見出し画像

【MTGレガシー】2022年振り返り〜白スタックスの螢雪時代〜

僕はそんな闇の中に何度も手をのばしてみた。指は何にも触れなかった。その小さな光はいつも僕の指のほんの少し先にあった。

村上春樹「螢」及び『ノルウェイの森』より引用

〈発達の再近接領域〉という教育学の用語がある。
噛み砕いて言うと、簡単すぎるタスクや難しすぎるタスクは人を成長(発達)させにくく、ひとりでは難しいけれど誰かの助力があれば乗り越えられるタスクこそ人を最も成長させる、というものだ。

1.冬

話は僕の話に転換する。
2022年1月1日、僕が立てた目標がこれだった。

この中で、絶対に不可能だと思っていたのが3つ目の目標だった。
「目標」というのには語弊がある。「希望」のようなものだった。
何度も手をのばしても、いつもその先にある。
小説とひとつ違うとすれば、僕の指と小さな光の間は「ほんの少し」ではなくて、何万光年も離れているように思えた。

1月7日のリスト。《改良式鋳造所》が懐かしい。

こうして僕の2022年はマイペースに始まった。
頻繁に大会に出るわけでもなく、熱心にMOを回すわけでもない。
《敏捷なこそ泥、ラガバン》の環境席巻と禁止も影響していた。
〈守り〉のデッキはメタの影響を最も大きく受けるからだ。

2月2日のリスト。《精神迷わせの秘本》を初採用。
2月16日のリスト。《精霊界との接触》をいち早くお試し。

具体的に言えば、8castの流行により《エメリアのアルコン》の強さが見直された。
しかし、8castの加減の知らなきがために、じきに《溶融》や《無垢への回帰》《魔力流出》にまで対策は発展し、スタックスも大きなとばっちりを受けるとは、この頃まだ知らない。

同時期にあった僕自身の変化と言えば、あれほど嫌っていたFoilに手を出し始めたことだろうか。
何がきっかけだったか、今となっては判然としない。
相変わらず通常旧枠英語初版好きの原理主義者ではあるが、ワンデックマンとして、この魂のデッキぐらいは光らせてもいいんじゃないか、なんて思ったような気もする。
それとも、僕の往く孤独な道を、流星マークが少しでも照らしてくれそうな気がしたのかもしれない。螢のように。

しかし、変化は唐突にやってきた。
外からやってきた。MTGの外から。

2月末、4月以降の仕事についてあまりに大きな決断を迫られることになった。
延長されるのが当然だと思っていた契約。切られて去るか、(待遇はまずまずだが)望む方向とは少し違うポジションで残るか。
残酷な二択。

「《直観》で、《残る》Aと《残る》Bと《残る》C」「じゃあ右の《残る》で」

僕は後者を選んだ。
わがままに生きてきた人生の中で、初めて家族のことを考えたと思う。
気付けば、プライドよりも守らなければならないものが増えていた。

僕の悩んだ時間とは裏腹に、話はとんとん拍子に進む。
狭い世界によくあることで、僕が首を縦に振ることは見透かされていた。
全ては出来レースだったのだ。否応なくスタートの合図は鳴った。
立場だけでなく、労働条件も大きく変わることになる。
それは、この先新しい生き方が求められることを意味した。

僕は考えた。
もうカードに触ることなどできなくなるかもしれない、と。

ここでようやく話はMTGに戻ってくる。
そこから1か月弱、僕は暇さえあればMOのレガシーリーグへ潜り、なるべくカードショップにも出向いた。
これは僕なりのMTG終活だった。

