カノコ(1)

カノコは暇だった。
暇で暇で仕方なかった。三度目の大学四年生がつまらなかったのではない。
配属されて3年、古株の新人のなったからでももちろんない。
なお、同期は今年大学院二年生で、就職する者は内定が決まり、博士課程に進む者は進学先が決まっていた。
そのせいで不貞腐れていたのでもない。

なぜならばカノコは就活がめっぽう得意であったからだ。
これはカノコでも驚くべきことだった。
留年しているのに、過去二年は内定が出たのである。

一年目はまだしも、昨年は、
「留年しました」
「いえ、家の都合とかではなく」
「ただ単位が取れなくて…」
「はあ、理由は寝坊です。
朝、起きられないんです」
こんなことを言っているのに受かったのである。


昨年の冬、どう頑張っても大学を卒業できないことがわかり、内定辞退の電話をすると、まず人事の就職担当者が盛大に笑い、その後、最終面接のお偉いさんに代わり、これまた笑いすぎて最終的に涙まで出ていたそうである。
電話越しなので、相手の自己申告であるから、どこまで本当なのかは謎であるが。

「まあ、人生長いんだし、一度や二度の失敗でへこたれないようにね」と全くへこたれていないカノコに言った。




三度目の就職活動のため、学内のインスタント撮影機で証明写真を撮ろうとしたとき、あの子と出逢った。

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