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アツギとタカラトミー炎上に見る、SNS担当がTwitterフォロワーに向き過ぎ問題とは

短期間に次々燃えすぎでしょ…🙄
今回は、実は2社の炎上原因が共通なのではないか、という分析をしてみました。

タカラトミーの炎上

☑︎ リカちゃん電話の広告を児童の個人情報を勝手に暴露する形のジョークで広報
☑︎ 倫理的に問題があるとTwitterで騒ぎに
☑︎ タカラトミーのTwitter広報担当は以前からこのようなギリギリ路線だった
☑︎ 2019年の株主総会でも懸念されていた
☑︎ 一時は承認フローがあったものの、2019年11月時点ではなくなっていた

きっかけはタカラトミーの公式Twitter。

# 個人情報を勝手に暴露します
(とある筋から入手した、某小学5年生の女の子の個人情報を暴露しちゃいますね…!)

誕生日:5月3日
星座:おうし座
身長:142cm
体重:34kg
電話番号:03-3604-2000

実はリカちゃん電話の宣伝なのですが、子供(未成年)の個人情報を勝手に流すジョークが不愉快だと炎上しました。

現在は謝罪して削除済みです。

そもそも以前からタカラトミーの公式Twitterは倫理的にどうなのか、疑問視されるようなツイートがありました。

そして2019年の株主総会では、Twitter広報担当に対して、株主から懸念する声が出ています。

■タカラトミー公式ツイッターについて。今までの(企業公式ツイッターの)イメージを覆すような、ノリの良い兄ちゃんのような感じだが、トランスフォーマーを「見る抗うつ剤」とツイートしたりする等、危なっかしい所も有り、暴走してしまうのではと懸念してる。
→懸念が出た事自体は真摯に受け止める。ツイッターによる広報は重要で、これからも創意工夫していく。懸念されている事については事前にチェックする対策をしているが、それは今後も継続して行く。(小島社長)

2019年6月21日時点での社長回答では、事前にチェックする対策をしているとのことでした。

ここで、2019年11月12日~13日に開催された「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」の基調講演や各セッションのレポート記事を参照してみます。

運用体制で感じている課題として、タカラトミーは「1人で運用していること」を挙げた。

ただし、属人化自体が問題ではないという。たとえば、1人の人が“中の人”として存在して、温かみや個性を出すことによって、お客様が安心してコミュニケーションが取れるといった良い側面もある。

一方、一人で運用することによって、投稿内容に多様性がうまれにくいことや緊急時対応といったリスクヘッジの面で課題を感じているという。

ありがたいことに公式Twitterを4年もほぼ一人で担当させてもらっていますが、今後は、チームでTwitterを運用できるようにしていきたいと思っています。1人のメイン担当が編集長のような形でスケジュールやトンマナ(トーン&マナー)を整え、ツイートを書く人が何人かいるというチーム運営をしていきたいです(タカラトミー)
また、タカラトミーもかつては承認フローがあったという。

アカウント作成当初は承認フローがないまま運用していましたが、社内からの指摘をうけて、一時は承認フローを設けていました。しかし、半年間無事に運用していたので承認フローは解消しました(タカラトミー)
現在は承認フローはないが、具体的なガイドラインは設定している。ガイドラインの基礎部分の考えは、「常にフォロワー目線」であることだ。

そのツイートを世に出したときに、フォロワーはどう思うかと考えることで、「炎上リスク回避」と「信頼の獲得」につながる。また、企業都合の情報発信は極力避けるべき(但しそれが求められている場合は別)。常にフォロワー目線でいるために気を付けていることは、以下のような点だ。

おすすめな人や使用シーンを明記する
企業目線の宣伝文句は極力使わない
フォロワーのコメントにできるかぎり返事をする
特定の人をからかう、馬鹿にするような表現はしない

タカラトミー社のTwitter担当はひとり、以前は一時的に承認フローがあったが、2019年11月時点で承認フローはなかっということになります。

タカラトミーTwitter広報のダメだった点

☑︎ 対外的な社のイメージを忘れすぎた
☑︎ 増やすべきフォロワー層のイメージがなかった
☑︎ Twitterでのバズり(エンゲージメント)に重きを置きすぎた

タカラトミーといえば、「トミカ」「プラレール」「リカちゃん」でしょうか。
最近では「うまれて!ウーモ」などが話題になっていましたよね。
子供から、かつて子供だった大人まで幅広い世代に愛されている玩具メーカーというイメージです。

