らなかったジャンルの人にお話を聞きに行けるのって、贅沢だなって思う。
だからこそ、ちゃんとインタビューして、読者に届けなきゃなって、それが使命だなと思ってる。

―「出版社やめたい」と思ったことって、ありますか?

あるといえばあるけれど…。
小さい頃からずっと、「本ってすごく面白いな」って思っていて、自分に一番影響を与えたもので。

自分の子供とか、次の世代にもこの面白さを味わって欲しいと思う。
小説で人生が変わるかもしれないし、記事ひとつ読んで夢を持つ子もいるかもしれない。
そういう夢を広げる仕事をしたいって思いは消えないかな。
まだまだ企画を考えるのは下手だし、対人関係も大変なことがあるけれど、でもずっと本に関わっていたいって思う。

―不況っていわれる中で、「出版社で働き続けよう」って思える原動力とかありますか?

わたし自身が、本から貰ったものが大きいから。ずっと好きなもので、読んできたもので。わたしが小さいころに読んで「楽しい」って思った経験を、次の世代にも届けたいって思う。そのときには、今世の中にある名作に、プラスアルファで私たちの世代が作った本も加えて届けたい。
こう考えていくと、「本」に恩返しがしたいのかも。

出版業界は不況っていわれているけれど。
私だったら、面白いって思えるものにはお金を出すから、本の面白さが伝われば、もっと売れるんじゃないかって。
それが、いままでは本同士の戦いだったけど、今は変わってきてる。
一般の人でも面白い記事を書けるようになっているし、ツイッター見ているだけでも一日を過ごせたりもする。
誰かが過ごす時間の、どこを本を読む時間にさいてもらうかっていうのが課題だし、それのハードルって高い。
でも、それを超える「面白い」ものができれば、お客さんはこっちを向いてくれるはずだから。
一概に、お客さんの心が本からそれているかって言ったら、それは違うんじゃないかって思う。

―お仕事を通して、これから先どんな自分になっていたいですか?

まだまだ子供だなって思う瞬間が多くて。
まだ教えてもらう側だし、今やっていることも、与えられた仕事をこなすってことしかできない。まだ、考えていることを実現できる能力とかは十分備わっていないって思うから、純粋にスキルを磨きたい。

あとは、いろんな物事にアンテナをはれるようになりたい!
わたしの性格的に内にこもりがちで。物事に対して、そんなに敏感になれなくて。
それじゃあ、面白いものとかを見逃しちゃう気がしているから、チャンスをつぶさないためにも、フットワークは軽くありたい。

ー逆に、「こうだったらいやだ」っていう自分はいますか?

感覚が鈍くなるのはすごく怖い。
常に、小さなことにも反応できる人でいたい。それこそ、今は友達と話して楽しいって思えたり、おいしいものを食べれてよかったとか思えるけど。
毎日の小さい楽しさに気づけなくなったら、面白いものなんてつくれないと思うから。忙しさを理由に、自分がすり減っていくのは嫌だな。

「なんか最近すり減っているな、自分」って感じたときには、自分がまだ手をだしていなかったけど、みんながはまった名作や流行作を読んだり見たりすることにしてる!

この前から「ジョジョ」を読みだしたんだけど、めちゃくちゃ面白くて!
ずっと前から流行っていることも知っていたし、面白そうだとは思っていたんだけど、いままで読んでなかった。
いろんな人におすすめされたのに読まなかったの、これはもったいないことした!って思った。
人気があるものにはやっぱり人を惹きつける力や、それなりの理由があるなって。
そういうものに触れると、元気がでてくる。

…あと、そういえば高校生の頃に、友達に「おひとよしと優しいは、違うから」って言われたことがあるんだけれど。
その子が言いたいことは、わたしはつまり「おひとよし」なだけであって、優しいわけじゃないってことだった。
それがずっと気になっていて、自分って確かにそうだなあって。
本当に大切な人を、大切にできるように誠意を持っていたいって思う。
人に対して、誠実でありたい。
まだ未熟だし、なよなよしているってわかっているから、今は自分の判断で物事を進められる大人にならなきゃって思う。

―お話がすこし変わりますが!
ぐしおさんにとっての、一番の「好き」ってなんですか?

ほかの人の「好き」を聞くことかな。
人が楽しそうに話しているのを見るのが好き。自分が興味ないジャンルの話についてでも、すごく楽しそうに話している人を見ると、それってすごく魅力的で楽しいことなんだなって思うし。まだわたしが気づいていない楽しいものが、世の中にはあるんだって思ったりもする。多分、本が好きなのも、自分が経験していないことを本を読むことで体験できるからなのかな。
いろんな人のいろんな可能性を見るのが好きなのかも。
そういうお話を聞くのって、純粋に面白いなって思う。

―それって、かなり心の器が大きくないとできないことだと思うのですが…!

大きくないよ!多分、心の底が浅いんだと思う(笑)
浅く広くの人間だから、人が深い体験してたり、深い考えをもっていたりすると、自分にはないものだなって感じて、なんだか勉強になる。
人の話を聞くのは昔から好きだったから、今の仕事でインタビューするのも、楽しい!

―最後に!ぐしおさんにとって、「働く」って何ですか?

本と関わっていくこと。自分がすごく好きで、自分を育ててくれた本に、これからもずっと関わっていくには、作る側にいることだって思ってる。

何度もになるけど、次の世代の子供達にも本を読んで感動してほしい。
自分とは違う、小説の中の世界の主人公が頑張ったり困難を乗り越えたりしている話を読んで心が動いたとき、その感動がこれからのその子の基盤になったりするんじゃないかって。
他者に対する想像力みたいなものが生まれる気がするんだよね。
小説の世界を知ることで、自分と境遇が違う人が現れても、自然と受け入れられたり、違いがあることが当然だって思えるようになってくれたら、それってすごいことなんじゃないかって思うの。

たとえば、実際に自分の周りの友達にいないようなタイプの人間も、小説の中にはでてくる。もしかしたら現実にもそういう人はいるのかもしれないって、本を読んだ子は思うわけで。
そんな風に、いまある自分の世界を超えて、子供たちの想像力を働かせるようなものがつくりたい。
読んだ人の世界を広げられるって、すごいことだって思ってる。

音楽とか映像も、もちろん凄い。
でも、文字だけで自分の知らない世界を想像させるって、とっても大切な役割だと思うから。
その役割を担うものを、編集という仕事を通してつくっていきたい。

読み手でいるって選択肢もあるけれど、こんなに自分の根幹にあるものを無視してほかの仕事をするって、なんか違うんじゃないかって思ったんだよね。
仕事をする、働くってなったときに、本を無視して将来に進むっていうのが無理だった。
多分そんなに、違う選択肢を選べるほど器用じゃなかったってだけだと思う(笑)
好きというよりは、もう自分に染み付いちゃっていた感じ。
本がある生活が当たり前だったし、大人になっても当たり前みたいに関わっていたかったのかも。

どんなに嫌なことがあっても、ひとつの好きなことがあれば生きていける気がしているんだよね。わたしにとってのそれは、「本」なんだなって思ってます。

同じ業界で働くものとして、すごく考えさせられるお話でした。
出版は厳しいって言われるけれど、面白いものはやっぱり売れるし、次の世代にも本の面白さは知って欲しいなって、切実に思います。
ぐしおさん!とっても貴重なお話をありがとうございました!

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いつも応援ありがとうございます。