230912‗更新　231001

はじめに

コロナ禍で話題になりましたが、世界中でペットを飼う人が増えています。
そして、国内では15才以下の子どもの数よりもペットの数が多くなり、ペットの家族化も進んでいます。
この背景には、高齢化や少子化、そして核家族化の拡大などの家族構成の変化があると考えます。更に、ストレスの多い現代社会において、私たちは無意識に動物から得られる癒しの効果を求めていることも、要因の一つではないでしょうか。

アニマルセラピーは科学的にも証明されている医療行為

　この癒しといえば、アニマルセラピーがあります。高齢者施設などで生活向上の目的で動物とのコミュニケーションを図ることは多く知られ始めています。そして日本ではまだまだ一般的ではないですが、アニマルセラピーは、世界各国で認知され科学的にも証明されている”医療行為”です。
この『科学的に証明されている医療行為である』ことを、私は初めて知りました。
　ということは、15才以下の子どもの数よりもペットの数も増え、家族化している日本は動物とのふれあいの素地を既にもっています。そこに、ほんの少しペットと医学についての知見を広げるだけで、日本は“アニマルセラピーで社会福祉分野のフロントランナー”になれるのでは！？と、考えたのです。少子高齢化の日本です。ペットと一緒にいる日々で癒され、科学的に証明された方法で精神的身体的な、そして社会的機能の回復につながるなら、それは動物たちの仕事にもなります。いえ、訓練された動物でなくとも我が家の相棒（ペット）たちは、私がどんな時で私に寄り添い、気持ちをホッとさせ、そして私に生きる力を与えてくれています。
“日本は、アニマルセラピーで社会福祉分野のフロントランナー”になれる⁉

みなさんは、今回の話を読んでどう思われるでしょうか。

では、歴史からご紹介しますね。

1.アニマルセラピーの歴史

アニマルセラピーは、動物を使ったセラピー手法です。
その起源は紀元前。古代ローマ帝国時代(紀元前400年のギリシア)、傷ついた兵士のリハビリに乗馬が用いられたことにあります。
そして、世界各国で認知され、科学的にも証明されている医療行為です。

アニマルセラピーは日本の造語

　なんと、アニマルセラピーは日本の造語でした。
　　日本では、動物とふれあうことでの情緒的な安定を指す事が多く、
　　一般的に以下の”動物介在活動（AAA）”が該当します。

　後で詳しく説明しますが、アニマルセラピーには国際的な組織があり、
　以下の３つの活動とされています。
　　　　　　　AAA　（Animal Assisted Activity）動物介在活動
　　　　　　　　　　動物とふれあうことによる情緒的な安定などへの活動
　　　　　　　AAT　（Animal Assisted Therapy）動物介在療法
　　　　　　　　　　医療者が人の治療に活用する活動
　近年注目の教育分野における動物介在諸活動
　　　　　　　AAE　（Animal Assisted Education）動物介在教育
　　　　　　　　　　正しい動物とのふれあい方や命の大切さを学ぶ活動

治療は負傷兵のリハビリという成人だけでなく、「動物介在療法の父」と呼ばれるレビンソンの登場で子どもの治療法の有効性も広まりました。
この、子どもの治療法の有効性や、科学的な検証が行われたのは20世紀後半と、未だ100年も満たない最近の事なのです。

では、その歴史を追ってみましょう。

・[紀元前]
　戦争の負傷兵のリハビリに馬が用いられる「乗馬療法」が誕生。

・[1856-1939年]
　心理学者フロイトは愛犬であるチャウチャウ犬を治療に同席させ、その
　行動によって患者の心理を推測し診療を進めた。

・[1962年]　子どもの治療
　「動物介在療法の父」と呼ばれる米児童臨床心理学者レビンソンの登場
　レビンソンが「共同治療者としての犬」を発表。
　精神障害を持つ子どもへの治療に飼い犬を同席させたことで、子どもが
　レビンソンに対して心を開き、停滞していた治療が進んだ「共同治療者と
　しての犬」を報告しました。病院、情緒障害児のための入院治療センター　　
　や学校、身体障害児や知的障害を持つ子供のための訓練学校などに於いて
　も、子供たちが動物と触れ合うことの効果について述べています。

・[1970年代]　科学的検証がスタート
　動物との触れ合いが実際に人の心身の健康に与える影響について調査した
　検証では、血圧の低下やストレス時の鎮静効果が数値的に実証され、動物
　介在諸活動の科学的裏付けとなった。

　科学的な検証を行った、各分野を横断する以下の諸団体
　獣医師、動物行動学者、精神医学・心理学者、医療関係者などで組織され
　た米デルタ協会（Delta Society）、英国のSCAS （The 　Society for 　Companion Animal Studies）、 フランスの AFIRIC （French 　Association 　on Human and Animal Interaction）など。　