つまり、タカラトミー社としては、以下の種類の顧客層を意識しないといけません。

☑︎ 子供
☑︎ 子供の親
☑︎ 玩具が好きな大人

Twitterは13歳以上から利用することが可能なので、この中から「13以上の児童」、「親」、「大人」に対してプロモーションを行う事になります。
この時点で、自社の顧客層であり、本来守るべき児童の個人情報を勝手に開示するようなツイートは冗談でも許されないと気付く必要がありました。

親としては、例えジョークでも児童を対象とした(性的なもの含む)不適切なツイートをするような企業から物を買いたいとは思えないでしょうし、児童から見ても刺さるようなツイートとは思えません。
「Twitter上で悪ふざけをするのが大好きな大人」に向けたとして、企業としては絶対に無視してはいけない顧客層を蔑ろにしてしまった時点で敗色が強いと思われます。

そもそも「リカちゃん」を推すのであれば、リカちゃんのファン層を把握する必要がありますし、「リカちゃんのスカートを捲ってパンツを眺めて遊ぶ大人」や「小学5年生の個人情報漏洩で喜ぶ大人」を対象にするメリットがどれだけあるのでしょうか。

タカラトミーとして、理想的な顧客層がそうした「悪ふざけが大好きな大人」でない限り、そうした顧客層へのアピールよりも本来理想的な顧客層へのアピールを優先しなければなりませんでした。
残念ですが、そうした「程度の低い悪ふざけが好きな大人」を優先し続ける限り、本来の顧客層からは敬遠され、よりふざけた層が濃縮されていくことになります。

つまり、本来増やすべきフォロワーとして、理想的な顧客層のイメージがあるのであれば、あの路線は即刻やめるべきだった、ということです。

上で挙げた「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」レポートから引用します。

ファン作りが目的です。フォロワー数よりも、関心を持ってもらえるアカウントを目指し、リツイートしてくる人の割合など、エンゲージメントを指標にしています(タカラトミー)

「感心を持ってもらえるアカウント」「エンゲージメントを指標」とありますので、「興味を惹くために」「バズり」を意識した構成のツイートを重視していたことが窺えます。

過激であればあるほど、バズとしてのインプレッションは大きくなりますが、当然反動で炎上する危険性も高まります。
「悪ふざけが好きな大人」がフォロワーとして集まり、そのフォロワーに向けて最大効果を発揮するような過激なツイートをした結果、ついに炎上してしまったということでしょう。

いつか、いずれは炎上する定めだったかもしれません。
株主の方々の懸念は当たってしまった訳です。

アツギの炎上

☑︎ アツギ公式が様々なイラストレーターさんとコラボ
☑︎ ローアングルや足の付け根が強調されたイラストが多数あった
☑︎ イラストに添えられたコメントが、女性自身より男性の目線を意識するものが多数あった
☑︎ タイツを使用している女性より、女性の履いているタイツを鑑賞する男性に向けたPRが多いのでは?と疑念を呼び炎上

発端はタイツの日に合わせたPRコラボ。

\11月2日は #タイツの日

なんと…本日のために
様々なイラストレーターさんにアツギの商品を着用した女の子を描いて頂きました!

タイツの日、1日を通して
朝・昼・夜のシチュエーションで女性の脚もとを彩るタイツ・ストッキングのイラストをお楽しみください!

#ラブタイツ #タイツの日

様々なイラストレーターさんに「タイツを履いた女の子」のイラストを発注していたようです。
イラストレーターの方がPRツイートを行い、イラストに登場するタイツをアツギがリツイートで紹介する形で企画が実施されました。

イラストは28点あり、中でもスカートを捲り上げたイラストや、脱ぎかけ、過度なローアングルで露出度が高めなものが含まれていた事で、あまりに性的なのではないかと批判が集まりました。

