見出し画像

酒に酔いどれ、恋に酔いしれ

二日酔いになるたびに、後悔をする。いつ寝たか昨日の記憶はあやふやで、カーテンから差し込む光で目が覚めれば嫌な予感がして、恐る恐る起き上がったときのあの、気持ち悪さ。もうあんなに飲むまいと自分に誓い、当たり前のように毎日飲んでいる水の美味しさに感動する情けない昼下がり。
一週間働いてきてやっと与えられた貴重な休日を、腐った生卵みたいな姿勢でただ寝て過ごすというクソみたいなイベントを、大人になって何度かした。
気の知れた友人と飲むお酒って、なんであんなに美味しいのか。好きな人と飲むお酒って、どうしてこんなに素敵なの。今日感じる気持ち悪さに若干の後ろめたさはあって、昨日感じた楽しさと心地よさがない今に、なんだかやけに虚しさを感じてしまう。

酔っ払ってしでかした失敗を思い出すと、胃が痛くなる。なんであんなこと言ったんだ!なんであんなことしたの!バッキャロわたしクソこんの。そんな風にむしゃくしゃして、ひとしきりイライラし終えた後、ふと思う。
結局、酔っ払って吐き出た言葉がわたしの本音なんだと。酔っ払って動いたわたしが本当なんだと。心のどこかで欲があって、でもそんなことをしたら嫌われるからと我慢をして、ただ顔色を伺っていたわたしの脆くて儚いダムが、酒という津波で壊れただけなのだ。零れ出る本音に後悔はあるのに、流れ去って虚無に堕ちた今この時は、なんだか清々しい。

わたしは、緊張すると酔えなくなる。どんなに強い焼酎も、人殺しのテキーラも、緊張により構築される鉄壁の理性には勝てない。基本ステータスとして、わたしは会話がすごく苦手で人見知りの王者であるため、初対面の人と話すのがすごく苦手である。お酒の力を借りれれば、もしかして酔っ払ってノリで楽しく過ごせるかもしれないと助けを求めたことが何度もある。だけど、何があっても酔えない日というのは確かにあった。

その逆に、好きな人と飲むとすぐに酔う。気心の知れた大好きな人たちと飲むと、よく喋るようになり、よく笑うようにもなる。
お酒一杯で、おなかいっぱい。心もいっぱい。待っていたとばかりに心がゆるゆるにほどけていく一方で、こんなとこで酔っ払うわけにはいかないと謎の焦りが生まれて、そのままふわふわ楽しくメリーゴーランド。
その時のお酒は、わたしに嘘をつかせてくれない。言いたかったことが口から飛び出しそうになって、本音の扉があっという間に開きそうになって、いつもハラハラしている。
心の開き具合とお酒の酔い具合は比例する。好きな人と飲むお酒よりも美味しいものを、わたしは知らない。
何を飲んでも美味しいよ。何を頼んでも飲むよ。でも、一番はレモンサワーが好き。好き。

よって、わたしは合コンでは酔えない。酔えたことがない。知らない男性が目の前にいて、自己紹介をされて、して、一生懸命相手の面白いところを見つけようとして、できるだけブスじゃない顔で笑いたくて、ああでもまた笑えない。結局疲れてしまって、お酒はわたしを助けてくれず、解散した後にヒトカラをする24歳。ひとりになった瞬間に安心して、理性がだんだん崩れてきて、なんか気持ち悪くて、でもやっぱりカラオケは一人で行くのが一番好き。
お互いを人間から好きになるとか、まずは相手の背景を知ろうとか、そういうステップを全て飛ばしていきなり「性」の対象を狩り合うあの空間で、わたしは空気だ。これからも、空気でいたい。それでいい。
ブスだと嘆くわたしに、いきなり自分を女として売り出すハイレベルなんてこと、一生できない。できないし、わたしも相手の顔になんて興味もなく、うわべで探り合い、「将来は子供が欲しいですか」なんていう簡単な質問にさえ、本音で答えることができない。