2.春

しかし、リーグでは相変わらず3-2と2-3の繰り返し。
試したカードやリストは数知れず。そしてその数だけ焦燥は募る。

4月の足音が近づき、春風が陽光の温もりを窓辺に運び入れ始めた頃、不意にそれは訪れた。

苦節15年、ついに辿り着いたリーグ5-0だった。
手が震えた。心も震えた。

だが少し時間が経つと、不思議と結果よりも、多くの方々に祝ってもらえたことの方が嬉しく思えてきた。

僕は結果を手に入れた。
それは喉から手が出るほど欲しかったものだった。

だが、一番欲しかったものはもう手に入れていた。
同じ趣味や志を持つ仲間だ。

ひとりじゃないことが嬉しかった。
僕の成長は、仲間たちの助力があったおかげなのだ。それが直接的であれ、間接的であれ。

この日を境に2022年のMTGはーー
否、僕のMTGは大きく変わった。

マリガンチェックだけで手汗をかいていた対人童貞初心者が、自信を持って席につけるようになっていった。
プレイングの未熟さは自覚しているが、デッキ構築から相手の動きの見定めまでは十分通用しているように思えた。
短期間に集中して打ち込んだ成果だろう。

しかし、成長とは裏腹に、先の5-0の連作動画化を機に(完結は案の定夏になってしまったが)、僕はMTGから離れていった。
MOでの最大とも言える目標を達成できたのだし、GWのエタパの0回戦にも敗れたし、ちょうどいい頃合いだと思った。


……

「ひとつ抜かすってわけにはいかないよ。十年もずっとやってるからね、やり始めると、む、無意識に全部やっちゃうんだ。ひとつ抜かすとさ、み、みんなできなくなっちゃう」

村上春樹「螢」より引用

でも、心のどこかにまだ燻っている火があった。
心の中に降り積もっていくスス・カウンターは、僕に要求する。
気がつけば僕はBMOの0回戦を突破していた。

3.夏

職業柄、夏休みが長い。
暇とは言えない中でも、BMOに向けて煤けたデッキを磨き直していく。
〈遊び〉とはいえ、やるからには勝ちたい。

そんな時、以前から出てみたかった狭山市の彼の地きずな杯さんにお邪魔した。
その日は急に午後の予定が空き、ちょうど妻も出かけていたので、思い立って電車に乗ったのだ。
紙での真剣勝負に少しでも慣れておきたいという思惑もあった。

結果は、望外の優勝。
SE有りの紙の大会での優勝など、夢のまた夢だと思っていた。
目標に据えることさえなかったのだから。

こうしてBMOに向けて準備は万端だったが、順調な時にこそ悲劇が起こるのは世の常。
『ガリア戦記』にも書いてあったはず。(知らんけど

なんとBMOは妻の昇任試験とニアミスしていた。
この頃は新型コロナの感染が拡大傾向で、妻の大切な試験の前に僕が〈遊び〉でもらってくるわけにはいかない。
無念の0回戦ドロップだった。

スス・カウンターが増え、またひとつ心に影を落とした。

僕はそんな気持をどこに持って行くことも、どこに仕舞いこむこともできなかった。それは風のように輪郭も無く、重さもなかった。僕はそれを身にまとうことすらできなかった。風景が僕の前をゆっくりと通り過ぎて行った。

村上春樹「螢」より引用

ドロップ処理をした後も何かを諦めきれず、BMO当日の明け方、その何かを求めてレガシーリーグへ潜った。
ゲーム10-0でのマッチ5-0。完全試合。
朝日が眩しくて、少し泣いた。

さて、時を同じくして、レガシー配信者の鉄線さんから配信にお招きいただく。
上のようなわけで、また、鉄線さんには個人的に大きな恩もあり、全身全霊をそこに傾けた。
晩夏。これが僕のMTG史の墓標になっても構わないという覚悟だった。
(いささか大袈裟に聞こえるかもしれないが、真剣にそう思っていたのだ。)
注目カードの結果?べちゃくちゃ理屈捏ねまくった挙句外したけど何か?