真っ先に削除された2点のPRイラスト。

現在はキャンペーンのツイートを削除して、謝罪文を掲載しています。

掲示されたPDF。

ラブタイツキャンペーンに関するお詫びとご報告
2020年11月3日 アツギ株式会社
2020 年 11 月より弊社が Twitter 上で実施しております「ラブタイツキャンペーン(#ラブ タイツ)」におきまして、投稿された一部のイラストに性的な描写を連想させるような不適 切な表現がございました。このキャンペーンにより多くの皆様に不快な思いをさせてしま いましたことを深くお詫び申し上げます。 今回の事態を重く受け止め、本キャンペーンを中止するとともに、本キャンペーンにおける ツイートは 11 月 3 日に 弊社公式アカウント上より削除いたしました。 また、本キャンペーンと連動して実施しておりますプレゼントキャンペーンにつきまして も、中止とさせていただきます。
本来であれば、“すべての女性の「美」と「快適」に貢献したい”という弊社のビジョンを 一人でも多くのお客様へ知っていただきたいという思いのキャンペーン施策であり、タイツのある生活シーンを想起していただきタイツとファッションを楽しんでいただきたいと いう企画趣旨であったにも関わらず、弊社内における確認体制やモラル意識の甘さにより、現在アツギ製品をお使いいただいております多くのお客様の期待を大きく裏切る結果とな ってしまいましたことを深く反省しております。
なお、昨日配信いただきましたイラストの中で、イラストレーターのコメントへの監修漏れ があり、意にそぐわないコメント及び作品内容での配信となった 2 作品に関しましては、昨日のうちに削除しております
本キャンペーンにご協力いただいております、イラストレーターの方々に配信いただきましたイラストにつきましては、全て事前に弊社で監修しており、イラストレーターの方々に 非は一切ございません
弊社ではこの度の問題につきまして社会的責任に対する認識の甘さやモラル意識の問題と捉え、今後のアツギ公式 Twitter(@ATSUGI_jp)新規ツイートを当面休止いたします。
今回、お寄せいただきました皆様からのご意見を真摯に受け止め、「信頼」が企業にとって 最も貴重で重要な財産であるとの認識のもと、社員教育の改めての徹底と、ソーシャルメデ ィアポリシーの遵守、運営管理体制等の全面的な見直しを進めてまいります。
この度はお客様をはじめ、多くの皆様にご迷惑をお掛けしましたことを重ねてお詫び申し上げます。
以上

今回の騒動では結構強火で燃えたようで、Twitterのトレンドのいくつかが埋まっていました。

 11月3日のTwitterトレンドには「性的搾取」「性的消費」「企業アカウント」「タイツの件」「ATSUGI」「ストッキング」「イラストレーターさん」「男性向け」など、関連ワードが大量に並ぶ事態に。

 ツイートを見ていくと、「タイツを履く側ではなく、タイツ女子が好きな人向けのPRになってしまっている」「購買層無視」「広報担当者が趣味と仕事を公私混同している」といったアツギのTwitter担当者や企画そのものへの批判が目立ち、イラストレーター個人への批判は少ない印象。また、女性目線の不在を嘆くツイートも散見されますが、上記のインタビューによればアツギのTwitter担当者は女性で、参加イラストレーターにも女性が複数含まれます。

また、ほとんどのイラストレーターの方が1点なのに対し、特定のイラストレーターだけ3点PRとして上がっていることから、「公私混同」「担当が個人的に入れ上げている人に利便を図ったのではないか」と疑う人もいたようです。

特定のイラストレーターとは、中の人が「沼」と称するぐらいハマっている「よむ」さん。

「よむ」さんはタイツを履いた女の子を描くことに心血を注ぐイラストレーターであり、アニメ「みるタイツ」などでも有名です。

よむさんは以前、アツギ社へインタビューした記事を掲載しています。

タイツの表現力や書き分けなどが群を抜いて卓越した方ではありますし、女性ファンも少なからずいることから、特にアツギ社と懇意にしても不思議ではありません。

しかも過去に、企業公式アカウントで際どい画像を含んだ画集の告知をRTしていた事が明るみになり、「公式アカウントとしてどうなのか」「やっぱり趣味でPRの企画をしたのでは」等の声が上がったようです。

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RTされた画集のプレゼント企画告知。

タイツやストッキングにフェチズムの要素や美しさ、エロさがないとは言いませんが、公式アカウントでこのようなキャンペーンに参加してしまう担当者に対して戸惑う人も多いでしょう。

アツギ社はタイツやストッキングの中では有名ブランドです。
しかも、公式Twitter担当が女性で、参加されたイラストレーターの方々も女性が多いにも関わらず、炎上してしまったことに驚く人が多いのではないでしょうか。

