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独身男性の為の会話法

 さて、再びお目文字致します。講師の山田です。今回は、ええ、会話についてお話ししたいと思います。名簿を見ますと前回いらした方が、ひい、ふう、みい……。全員来て下さっていますね。何うですか、どなたか宜しき女性とお知り合いになられましたか。
 あ、手を挙げていらっしゃる方がおられますね。そちらのヒガシに似た方、どうぞ。え、東山紀之? 違いますよ。そのまんま東? 違います。ヒガシと謂うのはわたくしの友人です。そんなひとは知らない? そりゃそうでしょうね。東はもう十年前に亡くなりました。享年四十七でした。まだ若い……。
 そんなことは何うでもいい。そうですね。では、そちらのヒガシさん、——ヒガシじゃない。いいじゃないですか、何うでも。はあ、あの通りやったら、見事に、ふられた。それはまた、御愁傷様です。しかし、わたくしはごく一般的なことしか云わなかったので、失敗なさったのはそちらの責任かと……。
 え、ああ。彼女が来る前に大便をして仕舞って、マッチを擦ったくらいでは臭いが消えなかったと。そんなことを云われましてもねえ。
 まあ、何事も臨機応変と謂うことで、話を進めたいと思います。
 今日は会話についてと謂うことで、魅力的な話し言葉をお教えしたいと思います。最近は言葉が乱れておりまして、年寄りには判らないことをお話しになる若い方が増えておりますが、え? ああ、自分は若くないと。それは見れば判ります。
 で、日常会話でどんな言葉を使おうと、相手に伝わりさえすればいいのであって、特に気を遣う必要はありません。上司に話す言葉も、恐らく皆さんは弁えておられると思います。今回は初対面の女性に対する会話について話して行きたいと思います。いえ、メモに取るようなことはお話し致しません。
 魅力的な会話、話法と謂うものは、正しい日本語を使うことからはじまります。よく状況が上手く行かない時に「やべえ」と云いますね。これは昔、ヤクザの三下が使う言葉で、一般市民は使用しませんでした。ですから、女性の前では使わない方がいいです。
 避けるべきは若者言葉、ネット言葉です。これは最近知ったものです。網の言葉とは何か、と思いましたが、研究致しました。
 若者言葉の方から参りますと、「まじ」。白痴のような言葉です。いつぞや駅のホームで十代の若者の会話が聞こえてきて、その内容があまりに奇妙だったので、つい耳を峙ててしまいました。
 何を云っていたかと申しますと、「え、まじ?」「まじまじ」「まじ?」「まじ」。これで通じてしまうんですね。正しい日本語に直すと、「それは本当なんですか?」「ええ、本当です」「本当なんですね」「本当です」と、なります。これなら誰が聞いても判ります。
 次は「ぶっちゃけ」です。これは元からある「ぶちまける」を変化させたものですね。つまり、何もかも洗いざらい話すと謂うことです。ですから、「ぶっちゃけ」と使うところを、「正直に申しますと」と云えばいい訳です。え、そんな云い方はしない。そうですか、では「正直云って」くらいでも宜しいです。
 元からあった言葉をそのまま使って違う意味になるものもあります。その代表的な例が、「天然」と「痛い」です。「天然」は、ナチュラル、自然のものと謂う意味ですね。それが、生まれつき変である、奇妙であると謂うような意味で使用されています。ほぼ差別用語に近い形になるのでは、と危惧しております。
 「痛い」は、本来、身体的な痛み、心理的な痛みについて使われていました。然し最近では、言動や状況が若干常識から外れた場合に使用されているようです。「あいつはイタイ」や、名詞としては「イタ車」があります。これは別にイタリアの車と謂う訳ではありません。妙な装飾をしてある車を指す言葉なのです。こうして、本来美しい意味を持つ言葉が中傷めいた言葉になることは、非常に嘆かわしい現象だと思います。
 では、最近浸透してきている「ネット言葉」に移りたいと思います。これはまだ研究段階なので、ひとつの言葉だけを取り上げたいと思います。それは「リア充」です。ご存知ですか? ああ、殆どの方が知っておられるようですね。日常で使われますか? 使わない。そうですか。まだ捨てたものではありませんね。
 この言葉は、「リアルが充実している」つまり、現実世界で充足している状態を指します。「現実世界」と謂うからにはそれに対する「仮想世界」がある訳で、その仮想世界が所謂、「網」。ネットなのですね。現代の方々は、昔の芸能人や悪人のように「表の顔」と「裏の顔」があるようです。云い替えれば「表の生活」と「わたくしの生活」ですね。
 普通に生きている人間は生活すべてが「わたくし」である筈ですが、網で仮の人生を生きておられる方々には、「わたくし」と「架空のわたくし」があるのです。何も好きこのんでそのようなややこしい生活を送らなくてもいいと思うのですが、それもひとの勝手です。
 では、本題に移ります。今挙げた言葉を、初対面の女性に使うと何う思われるか。そうですね、ぶっちゃけ申しますと、阿呆だと思われます。少なくとも上等な人間だとは思われません。なんですか? はあ、そんな言葉は使わない。なるほど。皆さんは優れていらっしゃるのですね。
 此処にテストケースを出したいと思います。はい、どうぞ這入って下さい。美しい女性をお呼びしました。あ、写真撮影はやめて下さい。タレントではありません。握手もしません。では、そちらのかた、はい、あなたです。どうぞ此方へ。いえ、そんな接近してくれとは云ってません。
 はい、そこでいいです。では、この女性の容姿を褒めてみて下さい。はあ、とても美しいですね。宜しいです。正しく日本語が使えています。「ぶっちゃけ、まじやばい」などと云ったら、ビンタを喰らわすように云ってあったのですが。ええ、本当です。
 では、お茶に誘って下さい。え、何処でもいいです。適当におっしゃって下さい。宜しかったらそこの喫茶店でお茶でも飲みませんか、完璧です。人選を誤りましたね。結構です、席に下がって下さい。いえ、握手はいいんです。
 兎に角、正しい日本語を話すこと、それが肝要です。親しくなる前段階では、相手に判り易く知的な会話を心掛けて下さい。幾ら知的に見せたいと謂っても、難解な言葉を羅列しては、それはそれで奇妙なひとに思われてしまいます。相手に理解されること、それを念頭に言葉を選んで下さい。
 それから、略語を多用するのも避けた方が宜しいでしょう。年頭の挨拶に「あけおめ」「ことよろ」などと云ったら、知性を疑われます。後、無闇に業界用語を使うのも考えものです。「デージュー」「イージュー」「ケツカッチン」。……通じません。通じたとしても、知的には思われません。
 宜しいですか。何かご質問は? はい、ええ、そうですね。業界の方は使ってもいいのですが、一般の方に対しては普通の言葉で話した方がいいと思います。

 では、本日は此処までにしたいと思います。ご清聴、難有うございました。

(2019年ブログアップ)

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