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独身男性の為の女性攻略法

 はい、えーと。本日はひとり暮らしの方の為の料理教室と謂うことなのですが、見事に男性ばかりですね。これほどまでに極端ですと、話す内容を変えていかざるを得ません。
 男性ばかりで、見るからに此処へいらしたのは自炊目的とも思えませんので、取り敢えず女性を攻略する為の手順からお話し致します。あ、そこ、そんなに乗り出さないで。
 先づ、服装から申しますと、今回皆様、平服でいらしておられるようですが、……ひとり背広の方がいらっしゃいますね。はあ、そうですか、会社から直接……。商事会社の、課長。はあ、そんなことは訊いていないんですけど。まあ、いいです。云いたかったんですね。
 そうですね、女性と対面する際には、清潔な服装を心掛けて下さい。ジャージの上下は、譬えそれがエルメスであっても駄目です。エルメスがジャージを販売しているかどうかは知りませんが。TPOを考えて服を選んで下さい。ピクニックへ行くのに三つ揃いを着て行っては、阿呆だと思われます。
 清潔な服装、これに尽きます。
 髪もちゃんと散髪して、なるべく長髪やパンチパーマは避けて下さい。ヤンキーやチンピラに思われる恰好も避けた方が無難です。で、食事に誘う際、余程ざっくばらんなおつき合いでない限り、ファミレスやマック、ミスドはやめた方がいいです。
 ちゃんとレストランに予約を取って、その旨を女性に伝えて下さい。事前に云わないと、ドレスコードに引っ掛かる身装をしてきて赤っ恥をかかせることになりかねません。あなた方は、ジャケットにネクタイ、これは最低限必要です。日本の格式あるレストランの場合、和服だと断られることがあるので、着流しも駄目です。
 肝心なのはレディ・ファースト。これです。女性の為にドアを開け、先に通す。クロークで上着を預ける時は服を脱ぐのに手を貸したり、鞄を持ってあげたりしましょう。必要以上に体に触ってはいけません。店員も心得たものですから、女性を優先します。
 卓子についたら店員が女性の方の椅子を引いて、その後あなたの椅子も引きに来るので、勝手に座ってはいけません。メニューはあなたが受け取って下さい。コースメニュー、単品メニュー、ワインリストと分かれている場合が多いです。びびらないで下さい。
 食事はその日のお勧めを選ぶのが無難です。しかし、一応女性にも訊きましょう。好き嫌いがあるかも知れませんし、アレルギーを持っているかも知れませんし、厳格な菜食主義者かも知れません。食事の注文が決まったら、お酒の選択に参ります。
 なるべくビールは避けて、ワインにします。和食の店ならば、吟醸酒にしましょう。ワインリストは大抵横文字で書いてありますが、wine、wein、vino、vinと書いてあるものがそれです。後は、赤か白かロゼを選ぶだけです。赤はだいたい渋みが強く、白はさっぱりしており、ロゼは口当たりがいいです。値段を見て、中くらいのものを選べば間違いありません。基本的に肉料理には赤、魚料理は白、デザートにはロゼとなっております。
 ウエイターを呼ぶ際、居酒屋にあるような呼び鈴はありませんが、焦らず通り掛かるのを待ち、軽く手を挙げて呼び止めて下さい。間違っても「おい、にーちゃん」などと呼び止めてはいけません。
 メニューを指し、これを、と云うだけでいいです。フランス語やイタリア語で書いてあるものを、わざわざ恥をかく為に読み上げる必要はありません。
 卓子にあるナプキンですが、これは食事が運ばれる前に膝にかけます。二つ折りの状態でかけるのが適切とされています。口許を拭いても構いません。その為にあります。間違ってもポケットからテレクラのティッシュを出してはいけません。
 ワインが運ばれてきますが、ソムリエが説明するのをさも判ったような風に鷹揚に頷いていて下さい。ソムリエがひとくち試飲してもむかついたりしないように。仕事なんですから。飲むのは食事が運ばれてからにして下さい。
 カトラリーの使い方ですが——カトラリーと謂うのは、ナイフやフォークのことです——外側から使ってゆきます。大抵そのように並べられております。その都度運んでくる店もあります。気をつけなければいけないのは、どのような場合でも音を出さない。ナイフやフォークを落としても、自分で拾わない。これは基本的なマナーです。

