LLMの学習法を英語学習に応用したら多読にたどり着いた その2
前回の記事では、私が外国語を学んできて限界にぶつかったことと、LLMの学習方法を応用した英語の学習方法として、多読が最適なのではないかということをお話しさせていただきました。
今回は、具体的にどうやって多読をしていくのか、本選びや多読のコツについてと、第二言語を習得するのに有効だと思われるLLMから学んだ言葉の概念などについて説明いたします。
本選びから始めよう
多読を始めようと決意した後にやるべきことは、まず本選びです。
多読の本は以下の条件を満たすことが必要です。
興味がある、おもしろい、もっと読みたいと思える
あなたの英語レベルにあっている
(わからない単語が1ページに多くて2,3個)
多読にとって、本選びはもっとも大切なことなのですが、1冊目から自分にぴったりな本を見つけることはほぼ不可能なので、最初から自分にぴったりの本を一発で当てようという思いは捨て去りましょう。
そのためには本を開いて数ページ読んでみる必要があります。自分の英語レベルと本のレベルがあっているかどうかを確認するためです。
多読におすすめなサービス
そこでおすすめなのがProject Gutenbergです。
Project Gutenbergでは過去に発表され著作権がフリーになった作品を無料で読むことができます。以下のようなサイトで本探しの方法も調べることができますので、自分で調べてみるのもいいと思います。
また、Kindle Unlimitedもおすすめです。Kindle Unlimitedであれば、30日間無料で使えたり、月額固定費を払うと無料で読める本がたくさんあります。
近くの洋書がたくさん置いてある本に行って、ざっと見てみることができるのならそれもいいと思います。
まずは何かしら本を選んでみて、英語レベルがあっているかどうかを確かめましょう。分からない単語がたくさん使われているようであれば、今はその時期ではないので読むのをやめて他の本を探しましょう。
また、途中でおもしろくないなとか、分からない単語が多すぎると思ったら、やめて他の本を探しましょう。ただ、途中まではおもしろくないけれどもだんだん面白くなっていく本もあるので、さいしょのうちはおもしろさは我慢しなければいけません。
ここで言いたいことは、本選びが大切なので、1つに固執せずに違うと思ったら捨てて他のものもを探しましょうということです。難しすぎる本に固執してしまっては多読になりませんし、楽しめない本にしがみつく必要もありません。
レベル選び
Kindle Unlimitedでは、どういったところから探していけばいいのかというとGraded Readersから入るのがよいかもしれません。
以下にGraded ReadersのLevel 1の本のリンクを示しました。こちらのレベルで難しければ基礎の英文法などや英単語から学習した方がいいかもしれません。簡単であればこれより上のレベルを探してみましょう。
最初のおすすめ本
Project Gutenbergでは、「3匹のこぶた」なども読めますので、このレベルから見てみるのはどうでしょうか?
子ども向けだからと言って侮るなかれ。英語や中国語の通訳をしていた私も知らない単語がちらほら出てきました。ですので、多読を経験したことがない多くの人にとっては、基本的にはこのレベルか、それよりももっと簡単な幼児向けの絵本から始めてもいいと思います。
幼児向けの絵本には、学校や資格試験では出てこないような単語がたくさん出てきます。ネイティブの人たちにとっては簡単すぎる単語と認識されているかもしれません。
しかし、私のような第二言語として英語を学ぶものにとっては幼児の本でも知らない単語がたくさんあります。いや、幼児向けの本だからこそたくさんあるのかもしれません。
ですが、後で言葉と概念の説明をしますが、子ど向けなので概念は非常に簡単なため、理解はさほどむずかしくないでしょう。本音では私も子供向けの絵本から学びたいのですが、安くはないんですよね。
Project GutenbergをKindleで
Project Gutenbergでは、該当する本がいろいろな形式で保存されています。EPUB3 (E-readers incl. Send-to-Kindle)という形式を選択してダウンロードすると、Kindleアプリで開けるようになります。Kindleと書かれているものをダウンロードしてもKindleアプリでは開けないのでご注意ください。
これらの子こども向けの本をいくつか読めるようになれば、「不思議の国のアリス」などはいいかもしれません。こちらもProject Gutenbergにありますし、Kindle Unlimitedでも読めます。
レベルが合うものを見つけて、おもしろそうであれば読み進む。そうでなければ潔く次に切り替えていきましょう。読書において、捨てるという考え方は非常に重要です。
レベルが合わずに辞書を使うことが多かったり、つまらないのに読み進めると読書が長続きしません。続けることが必要ですので、本選びはじっくり選びましょう。
多読のコツ
もっとも重要なことは本選びですが、多読を実行する際にもコツがあります。
辞書をほとんど使わずに速読する
私は、読書というよりも観察するつもりで読んでいます。インプットして、自分の無意識の脳内パラメータを調整している感覚です。
辞書を使わないのは、1つはスピードと、もう1つは楽しみのためです。楽しくないと長続きしません。
逆に言えば、長続きさせることが重要なので、辞書で調べることも楽しいのであれば、多少知らない単語があっても、それもよいかもしれません。
戻り読みりしない
日本語の語順に合わせて戻って読んだりすることはやめましょう。英語で書かれた表現でそのまま受け入れていきます。ただし、集中せずに読み飛ばして気づいたら進んでしまったような場合は、戻ったりします。
すべてをきっちり理解しようとしない
1冊1冊、1文1文をこだわり、すべてを明確に理解しようとすると時間がかかりすぎてしまいます。一日1,000語を読むとすれば、50,000語達成するには50日、つまり2ヶ月くらい必要になります。50,000語の本1冊をそのペースで読んでいたら10冊読むのに2年近くかかってしまいます。わからないところは捨てて、時間も考えながら読み進めましょう。