アツギTwitter広報のダメだった点

☑︎ アツギ社はInstagramよりTwitterに力を入れていた
☑︎ ブランド専用アカウントが少なく、アツギ公式アカウントで幅広い層へアプローチしようとしていた
☑︎ 企画のターゲティングが甘く、相反する層へ同時にプレゼンテーションしてしまった
☑︎ セクシーラインでない(日常的に使用する)ブランドで、女性を性的に客体化させるPRを行ってしまった

アツギ社、そもそもマーケティングや宣伝が微妙という声も聞きますので、少し調べてみました。

アツギ公式Twitterアカウントのフォロワー数とアツギ公式Instagramアカウントではフォロワー数に大きな差があります。

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アツギ公式Twitterアカウントは3.2万フォロワー。

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対してアツギ公式Instagramアカウントは1676フォロワー。

以前のInstagramは10〜30代と言われていましたが、最近では40代以上も増えていますし、女性層にアピールするためにはInstagramの運用が欠かせませんよね。
この一応Instagramやってますと言わんばかりの差、随分とTwitterだけに力入れすぎでは…?

ちなみに女性のライフスタイルに合わせた機能性ラインのアスティーグのInstagramアカウントは2392人、スポーツラインであるクリアビューティークラブのInstagramアカウントは1707人と、頑張って足してもTwitterには及びません。
これらの事から、アツギ社はSNSマーケティングとしてTwitter偏重であった事が伺えます。
(アスティーグのTwitterアカウントは6万フォロワー、なぜかクリアビューティークラブはTwitterアカウントが見つかりませんでした。)

そもそも、タイツ・ストッキングは幅広い年齢層の方に愛用される商品であり、この顧客層をカバーできる満足度の高いPRは中々ハードルが高いです。
従って、PR企画ごとにターゲット層を変えて施策を打っていくことになります。

ここで公式Twitterアカウントとして行った、最近の主な企画を企画を振り返ってみましょう。

ペットの柄がワンポイントで入っているソックスとボトルカバーの商品PRでは、指定のハッシュタグとペットの写真をツイートする事で商品が当たるキャンペーンを行っていました。

また、アスティーグとoggiのコラボでは、都会感を感じるコーデにサラッとタイツが溶け込んでいます。

アスティーグでは「綺麗め大人女子」向けに堅実なアカウント運営を行なっているようで、商品情報やコーデ、プレゼント企画を中心とした発信を行っています。

現時点でブランド特化のアカウントはアスティーグしかなく、アツギ公式としては幅広い層を扱おうとしているのか、「メンズ商品」を紹介したかと思えば「動物愛好者向け」をPRしたり、まあここまではいいとして、中の人として推したいイラストレーターの画集PR企画に応募してしまうなど、ここまで来てしまうと迷走甚だしい感じが拭えません

アツギ公式Twitterアカウントの下地はお分かりいただけたかと思います。

さて、ここからは今回の「ラブタイツ」企画の問題点を探って行きます。
企画のターゲットを想像すると、以下のような感じでしょうか。

☑︎ 10〜20代の女性
☑︎ イラスト、アニメ広告に関心がある層
☑︎ 学生、一般職、事務職、接客業

仮に、今回のターゲットがこのような若年層女性だったとしても、気にかけなければいけない事は他にもあります。
レッグウェアは機能とファッションの2面性があり、「自分のために履いている層」「他人のために履いている層」がいて、この購買層の中にも他人からの視線意識において以下のような区分けが存在します。

☑︎ 性的にみられたい女性
☑︎ 性的にみられたくない女性
☑︎ どちらでも構わない(他人の目を気にしない)女性

この区分の中で「性的にみられたい層」と「性的にみられたくない層」は全くアプローチ方法が違ってきますし、イラストのテイストも全く変える必要があります。

例えばセクシーさで言うなら下のようなテイスト。

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足やお尻に寄ったものが多く、煽りや俯瞰など構図やポージングが多彩です。

ファッションかつ性的に見られないテイストだと以下のような感じです。

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足に寄ったものは少なく、アイレベルは腰、煽りや俯瞰は少なく全身を入れる事が多い感じですね。

