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日本に煌めくロシアの世界~雑貨店「マリンカ」へようこそ(3)

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西武池袋線・椎名町の駅から、トコトコ歩いた住宅街の中にあるロシア雑貨店「マリンカ」。

お店の扉を開くと、広がるのは、かわいらしくて、ちょっと控えめで、欧米ともアジアとも違う煌めくロシアの世界。

ロシア雑貨店「マリンカ」オーナー・鈴木真理子さんにロシア雑貨やロシアへの思いを語っていただく短期集中連載・第三回目(最終回)となります。

「マリンカ」オーナー 鈴木真理子さん

ロシアを訪れたときのカルチャーショック

 ロシアは森が多いといわれていますが、どちらかというと、大平原がそのまま残っているような感じの国ですね。飛行機に乗っていると、日本海をはさんでロシアに入ると、延々と7、8時間「誰も住んでいないの?」みたいな土地の上空をずっと通っていくんです。それくらい手つかずの大地がまだたくさんある。

 私が、旧ソ連時代に行ったときは、空港を降りてすぐに白樺の林があって、市街に向かうメイン通りを中心部に抜けてやっと建物が出てくるみたいな感じでしたね。ただ、今はモスクワやサンクトペテルブルグのような都会はかなり整備され、空港近辺まで開発されて、ホテルやショッピングセンターもできています。

 ロシアを訪れたとき、決していい意味ではない衝撃も受けました。初めて行ったときは、まず、空港で荷物が出てこない。そして、迎えの車に乗ったら、車の窓ガラスも割れていて、2月で風がすごくて寒くてたまらないんです。しかも、当時は排気ガスの規制もなかったので、車の中に排ガスが入ってきて、とても気持ち悪くて、「ホテルまでたどりつけるんだろうか?」と心配になりました。そして、泊まったホテルが、コスモスホテルというモスクワオリンピックのときに建てられた大きなホテルで、当時外国人のお客はそこに集約されていたんですが、「部屋が盗聴されているかもしれない」という噂もあって、とにかく見ること聞くことすべてがカルチャーショックでした。

 ロシアとの出会いは、そんな衝撃的なところから始まったんですが、ただ、会社につとめていたときから現在に至るまでに、ソ連が崩壊して資本主義へ転換し、その時代の移り変わりを目の当たりにしてきました。ものすごい激動の中で人々がたくましく生き抜いていく、それもまた、私にとっては大きな衝撃でした。

ロシア人は、非常にタフ

 ロシア人は、いろいろな側面をもっているのですが、まず、確実にいえるのが彼らは非常にタフだということです。

 帝政ロシア時代からソ連、そして資本主義へと、大きく制度や主義が転換する中で、人々はそれにあわせて生活してきています。特にソ連から今のロシアに変わったのはものすごい大転換だった。頑張れば頑張ったなりの収入が得られる今の時代になって「住みやすくなった」と今の制度を気に入っている若者たちに対して、ある一定のノルマをこなせば、自動的に同じ給料がもらえて医療費や光熱費は国が負担してくれる共産主義時代のほうが住みやすかったというお年寄りたちも多く、いずれにしても激動の中を生き延びている彼らの逞しさはすごいと思います。

 日本に比べて、ロシアはまだまだ不便なところがたくさんあります。私自身住んだことはないので、細かいことまではわからないですが、住んだ経験のある人からよくそのように聞きます。たとえば、車の運転免許をとるなら、ある程度自分で車を直せるくらいの技術がないと取得出来ない。日本のJAFのように何かあったらさっと来てくれるようなサービスはないので、自分である程度修理ができないとだめなんだそうです。ただ、それだけに生活の知恵はすごいものを持っていて、ロシアへ行くたびに彼らのタフさを感じますし、人間本来の力を発揮できているのは、ロシア人じゃないかと思います。

 ロシアも、最近は都会のほうは整備されてきましたけれど、田舎に行くと、昔のままのものが残っています。不衛生な部分を嫌だなと思うこともあるんですけれど、その一方で、細かいことを気にしないおおらかさはいいなと思います。日本人が細かく刻みすぎて正確性を求めすぎているようなところに対して、彼らは「まあいいじゃん」というおおらかさがある。ロシアに行くと、日本にいるのと違う時間が流れて、それが心地よいんです。特にサンクトペテルブルグに行くと、運河が多く緑も豊かな街なので、景色的にもゆったりしている。建物の高さの制限もあるので、空がすごく広くて、自然の中にいるわけでないのに自然を感じられる場所で、私は、モスクワよりもサンクトペテルブルグが好きですね。