わたしは知らない誰かにとっての女である自分に、興味がないようだ。出会ったその瞬間に女として認知され、ヤレるかヤれないかの天秤にかけられるなんて、嫌でしょうがないのである。そしてわたし自身も、目の前に現れる見ず知らずの男に、興味がない。これまでどこで何をしてきたのか、これから何をしていきたいのか。それを知りたいと思えるような出会いに巡り会えず、今日も虚無。
これまで何回か出会いの場に出席したというのに、お酒を交わし多少の笑いが起きるあの時間において、わたしが酔える相手には合コンでは出会えなかった。誰かと話すときに考えることは「帰りたい」で、自分を売り込む気にもなれず、酔えないまま飲んだお酒のせいであっという間に気持ち悪くなる。何してるんだと自分に呆れて、冷静になった頭で考えていくうちに、結局最後は嫌だというほどに、1つの本音に気づかされる。

いつだって、思い浮かぶ顔は、きっと。
何を飲んでも美味しくて、自然に酔っ払える相手は。
好きは、きっと。

いつのまにか、言いたいことが言えない大人になってしまった。何かを言って伝えるよりも、黙る方を優先してしまうことがある。今ここで口を開いて要らない波を立たせるよりも、なにもせず誰かが作ったさざ波になんとなく流されていれば、楽なのだ。浮かぶ愛想笑いとその場しのぎの味気ない相槌は、自分を守るボートとパドル。この2つがないと、会話は前に進んでくれない。どちらかがなくなれば、あっという間に身体は海底に沈んでしまう。
だけど、飲み込んでいるだけで、本当は言いたいことがたくさんある。こうしたい、これがしたい、あの人に会いたい、あの人と話したい。素直になれない可愛くないわたしはいつもちょっとだけ強くて、本当のわたしが澄ました顔でそこに座っている。

大声で叫びたい夢がある。わたしが本当になりたい姿が頭の中にずっとあって、なれない自分と挑戦しきれない弱さに嫌になる。それでも、これは秘めておくからこそまだ夢でいられるとわかっているから、まだいわない。
それが少しずつ叶っているということを、伝えたい相手は確かにいるのに、伝え方をわすれてしまった。何を守っているのか、何に怯えているのか。右手は上手にスマホを操作してくれないから、一向に会えない。見たくないものに埋もれていく本当に見たいものは、勇気が出なくてずっと見れない。シラフでトチ狂ったことなんて、できない。

確かに失っていく若さと、何者かに置いていかれていく焦り。女としての幸せや、それを捨ててでも手にしたいもの。絡み合う様々なしがらみを背負うわたしたちは、酔いを求めずにはいられない。あの一杯と、それに合うおつまみと、そしてあわよくば好きな人が目の前にいてくれれば、どんなフルコースでさえもちっぽけに見えてしまうくらい最高の時間が過ごせるのだ。
あと少し酔えれば、こんなわたしが抱えるこの想いも伝えられるかもしれない。あと少し笑えれば、顔が赤いのもお酒のせいにできるかもしれない。
わたしが酔うのは、あなただからなのだ。

酔っ払った状態が正常じゃないのなら。
この恋も間違ったことになってしまう。
お酒を飲んだわたしでしか本音を言えない弱さは、間違いになってしまうのだろうか。

切なさと虚しさが楽しめるようになり、人間らしい自分もいるということを知り、いつもは持てない勇気が湧いてきたりだとか。
臆病で、それでも前に進みたい大人にとって、お酒とは。時には麻薬に、時には媚薬に、そして時には恋の着火剤に。
酒に酔いどれ、なさけなくふわつく頭の中に浮かぶその顔と、もうとっくに気づいているこの恋に酔いしれて。

アルコールの中に淡い何かを見つけられたのなら、二日酔いの朝に一緒にいて欲しい誰かがいるのなら。
それが、恋の始まりであればいいとさえ思うのです。お酒と恋になんて、酔ってなんぼだ。

#エッセイ #お酒 #恋愛 #R20


いつも応援ありがとうございます。