PRのイラストを確認して、特徴を数えてみます。

☑︎ 21点がミニ丈
☑︎ 13点がローアングル
☑︎ 3点が俯瞰
☑︎ 1点が脱ぎかけ、2点がスカートつまみ上げ
☑︎ 14点が他人を意識したキャプション
☑︎ 8点がタイトルなどの作品解説キャプション
☑︎ 5点が自分を主軸としたキャプション

この分類でいくと、やや「他人の視線を意識した」、「タイツフェチ」なイラスト群に分類される作品が多い事は否めません。
しかし公式TwitterのPR告知では、時間帯と女性とタイツにしか触れておらず、テイストやターゲット像が想像できません。

タイツの日、1日を通して
朝・昼・夜のシチュエーションで女性の脚もとを彩るタイツ・ストッキングのイラストをお楽しみください!

つまり、混ぜてアプローチしてはいけない「相反する二つの層」に向けてプレゼンテーションしてしまった事になります。

これだけならターゲティングが甘い、キャプションで情報が網羅されていないだけで終わったかと思いますが、意図しない「性的な視線でユーザーを客体化」してしまう要素が加わると炎上しやすいんですよね。

今回、モテニーズもあるはずのタイツで、どうして「性的にみられる」「他人からの目線を意識した作品・キャプション」で忌避感が多かったのか考えてみましょう。
「性的にみられる事」を忌避するか本人の感性もありますが、まず、社会的に問題のある下地が存在する事も抑えておかなくてはなりません。

「あなたは何を着ていたの?」
これは性的暴行から生き延びた人々に対して、あまりにも頻繁に投げかけられる質問だ。
その裏には、「もっと露出の少ない、セクシーではない服を着ていれば暴力を防げたのではないか」と、被害者を非難する気持ちが暗に込められている。

これは痴漢やレイプなどの性被害にあった女性に対する典型的な二次被害(セカンドレイプ)です。

都市部では幼少期から電車に乗る事もあり、痴漢に遭う事も珍しくありませんし、数多くの女性が痴漢被害を経験しています。
つまり、まだ被害に遭っていなかったとしても、被害に遭ってしまう可能性は高く、従って「お前の服装が淫らだから被害にあったんだ」というセカンドレイプとも常に隣り合わせになっているのです。

その状況下で、「このタイツを履くとセクシーな女性になれる」ではなく「タイツを履いた女性はセクシーである」と言った「タイツフェチ」概念を公式から広告として提供されたとして、一体どれだけの購買層が喜べたでしょうか。
それどころか、本人は例え性的にみられることを想定していなくても「タイツを履いていたからお前は痴漢に遭ったんだろう」と言った論調を生んでしまう事になるのではないか?といった危惧を一部の購買層に喚起させてしまったのです。

また、ストッキングではありますがデザイン性の高いものを履いた際に、「男性に性的な評価をされたがっている女性」として性被害にあった方もいます。

日常的にタイツやストッキングを履かなければならない女性にとって、「タイツもしくはストッキングを履いている」と言うだけで被害に遭う確率が高まるとは悪夢のような事態ではないでしょうか。

擁護派の一部に「イラストと実写は違う」「現実は(イラストほど)魅力的にはならないでしょ」等の意見もありました。
ですが、そもそも広告としては「企業やブランドのイメージを認知・浸透させる」他に、ターゲット層対して「感情移入をさせて」「購入や使用を促進させる」ことが目的です。
逆に「同一視が難しい(私もなれそう感がない)」ようだとSNSマーケティングとしてはちょっと厳しいかもしれません。
こういうところがイラスト系PRの難しいところです。
(若年層含む女性向けマーケティングでは、再現性や真似のしやすさもPRとして大事な訴求要素です)

また、本来のタイツ・ストッキング商材写真と比べると、イラストの方が露出度も低く際どいカットがないと言った意見もありましたが、そもそも商品の細部を知ってもらうために作成された詳細なデザインがわかる写真と、広告として「メッセージ性」を持たせたPRイラストを同列に語る事はできません。
(太ももの付け根やクロッチ部分に特筆性がある商品の場合避けられない事であり、該当の商品を必要とする人にとっては重要な情報です)

「性的にみられたくない層」にも「性的な視線客体化させるPR」を届けてしまった時点で、明確に拒否反応を起こす人にとっては否定的な反応を呼び起こすでしょうし、「タイツを履いただけで性的にみられる可能性を考えても見なかった層」にしてみれば、ちょっと驚いてしまったり反射的に嫌悪感を抱くのもありうる話です。