ただ、私のようにきっちり理解しないと先に進めないという人は後でお伝えするChatGPTを使いながら一緒に読んでいく方法でもよいのかもしれません。
LLMからの重要な考え方
ここで、第二外国語を習得するにあたり、ディープラーニングやLLMの学習で参考となる考え方をまとめておきます。
言葉とは概念に貼られたラベル
「Googleの猫」で、AIが猫を判別できたのは画像から猫の特徴量を分析し、猫という概念を特徴量を使って抽出できたからです。AIは、猫という存在をあらかじめ知っていたわけではなく、「たくさんの画像を分類した結果、とある共通した特徴を持つものが見つかったぞ」という結果になり、それが人間が見たときに猫の画像だったのです。ですから人間は、AIが見つけ出してきた特徴に対して、それをCat(または猫)だと呼ぶんだよということを教えてあげれば、AIはCat(または猫)が理解できるようになります。
AIが抽出した共通の特徴というのはまさに概念であり、その概念につけられたラベル(Catや猫)が言葉なのです。
私たちが外国語を学び理解するためには、ラベルの付け替えをするのではなく、新たな概念を獲得する必要があります。概念を理解せずに表面上の日本語と1対1対応させた英単語を覚えることには限界があり、その方法を続けても応用が利かなくなります。(英語に対応する日本語を覚えることが意味がないわけではないけれども。)
例えば、「Engage」という言葉は辞書では「従事する」などと訳されます。「Engage」という言葉について、「従事する」という日本語を1対1で覚えることを私はラベルの付け替えと呼んでいます。
それだけを知っていても、ビジネスで使われる「エンゲージメント」(Engageの名詞形)という言葉には結びつけづらいです。しかし、Engageは積極的に関係性を持つという概念があると考えると、「婚約」「契約」などへの発展も考えやすくなります。「エンゲージメント」の理解への繋がりやすくなるでしょう。
言葉の概念は関係性によって形作られる
言葉とは概念に貼られたラベルだと説明しました。ラベルを貼るためには、概念が形作られている必要があり、言語の世界に境界線を作ることが必要です。現実の世界は連続的につながっており、そこに明確な境界線というのが存在しないことが多いです。境界線がない世界に境界線を引いて言葉が生まれます。
例えば「歩く」という動作をどんどんスピードを上げていくことで、「走る」に変わります。スピードは連続的に徐々に上げることができますが、どこかに線引きをして「歩く」から「走る」に変えていくわけです。日本語の場合、両足が同時に地面から離れることがあると「走る」と言います。その境界線が分かるようになってくると概念を獲得したと言えるようになるでしょう。
つまり、ある言葉1つを理解することで概念を獲得することは不可能で、その言葉とその言葉に関係する他の言葉との関係性によって、その言葉の概念は形成されます。
言語という多次元の世界に境界を作ってモデルを構築していくことが概念を獲得するということです。
そういった性質があるので、AIの学習方法であるディープラーニング(もしくはニューラルネットワーク)によって、多数のパラメータがあいまいな状態を保ったまま徐々に最適化されていく方法によって概念が形成されていくのでしょう。だからこそ、概念を掴むのに多読は適していると考えています。
このように概念獲得についての概念を持ち合わせていると、やみくもに読書をするよりも概念の獲得がスムーズに行われるのではないかと思います。
多読後はChatGPTで理解を深める
最後にChatGPTを使って多読を進める方法に触れたいと思います。基本的には辞書をあまり使わずに読み進めている多読においては、
分からない点をLLMに解説してもらう
Alice's Adventures in Wonderlandの一場面についてです。「shut up like a telescope」という表現が出てくるのですが、これについて理解できないので、ChatGPTにいろいろ聞いてみました。
ChatGPTに聞いたことによって、私はtelescope(望遠鏡)が伸び縮みするもので、伸びた状態から縮んだ状態にすることをShut upと表現しているということに気付きました。
私の中での望遠鏡の概念は、ハッブル宇宙望遠鏡などのとても大きなものだったり、小さい場合でもベランダに三脚で置かれているものをイメージしていたので、望遠鏡が伸び縮みするという発想がなかったのです。そのため、Shut upという表現の理解に苦しみました。
こういった場面で、いろいろ問い詰めると解説してくれるChatGPTを重宝しています。また、英語で教えてもらうこともできますし、やっぱり日本語がいいと思ったら日本語で教えてもらうこともできるため、こういう部分でLLMは最強です。画像生成機能があれば、分からない場面を絵で説明してくれることさえできますね。そのうち動画で説明してくれることも可能になるでしょう。
ChatGPTに問題を出してもらって理解を深める
また、速読した内容が理解できているかを確かめたり、より理解を深めるためにChatGPTに問題を作成してもらうという方法もあります。
しばらくテストなどは受けていないので、当てられるとけっこう嬉しかったりするものですね。
以下は「赤毛のアン(Anne of Green Gables)」から抜粋して問題を作成してもらいました。
まとめ
前回に引き続き、LLMの学習法を人間も活用できるという考え方で、多読の本の選び方、多読の進め方、さらにLLMから学んだ概念の獲得という方法と多読をする際のChatGPTの有効活用方法について説明いたしました。
ChatGPTが非常に優秀になり、リアルタイム翻訳もほぼ実現可能である時代ではありますが、ChatGPTができるからと言って、すべてを任せる必要もありません。
英語と日本語の大きな違いは、その概念が重なり合うところが少ないからでだろうと考えています。そうであれば、私たち日本人は英語を学ぶことでより多くの概念を獲得し、視点を増やすことができます。
ChatGPTを使いこなすということは、そのまま自身を成長させることに繋がりますので、みなさんも多読に興味を持っていただけましたら是非始めていただけるとうれしいです。
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