9月1日、白スタックスのデッキ解説をnoteに上げる。
終活の締めくくりの墓碑銘ぐらいのつもりだったが、これまた多くの方に読んでいただき、リアクションを受け取った。

こんな風にして夏休みを生け贄に捧げることで、燃え尽きたはずだった。
しかしーー

やはり鉄線さんと配信で話した団結のドミナリアが気になっていた。
後から見ればレガシー級のカードが少ない(ある意味)優良エキスパンションだったが、白スタックス界から見ると《セラの模範》《カーンの酒杯》という2つの爆弾に、鉄線さんにも勧めていただいた《選定された平和の番人》もいた。
白スタックスのような時代錯誤のプリズンコントロールが、強化パーツ候補を複数もらえることなど滅多にない。

ここで終わりにしていいのか?
白スタックスは次のステージへ行けるかもしれないぞ。
その時、お前はそこにいなくていいのか?
そこへ、お前が連れて行かなくていいのか?

「難題」が僕に呼びかける。
だが、以前ほど遠くはないような気がした。
僕は手をのばした。

4.秋

9月19日、3度目のリーグ5-0。
ラッキーが重なったものだったが、構築には手応えもあった。
《セラの模範》《カーンの酒杯》は既にして淘汰され、《選定された平和の番人》だけがサイドに2人居座っていた。
全マッチでサイドインしていた。

10月6日、4度目のリーグ5-0。
気がつけば、もう5-0だけでは満足しなくなっている自分がいた。
5-0は〈螢〉じゃない。
僕はその先の闇を見つめた。
結果の先の内容を見られるようになっていた。

この日のリストは、結果と内容のどちらをも満足させるものだった。
《選定された平和の番人》がメインに4人厳しく立ち並ぶ。

フェッチランドを止め、返しの《不毛の大地》を止め、
ピッチカウンターを止め、除去を止め、ドローソースを止め、
《戦慄の復活》を止め、《タッサの神託者》をも止めた。

必ずしもクリティカルでなくとも、相手の手の内を知ることによって守られた勝利への道は数知れない。

この日、白スタックスは新しいページをめくった。
確かにそれを感じたのだ。

そして、僕は年内最後の目標を12月のエタパ東京に定めた。
イニシアチブという時代の寵児の誘惑を振り切って、白スタックスを限界まで磨く日々。
時間はいくらあっても足りなかったが、満足のいく75枚を練り上げられたと今この瞬間も思っている。

5.再び、冬

12月4日、明け方の冴えた空気が、少しずつプレイヤーたちの熱気に侵されていったような陽気だった。
結果は5-3。
勝ち越しという目標と、初めてのビッグイベントを楽しむという目標をきちんと達成できた。
…またひとつの悔しさとともに。

改めて、2022年の目標に立ち戻る。

・MOリーグ5-0
目標達成。それも4度も。

100点満点と言っていいはずだ。

・紙の対戦成績67%(2-1)以上
勝率67.9%(53-2-23)で目標達成。
忙しい中でそれなりに母数もこなせたのも何より。

・MOの対戦成績60%(3-2)以上
勝率59.6%(114-77)で、わずかに目標は達成ならず。
ただ、勝率を擦り減らしながらもがき続けた螢雪の季節は、今も僕の中に生きている。

最後に、戦績以外のことにも触れたい。
12月17日、僕が主催する会の第1回を開催した。

あのぼっちプレーヤーがこんな立場になるなんて、今でも信じられない。
ひとりでは成し遂げられなかったことも、仲間がいるからできる。
僕は今も確かに成長し続けている。

死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。

村上春樹「螢」より引用

結局、僕のMTG終活は空振りに終わった。
15年かけて辿り着いたその先に、また見果てぬ夢を描き始めている。飽きもせず、懲りもせず。

僕の心の中に燻る火は、今日もススを吐き続ける。
吐き出されたススは、螢のように舞い、雪のように積もる。

また長いゲームが始まってしまったのかもしれない、と思う。

でも覚悟はできている。
何せ、長いゲームレンジは白スタックスの土俵なのだ。

(了)

6.あとがきにかえて

12月29日、本振り返りの抄を有名配信者のすすきつちのこさん、改め、すすきおののこさんに配信で読み上げていただきました。

私以外、超有名なみなさんの振り返りが紹介されていますので、まだご覧になっていない方はぜひ。

それではみなさん、佳いお年を。