そして、タイツは防寒具であるという面を考えると、子供ために購入する親御さんも少なくありません。

自身が性被害者であり、自分の子供に被害にあってほしくないと考える親御さんであれば、「エログッズ」ではなく普段使いである「日常の商品」で、子供が被害に遭ってしまう可能性を高めるような企業メッセージを容認することは出来ないでしょう。

仮に「自分のために履いている(機能性やファッション性を重視している)」ものと「他人のために履いている(ファッション性と他人からの評価を重視している)」ものを「タイツの日」にあらゆるシチュエーションでPRするとして、そこには明確なストーリーが必要です。

何故なら「他人からの評価」というのは「誰から評価されるか」が重要であり、誰でも良い(特に性的な評価は)という女性はごく一部です。
ですので、「誰(異性、同性、友達、同僚、恋人)」から「どのような(ファッショナブル、安心感、清潔感、セクシーさ)」評価を受けるためのシーンであるかハッキリさせる必要があります。

今回の場合、「自分のため」より「他人のため」を意識したキャプションが多く、また「誰」から評価されているのか曖昧なまま「グラビア寄り」の構図やポーズが多用されてしまった為、大半のイラストが「男性からの性的な評価を得る為のもの」であると解釈されるに至ったのだと思います。
(恐らく、この辺りの評価が「男性目線」という単語に集約しているのかと)

しかし、「グラビア系」の作品が多かったとはいえ、中にはきちんと「ファッション系」の構図をとった作品もありました。
様々なシチュエーションのPRとはいえ、一体なぜ統一感のない構図やキャプションになってしまったのでしょうか。

ちなみに、過去のアツギのPRや他社のPR傾向との離れ具合に、「Twitter担当の私利私欲企画ではないか」と疑われたラブタイツ企画ですが、Twitter担当者単独ではなく、ソーシャルメディア部門も関わっているそうです。

Q.企画はソーシャルメディア担当者の単独だった?それともチームがあった?
A.企画はTwitter担当者単独ではなく、ソーシャルメディア部門のもの。
Q.「タイツを履いた女性の日常」ではなく「タイツを履いた女性の日常を見ている誰か」の視点のイラストが多かったのはそちらの指示か?
A.「こういうイラストを描いて欲しい」という具体的な指示はなかった。

イラストレーターの方々に丸投げし、どういった監修やリテイクをするべきか適切な管理が出来なかったというのは、マーケティングや企画の進行として非常にお粗末というより他にありません。

本来のターゲット層に求められている構図をリサーチし、押さえていなかったイラストレーターにもある種、原因の一端はあるかも知れません。
とはいえイラストレーターの最も重要な技能は絵が描けることであり、リサーチやマーケティング能力やライティングの有無を保証するものではありません。
ですので、的確な指示・監修・リテイクを行えず、適切なメッセージをPR出来なかったチーム・会社としての責任はかなり重いでしょう。

現代社会では、機能面だけで一強になるのは難しく、消費者にとって商品の選択肢は困るほど無数にあります。
タイツ市場も例に漏れず、500〜2000円の価格帯では差別化が難しく、従って、単純に商品の質だけでなく会社・ブランドメッセージも購買の基準になります。

ここで、アツギのコーポレートサイトの最初にある言葉を引用します。

すべての女性の「美」と「快適」に貢献したい。

業績が落ちつつある有名老舗企業が「タイツの日」に「企業の看板を背負ってPRする」内容が「(購買層を客体化させた)タイツフェチイラストとキャプション」で、図らずも「他人からの性的な評価を重要視する女性のための商品」であるというメッセージを発信してしまったという所で、商品に安心感を求めている既存顧客層からの反発や失望が大きくなってしまったのだと思います。

福助、チュチュアンナ、グンゼ、タビオ、混迷するSNS

☑︎ アツギの炎上で過去の失態を蒸し返される企業が続出
☑︎ 福助は「ラブタイツ」企画にリプライするも深夜に削除&お詫び、しかも「脚の品評会」などを取り上げた過去のPRが発掘される
☑︎ チュチュアンナは女子ウケ正統派コンテンツでPRで好感度が上がるも、過去の就活エピソードがTwitter上で暴露され微妙な雰囲気に
☑︎ グンゼも過去の就活エピソードがTwitter上で暴露されイメージダウン
☑︎ タビオは気温に合わせたデニールの選び方でアカウントの有用性をPR

