濃い霧が広がる山間の小さな村。
そこにある一軒の古い日本家屋が、村人たちの噂の的となっていた。
その家は「百年襖の家」と呼ばれ、その名の通り、百年以上前から使われている古い襖のある部屋があった。

村の人々は、百年襖には恐ろしい力が宿っていると信じていた。
その家に住んだ者たちは、次々と不幸な出来事に見舞われ、やがて姿を消してしまうというのだ。
誰もがその家に近づこうとしなかったが、ある日、一人の若い男が村にやって来た。

男は素性を伏せており、孤独で不思議な雰囲気を纏っていた。
彼は村人たちに「百年襖の家に住ませてほしい」と頼んだ。
村人たちは、戸惑いつつも彼の頼みを聞き入れた。

男はその日から百年襖の家に住み始めた。
彼は一人で静かに暮らし、日々襖の前で瞑想をしていた。
村人たちは彼の様子を見守りながら、何か良くないことが起きるのではないかと心配していた。

ある夜、不気味な光と奇妙な音が百年襖の家から漏れ出した。
驚いた村人たちが慌てて家に駆けつけると、百年襖が開いていることに気づいた。

家の中に入ると、そこには男の姿はなく、代わりに襖の奥から不気味な影が現れた。村人たちは恐怖のあまり、一瞬で逃げ出した。

その後も村では、百年襖の家から奇妙な現象が起こるという噂が絶えなかった。村人たちはその家を忌み嫌い、近づくこともなくなった。
こうして屋敷の存在は忘れ去られていった。

季節は巡り、この村に、とある家族が越してきた。
彼らは村人たちと仲良くなり、村で平和に暮らしていた。
しかしある晩、その家族の娘が突然行方不明になってしまった。村人たちは慌ててそこら中を探し回ったが、どこにも彼女の姿はなかった。

村は不安に包まれた。
そして、村人たちは思い出した。新しい家族が引っ越してきた家こそ、百年襖の家だったのだ。彼らは震えながら、百年襖の家に近づいた。

家の前に立つと、百年襖が不気味な音と共にゆっくりと開かれていく。
村人たちは背筋が凍る思いをしながら家の中に入った。
すると、そこには娘の姿があった。

彼女は無垢な笑顔のまま村人たちに向かって歩いてきたが、何とも言いがたい不気味さが漂っていた。村人たちは恐怖に打ち震え、彼女に近づくことも言葉を交わすこともできなかった。

そして、彼らが振り返ると、百年襖の襖は再び閉まり、その家は沈黙に包まれた。村人たちは唖然としていたが、それ以上何も起こることはなかった。

以降、百年襖の家は村の忌み嫌われた存在となり、誰も近づかなくなった。噂によれば、百年襖の家に住む者は、その家に呪われたように消え去ってしまうと言われている。しかし、真実はいまだに誰にも知られていない。