 では、自宅でもてなす際の話に移ります。そう頻繁にレストランで食事をしていたら破産してしまいます。かと謂って、ファミレスや居酒屋でお茶を濁すのはちょっと、と謂う方にお勧めするのが、自宅で手料理を食べてもらう、と謂う方法です。
 これはなんの苦もなく自宅に女性を誘えるので、非常に有効な手段です。その為には先づ、自宅を片づけなければなりませんが、それは自分でなんとかやって下さい。
 さて、女性は何を好むか、それはきれいなものです。食材の彩り、食器のセンスの良さ、洗練された物腰。この三つを見せつければ、大抵の女性はころりと参ります。
 先づは食材ですが、一にも二にも輸入食品です。パスタも果物もジャムも缶詰も、輸入品であれば宜しい。「いなば」や「はごろも」は駄目です。日本国民の誇りをかなぐり捨て、なんでもいいから横文字の食品を、白痴の如く使って下さい。
 次はオーガニックです。有機栽培ですね。テーブルクロスも木綿か麻にして下さい。ビニールクロスの場合は、棄てて下さい。
 ワインを用意する場合は、マンズやメルシャンは避けて下さい。安くてもフランスかイタリア、ドイツのワインにすれば間違いないです。スーパーマーケットのオリジナル商品や、紙パックのものは問題外です。
 日本酒の場合は適当なものを買ってきて、硝子のカラフに入れて置けばよろしいでしょう。相手は通でもグルメでもなく、ただの薄っぺらな俗物です。体裁さえ繕えば、冷やで飲めば余程の通でなければ区別がつきません。吟醸酒には辛口もありますが、大体がさっぱりしたフルーティなものが多く、スーパーマーケットで売られている吟醸酒を冷やせば料亭と遜色ない味になります。それを当ててしまうような女性とは別れた方が賢明です。
 料理が出来ない方は、輸入食品を駆使して、その容器ごと食卓に出して下さい。そして、目の前で皿に移します。百貨店の総菜の場合は、シンプルな白い皿に盛るといいでしょう。百円ショップにあるようなもので構いません。和食器は目の肥えた方だと備前だ有田だと云い出しますので、ごく普通の白い洋食器をお勧めします。
 手料理を食べさせたいと謂う方には、簡単なもので、サラダ、スープ、パスタなどをお勧め致します。先づ間違いはありません。しかも、お洒落に見えます。間違っても豚汁や芋の煮っころがしを出さないで下さい。
 パスタですが、売っていれば生のものが宜しいでしょう。短時間で茹で上がりますし、歯ごたえが違います。茹で時間は守って下さい。女性が来てから茹でるのがいいでしょう。ソースは既成のもので構いませんが、これ見よがしに輸入品の缶詰を使って下さい。マ・マーや青の洞窟は駄目です。ましてやヨコイのあんかけスパなど論外です。
 女性がいらした場合のBGMは、静かなクラシックかジャズにして下さい。テレビはやめた方がいいでしょう。ラジオならイージー・リスニング専門局などの耳障りでないもの、DJのお喋りが入らないものを選んで下さい。
 部屋の芳香ですが、判りもせずにアロマオイルや香を焚くのは避けて下さい。特に食事をする際は食べ物の匂い以外は厳禁です。トイレの臭いはマッチを擦って扉を閉めれば消えます。部屋は無香料の消臭剤を撒くだけで結構です。ご自身も香水などはつけないで下さい。
 女性がいらしたからと謂って、鼻息を荒くしてはなりません。自制して下さい。いきなり服を脱がせてもいけません。本能を剝き出しにするのはトイレかベッドだけに留めておいて下さい。
 さて、何かご質問はありませんか。はい、そこの方。何時に帰したらいいか。そうですね、それは臨機応変に。紳士的な態度を崩さず、終電までに帰すか、タクシーを呼ぶのがスマートな方法です。はい、ベッドに誘ってもいいのか。それも臨機応変ですが、親密度にも依ります。会って数回でいきなりベッドイン、と謂うのは品性を疑われかねません。相手が誘っている場合は別ですが、待っていましたと謂う態度は何うかと思います。

 はい、では本日はご清聴ありがとうございました。また次回、このような機会がありましたら皆さんの成果をお聞きしたいと思う次第であります。


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