福助(Twitter 4.5万フォロワー、Instagram 2459フォロワー)

福助公式Twitterアカウントもアツギの「ラブタイツ企画」に好意的なリプライをしたが、炎上の気配を察知して深夜に削除。

改めて公式Twitterアカウントとしてお詫びを掲載しました。

目端が効くってこう言うことか…お疲れ様です。
本格的に炎上する前に削除してお詫びの撤退行動はお見事だと思います。

しかし、以前のPRが発掘され、「脚の品評会」などの情報で再着火。

現在、PRそのものは削除されているようですが、今年の8月あたりまで残っていたと言うことで、発掘されてしまった模様。
定期的に過去のPRが時流に沿っているのか確認する必要がありそうです。

チュチュアンナ(Twitter 10.9万フォロワー、Instagram 7.2万フォロワー)

チュチュアンナは、タイツの日にデニールごとの透け感をまとめた情報をツイート。
クーポンもPRし、無難かつ手堅い戦略です。

そして、アツギが炎上しきったタイミングでダメ押しの既存企画のPRをツイート。

ファッション系イラストレーターの「きくちあつこ」さんとコラボした、コーデイラストとタイツの訴求ポイントが纏まった企画です。
色タイツにあうコーデのポイントや、購買層として気になるポイントを分かりやすく解説してあり、ユーザーに寄り添った企画として高評価を得ています。

しかし、チュチュアンナのPRが広がるにつれて、苦い経験を思い出す人も。
こちらはチュチュアンナの就活で嫌なエピソードを思い出された方。

ご本人が2020年時点でアラサーという事を加味して、およそ6〜10年前ぐらいの話だと思われます。
また、母子家庭で落とされたのか、単に能力面で落とされたのかは不明です。

しかし、家庭環境などのセンシティブな話題に触れ、(余程話が長く、他の受験者の妨害をしているなら別ですが)途中で遮って切ってしまう面接官というのも、印象が悪いです。

グンゼ(Twitter 10.4万フォロワー、Instagram 841フォロワー)

こちらも就活絡みで炎上。

ただし、今は元ツイートが削除されていて、そもそも90年代には各企業「女性は採らない」という企業が多かったそうなので、その頃の話かも知れません。

アパレル業界では「就活生=顧客層」という認識が欠かせませんね。

タビオ(Twitter 2.2万フォロワー、Instagram 3.7万フォロワー)

「タビオ」は気温に合わせてデニールを選ぶ方法と、2020年のタイツコレクションをPRしていました。

こういった「ユーザーが役立つ知識」はインプレッションを稼ぎやすいので、鉄板コンテンツです。

「靴下屋」と名前がついていても、しっかりタイツも揃えていますよ〜と言ったアピールも抜かりないです。

ちなみにタビオ、昔は担当ひとりでフレンドリーをモットーとした対応を行っていましたが、2015年から「アニメ・漫画ネタ多め」から「オシャレ・靴下の豆知識に主軸においた運用」に転換しています。

Instagramではグループ体制で運用を行なっており、Twitterとともにバランスのとれた運営が出来ているようです。

一度炎上すると過去のエピソードまで発掘されたり、過去に行ってきたPRの成果を精査されるのもSNSマーケティングの特徴かも知れません。
他社の炎上は、顧客を増やすチャンスかもしれませんが、同時に足元を救われる危険性もあるということですね。

まとめ

☑︎ 悪ノリを許してくれるフォロワー層と自社の購買層に差があった
☑︎ タカラトミーは方針転換が出来ずに炎上
☑︎ アツギはセグメンテーションが曖昧なまま、購買層に合わないPRをして炎上
☑︎ Twitterユーザーの層と自社の集客したい顧客層を比較する必要がある
☑︎ バズは結果であり、目的ではない
☑︎ そもそも公式アカウントひとつで全てを賄うのは難しい
☑︎ 過去のPRも今の時流に沿っているか見直しが必要

タカラトミーもアツギもTwitterとしては「フレンドリー」「過激なジョーク」「サブカルチャー寄り」な運営方針でした。
特にダメ…とはいうわけではありませんが、どうしても運営が属人化しやすく、時流を見極める判断力が必要なので、難易度が高いです。
また、当時センスがあったとしても、そのセンスが今現在も通用するとは限りませんし、結局再現性に苦慮する事になります。

