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【MTGレガシー】限りなくPVに近いピキュラ〜白スタックス視点の団結のドミナリアカード評価〜

プロローグ

飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蠅よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回して暗い部屋の隅へと見えなくなった。

村上龍『限りなく透明に近いブルー』

団結のドミナリア(以下、DMU)は、僕にとっては非常に重要な意味を持つエキスパンションだった。

1つは、その舞台が僕が初めてMTGの世界を訪れた〈ドミナリア〉だったからだ。
エキスパンションとしての「ドミナリア」発売時に引退状態だったこともあって、(時のらせんブロックを除けば)まさに「アポカリプス」以来の再訪。
青春の残り香に胸が高鳴らない訳がなかった。

もう1つは、DMU発売前に尊敬するテゼレッター使いの鉄線さんのYouTubeチャンネルにお招きいただき、カードリストを見る配信をしたからだ。

それなりの期間MTGに触れてきたが、これほど真剣に、誠実に、発売前のカードリストと睨めっこしたことはなかったと思う。
どんな質問にも答えられるように、そして、少しでも配信を盛り上げられたら。
僭越ながら、白スタックスを擦り続ける者を代表して。

光栄な気持ちと喜びに少しの緊張が加わって、MTGに纏わる想い出の大切な1ページとなった。

今回は、そんなDMUのカードの中から白スタックスで実際に試してみたカードについて、改めて評価をまとめたいと思い筆を執っている。

限りなく相棒に近い悪魔ーー《セラの模範》

DMUの収録カードが公開された際、全白スタックス民が注目したカードがあった。

《セラの模範》。イラストがあまりに神々しい。

悪名高き《夢の巣、ルールス》に類する効果を持ち、《ウルザの物語》や《不毛の大地》を場に戻すだけでなく、破壊された《三なる宝球》なども場に戻すことが可能。

おまけに稲妻圏外の飛行戦力ときた。
《賛美されし天使》《悪斬の天使》の系譜に連なり、それ以上に強力でさえある〈白い悪魔天使〉だ。

このカードの使用感についてはぜひ別稿を期したいと思っていますが、現在のところ白スタックスでは白ダブルシンボルと4マナが想像以上にきつく、このカードの本格的な使用はエンジェルストンピィ派閥やデスノート派閥に譲りたいと思っています。

ひとつ言えるとすれば、レガシーの4マナは「勝負を決めなければいけない」ということ。
既に《大いなる創造者、カーン》《煙突》《難題の予見者》らが列をなし、《謙虚》《Moat》《ハルマゲドン》といったある一部の人を〈殺せる〉カードたちが後ろに控えている。
その中に並べるには、些かこの天使は〈優しすぎた〉ということです。

また、あえて《世界のるつぼ》ではなく《夢の巣、ルールス》の名前を引用したのも、このカードが前者のような「単純であるが故に強力な、終わりなきリソース回復」とは若干性質が異なると感じたからです。
長大なゲームレンジを望む白スタックスに於いては、《世界のるつぼ》の無尽蔵さには敵わない、というのが私の評価です。

限りなくディードに近いディスクーー《カーンの酒杯》

次に、DMUで注目していたカードが《カーンの酒杯》だった。

《カーンの酒杯》。無色で〈アポカリプス〉を起こすとは。

フェッチランドや《グリセルブランド》の起動を抑え込み、憎き《Force of Will》さえ許さない。
さらに、自分の《虚空の杯》を巻き込むとはいえ、先置きされた小型生物を一掃できる。
無色になって帰ってきた令和の《破滅的な行為》。

結果から言えば、このカードは「1ターンキルし得る、弱いネビ盤」でした。
前半は極めて強力ではあるものの、運の色が強く、後半はレガシーに慣れている方ならおわかりかと思いますが非常に弱かった。
ゲームレンジが短いレガシーではタップインのタイムラグが重く、また全く効かない相手が想像以上に多いため、白スタックスの〈守り〉への貢献は不十分だったと言わざるを得ません。
ソーサリータイミングというのも致命的で、丸裸でターンを渡して勝てるほどこの世界は我々に〈優しくなかった〉ということです。

第三の新人ーー《選定された平和の番人》

しかし、光はやはりDMUの中に隠されていた。

《選定された平和の番人》。テキストの長さが彼の気難しさを体現している、のかも。

このカードのことは、決して評価していない訳ではなかった。
まずまずのスペックを持ちながら効果は範囲が広く、少なくとも相手の手札を見られる情報アドバンテージは非常に大きい。

しかし一方で、このカードを注目の最前列に置くことを躊躇ったのも事実だ。
理由は2つあった。

理由①:《稲妻》とタフネス4の壁

3/3というスタッツは、レガシーでは決して「いいスタッツ」とは言い難い。
《稲妻》という環境を定義する火力に、《忍耐》というレガシーを定義する瞬速ブロッカーの存在。
3/3におまけ程度の警戒では、レガシーを生き抜くにはなんだか心許ないように感じたのは事実だ。