進みだすと、一気に進歩するロシアのパワー

 ソ連が崩壊して資本主義に変わった直後のロシアは、70年もソ連時代が続いていただけに、資本主義っていわれても何?という感じで、混沌としていて混乱していました。流通も悪くて物が無い時代が続いていたし、当時はもがいている感じだったんですが、そうかと思うと、それが進み出すと一気にいろいろな部分でわっと伸びて、その伸びしろがすごかった感じがありましたね。

 以前のロシアでは、クレジットカードに対して「こんな板一枚で何が信用できるの?」みたいな感じだったのに、ここ数年で一気に普及したんです。今はスーパーマーケットに行くと、もう現金で払う人のほうが少なくなってきている。私がスーパーでお財布から現金出そうとすると、レジのおばちゃんから、「現金なの?めんどくさい」みたいな顔をされたりします。

 私が旅行の仕事をしていたときは、テレックスしか通信手段が無かったのに、FAXでの通信を軽く通り越して、すぐにE−MAILを使うようになったのです。「メールアドレス教えてくれ」っていわれて、びっくりしましたね。当時、私たちの職場ではまだ一人に一台パソコンを与えられておらず、何人かで共有して交代で使っていた時代だったんですが、同じころにロシアでは一気に一人一台が当たり前になっていた。このことからもわかると思いますが、動き出すとすごく早くて、ない部分を一生懸命補おうとするパワーがある人たちなんです。変わるとき、最初はすごく混乱するけれど、一旦落ち着くとぐんと伸びるのを繰り返している感じがしますね。

 以前、ロシア人のスタッフと話していたことですが、ロシアは自国の製品で世界に打って出るものがないんです。そこはまだ相変わらず資源。それがロシアの弱みで、それをどうにかしないといけないと言っていましたね。車や家電製品でもロシア製で有名なものはないし、それこそ、「輸出のメインはマトリョーシカ」という冗談が出るくらい。民芸品や陶器もいろいろあるけれど、世界的な知名度があるかといえば無い、そこが彼らのジレンマみたいなものだと感じますね。ただ、あのパワーだと何かすごいものを開発してどんと出てくることは将来的にあるかなと思います。

ロシア雑貨に触れて、ロシアの見方が変わってくれたら

 ロシアは切り口がすごく多くて、雑貨にしても、私がいいなと思ってお店に置いているようなものだけでなく、ミリタリーグッズが面白いと扱っているお店もあるし、スポーツ、芸術、文学がいいと思っている人もいます。できれば、「工芸品かわいいね」というだけじゃなく、物を介して最終的には人々が交流できる、日本人とロシア人が近づけるように発展していけたらいいなと思います。

 「マリンカ」に買い物に来てくれる人は、ロシアにまったく興味がないという人ではなく、多少なりともロシアの何かに惹かれて来る人が多いと思うんです。うちの場合はそれがマトリョーシカという方が多いのですが、ロシアは政治的な怖いイメージばかりじゃないというのは、雑貨を通して少しずつ伝わってきているとは思います。ただ、一方で「ロシアって、寒いでしょ?」「暗いでしょ?」みたいな質問をしてくる方もいまだに決して少なくはない。なので、そういうイメージを打破していきたいなとは思います。

 マトリョーシカが好きで買いに来て、ここで工芸品を見て「こういうものもあるんですね」って気づいてくれる人がだんだん増えて広まっていけば、お互いの理解も深まるんじゃないかなと。最終的には人と人の交流が大切ですよね。かわいいものを通して知り合うと変な先入観から入っていかないので、それがいいんじゃないかと思います。幸いにもロシアにはかわいい工芸品がたくさんあるので、「マリンカ」に来ていただいて、ロシア雑貨に触れることで、ロシアの見方が変わってくれるといいなと願っています。

                                 (完)
ロシア雑貨店「マリンカ」
住所:東京都豊島区目白4-27-7
電話:03-3565-3205
FAX:03-3565-3779
http://www.marinka-zakka.com/

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