また「強い言葉」「大きい主語」「過激なジョーク」はバズった時に炎上しやすく、バズを求めてそのような要素でコンテンツを構成させる事はおすすめ出来ません。

「サブカルチャー」は当然「サブ」と付くからには、当然メインストリームではありません。
「サブカルチャー」が、どの程度メインストリームから外れるかは世代間やコミュニティによってかなり差がありますし、またアングラ度も同じくです。
「サブカルチャー」をメインとして扱う会社やブランドやであれば、問題にならない事もありますが、およそTPO次第では簡単に発火する要素満載のカルチャーです。

もし自社あるいはブランドが「獲得したい顧客層」と、「アングラを許容してくれる層」に差がある場合、アングラ顧客層に囲まれてしまうとアカウント運用の方向性を見誤ってしまう可能性があります。

☑︎ アングラ顧客層が増える
☑︎ メインストリームの顧客層が離れる
☑︎ アングラ顧客層が濃縮され、さらに過激なジョークが持て囃される
☑︎ 上記を繰り返して最終的に炎上

定期的にアカウントのフォロワー層が獲得するべき顧客層に合致しているか検証が必要ですし、運用の方向性についても日々研究していく必要があります。

幅広い顧客層を相手にする場合、ひとつのアカウントでは方向性にブレが出て、「フォロワーが増えない」「増えたと思ったら減ってしまう」現象が発生する場合もあります。
その場合は無理にひとつのアカウントで網羅しようとせず、アプローチしたい顧客層やテイストごとにアカウントを分けてしまうのも手です。

例えば、若年女性向けメディアの「シュクレ」だと、各話題に特化した「コスメ」「ライフスタイル」「グルメ」に別れたりしています。
ファッションメディアの「RiLi」だと「セレクトショップ」、期間限定企画の「思い出作ろうプロジェクト」「ダイエット部」等の特定の企画ごとに新しいアカウントを作成して運用しています。

しかし、アカウントが増えるとそれだけ運用負荷が上がるので、マンパワーが必要になり、中小企業で通常業務の傍にSNSアカウントを運用する方は難しいかも知れません。
とはいえアカウントがいくつであろうとも、数字に囚われすぎて変にバズを狙わず、王道を地道に繰り返すしかないのは同じです。

☑︎ 顧客層にファンが多いクリエイターとコラボする
☑︎ 豆知識や有用性のある情報をこまめに発信する
☑︎ 企画はハッシュタグとともに、ユーザーの感想が拡散されるようにする
☑︎ どの層にリーチしたか、ターゲット層に響いたか毎回検証する

ネット上コンテンツの特性として、一度伸びたコンテンツは時間が経っても再びじわじわ伸び続ける可能性がありますし、その時は注目を浴びなくても時流とともに再度注目を集める可能性があります。

面倒でも過去のPR施作として作成したコンテンツで、(現在の常識で)過度にモラル意識を疑われるコンテンツがあれば、非公開にするなどにメンテナンスも行うと良いでしょう。


余談

アツギでいうと、去年の冬はこれを履いていて、暖かくて可愛くて良かったんだけどな〜って感じです。

意外と毛玉が出来にくくて、リブのラインが縦線を強調して、厚め生地でもあまり野暮ったくならず、ベージュなので割とどのコーデでも浮かないスグレモノだったんだあ🥺


参考資料


タイツの日PRツイート群

膝上丈、アイレベル腰

ミニ丈、ローアングル、きわどめ

ミニ丈、ローアングル、脱ぎかけ、きわどめ

ミニ丈、アイレベル腰

膝上丈、ややローアングル

ややミニ丈、アイレベル腰

ミニ丈、ローアングル、きわどめ

ミニ丈、やや俯瞰

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ややミニ丈、ややローアングル、きわどめ

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ミニ丈、アイレベル腰、きわどめ

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ミニ丈、俯瞰、ややきわどめ

ミニ丈、俯瞰

ミニ丈、アイレベル顔

膝下丈、アイレベル腰

https://twitter.com/aconbwakame/status/1323128826583425024

https://twitter.com/wanwangomigomi/status/1323052204480098304

膝丈?、アイレベル腰、きわどめ
ややミニ丈、ローアングル

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