理由②:《精鋭呪文縛り》の現在地

僕だけでなく多くの方が、このカードに《精鋭呪文縛り》(以下、PV)の影を見た。
ストリクスヘイヴン収録の名チャンプは当初こそ様々なデッキで試され、白スタックスでもそこそこの活躍をしたものの、今では暗いストレージの隅へと見えなくなった。
《護衛募集員》でのサーチと《リシャーダの港》《不毛の大地》でのバックアップが可能なDeath&Taxesでさえ採用されていない現況を見れば、《選定された平和の番人》(以下、番人)も同じ道を辿るだろうと考えていた。
安易に、余りに安易に。

《精鋭呪文縛り》。みんな大好きナイスガイPV。

これについては苦い経験もある。
PVで追放した《Force of Will》を2マナで綽々と撃たれ、《実物提示教育》を5マナで撃たれ、幾度となく敗北を喫した。
レガシー環境の強力なカードとマナ加速の前では、2マナ程度は瑣末な足枷にしかならないことも多かったのだ。

「番人はPVなのか?」
そんな懐疑を胸に、白スタックスで番人のテストを始めた。
幸いにして、Magic Onlineではこのカードは安かった。

最初は《カーンの酒杯》と同時起用したが、じきに上記の理由で《カーンの酒杯》は姿を消し、その枠も番人に回ってきた。
そして、番人はそのチャンスをモノにした。
圧倒的な実力で手に入れたレギュラーの座ではなかったが、密やかに、でも確実に、自分の席を確保し始めた。
採用枚数は着実に増え続け、今ではメインに4枚、観賞用バインダーにFoil4枚が厳めしくスタンバイしている。

誤認❶:《稲妻》は理由にはならない。

これは、今や押しも押されもせぬ白スタックスのエース《エメリアのアルコン》でも犯した評価ミスだった。
人は失敗の体験に引き摺られる生き物だ。
私は再び同じ過ちを犯していた。

レガシーには同じ1マナ除去は幾らでもある。
それでも尚、先陣を切り続ける勇ましき執政官の背中に何を見ていたのかと、小一時間自分を問い詰めたくなるところだ。

はい。
詰まるところ、①は大した問題ではなかった。
むしろ、1ターン目に着地し得る上に、マナ食い虫の《ウルザの物語》ともうまく付き合えるという点では《難題の予見者》以上の使いやすさだった。

誤認❷:見えないモノを見ようとして負け筋だけを抑え込んだ

問題は②だった。
カードを手札から追放できるPVでさえ使われない中で、番人を優先する意味はあるのか。
まして、PVは空を守ることさえできるというのに。

ここで、番人の最大のメリットは、起動型能力に課税できる点だったと言っていいと思う。
特に強いのは、土地2枚でキープした相手のフェッチランドを止める動きだ。
《カーンの酒杯》ほどの絶対性はなくとも、驚くほど相手の行動を制限できることがわかった。
場合によってはそのままゲームエンドにもなり、また相手が3ターン目に必死にフェッチを切る様は圧倒的なテンポアドバンテージとなっていた。
《エメリアのアルコン》や《不毛の大地》と組み合わせると尚強力だ。

さらに、このカードは2枚重なったカードを指定できると強さが倍増する。
土地1〜2枚でキープした相手の《稲妻》や《剣を鍬に》等を複数枚を丸め込むと、《不毛の大地》とつるんでそのまま押し切ることもしばしばあった。
白スタックス好みのシナジー形成だ。

他にも、苦手なマッチアップで光る場面があったので紹介したい。
ある時は、Doomsdayの《タッサの神託者》を4マナにして相手を投了させた。
またある時は、対エルフの負け筋ナンバーワンである《自然の秩序》を6マナにして辿り着かせなかった。
勝ち筋がわかっていれば手札にないルートも止められるというのは、予想の何倍もの強みだった。

また、私が鼻で嗤った警戒もバカにはならなかった。
特に強いのが、殴りつつ《大いなる創造者、カーン》を守るブロッカーにもなる点だ。
これは他のカードには絶対に真似できない。
盤面に触ろうとしながら硬いPWをも落とすのは至難の業で、相対的に《大いなる創造者、カーン》を生き残りやすくさせてくれている。
「選定された」番人の面目躍如だ。

《平和の番人》。私のパワー1はMTG七不思議のひとつ。

結論、番人はPVではなかった。
空も飛べないし、追放もできない。《護衛募集員》の呼び掛けに呼応することもない。死ねば全ては元に戻ってしまう。

しかし、この番人は確実に相手を翻弄する。
そう、もう1人の古えのチャンプの如く。

《翻弄する魔道士》。PVじゃない、ピキュラだ!

エピローグ

ニッチなデッキを握っていると、思いもよらないところから解決策が降ってくることが多々ある。
他のプレーヤーの評価も、世界の常識も、自分の中の常識さえも飛び越えてやってくる。

しかし僕らは、気付かぬうちに〈黒い鳥〉にやられてしまう。
ドラッグ、セックス、マナレシオ、カードアドバンテージ…。
僕らを統一せんとする、圧倒的な評価の〈システム〉の力にやり込められてしまっている。

《表現の反復》。「あなた狂ってるわ、しっかりしてよ。わからないの?狂ってるわ。」(村上龍『限りなく透明に近いブルー』より引用)

マイナーデッキを使う者の矜持として、あらゆる可能性に扉を閉ざしてはいけない。
門の前に立つ厳しき番人の背中から、僕は今回こそ学んだつもりだ。(n回目