・[1992年]　国際組織IAHAIO設立
　国際組織IAHAIO
（International Association of Human-Animal Interaction Organizations）は
　世界最大のヒト-動物相互作用（HAI）および動物介在活動（AAA）、動物　
　介在療法（AAT）、動物介在教育（AAE）に関する組織。これらHAI、　　
　AAA、AAT、AAEの科学的基盤や実践的応用を推進し、人間や動物の福祉　
　や健康に貢献することを目指す。
　使命は、人と動物の相互作用（Human Animal Interaction=HAI）の
　分野を進歩させるための国際的な指導力の提供。

   動物介在諸活動の科学的実証を行っていたデルタ協会、SCAS、AFIRIC 等の
　諸団体が、人と動物との相互作用の正しい理解を促進するため設立しまし
　た。
　活動は、アニマルセラピーの『ガイドライン』や『動物と人間双方の健康
　に関する指針』を宣言などもあります。これらのガイドラインや宣言は、
　国際組織の設立前の1977年にロンドンの国際会議で始まり、現在でも3年
　おきに開催される国際会議で行われています。

　日本からの参加は1994年『公益社法人　日本動物病院協会(JAHA)』、
　2003年に『ヒトと動物の関係学会』がナショナル・メンバーに承認されま
　した。
　
　『公益社法人　日本動物病院協会(JAHA)』は、1978年に日本動物病院協
　会が創立した組織です。目的は、動物病院および動物医療の充実、動物病
　院による地域社会への貢献を推進です。

　ナショナル・メンバー承認では、*HAB思想の普及啓発、特にCAPP活動（アニマルセラピー）が国際的に評価されました。
　*HAB思想とは、Human-Animal Bond（人間-動物絆）の略で、人間と動物　
　が互いに健康的な関係を築くことで、双方の精神的・身体的健康を向上さ　　
　せるという考え方です

『ヒトと動物の関係学会』は、1995年に発足した単独学会です。研究領域は多岐にわたり、言語・文学、哲学、心理学・教育学、社会学、史学、地域研究、統合生物学、農学、臨床医学、健康・生活科学、環境学などの分野から参加しています。目的は、さまざまな動物たちと、人間とのあいだの良好な関係を形成・発展させるための研究の推進と、それらの成果を社会に還元することです。
ヒトと動物の関係を”文化や歴史、倫理や法、心理や教育、医療や福祉、生態や環境など”、様々な側面から考察しています。

2.動物介在活動（AAA）、動物介在療法（AAT）、動物介在教育（AAE）とは

　『公益社法人　日本動物病院協会(JAHA)』のホームページから一部引用
　　し、説明しますね。

●AAA　（Animal Assisted Activity）動物介在活動
一般にアニマルセラピーとよばれる活動の多くはこのタイプです。

[目的] 患者のQOL向上
[内容] 高齢者福祉施設の訪問、病院訪問の一部、教育施設への訪問など
・動物とふれあうことによる情緒的な安定、レクリエーション・QOLの向上等を主な目的としたふれあい活動。

●AAT　（Animal Assisted Therapy）動物介在療法
[目的] 患者の治療目的に合わせた補助や治療支援
[内容] 治療の目標設定に沿った介在、活動形態と起こった変化の記録する
・動物の存在や動物との関わりから生じる人への有益な作用を、医療者が人
　の治療に活用する。
・具体医的には、医療者による目的設定、計画作成のもとに実施され、電子
　カルテなど公式な記録を伴う。精神的身体的機能、社会的機能の向上な
　ど、治療を受ける人にあわせた治療目的を設定する。
・適切な動物とボランティア（ハンドラー）を選択、治療後は治療効果の評
　価を行う。

●AAE　（Animal Assisted Education）動物介在教育
近年注目されている教育分野における活動です。2001年に国際組織IAHAIOで動物介在教育に関する国際的なガイドラインが採択されました。

『公益社法人　日本動物病院協会(JAHA)』では、小学校等に動物と共に訪問し、正しい動物とのふれあい方や命の大切さを子供たちに学んでもらうための活動をしています。そして、生活科や総合学習などのプログラムとして取り入れる学校も徐々に増えているそうです。

アニマルセラピーに適した動物と適さない動物

アニマルセラピーには適している動物と、適さない動物がいます。
〈公衆衛生面における条件〉
　予防注射の接種、 寄生虫の予防駆除、定期的な爪切り、シャンプー、
　ブラッシング、歯磨きなどが可能。
〈行動適正における条件〉
　性格面としつけの適性度、ハンドラーが動物をコントロールできている。

●アニマルセラピーに適した動物

・適した動物は「コンパニオンアニマル」と呼ばれる人間とともに生活してきたという特徴がある動物たちです。
　例：犬、猫、うさぎ、モルモットなど。

・適性基準は、「人と難なく接することができ、他の動物や見知らぬ場所にも順応できるか」
　例：基本的なしつけ、行動を制御できるか。
　　　感染症予防の点から定期的な健康診断を行っているかなど。

●適さない動物
・適性基準に沿わない動物。
　例：カメ、イグアナ、トカゲ、フェレットなど。

・高度なしつけが難しく、行動が予想できない動物は、危険も伴うため治療活動にはあてられない。
・人との共通感染症の解明がまだ乏しい動物や、臭いが強い動物、インフルエンザなどの感染が疑われる動物など。

アニマルセラピスト　人と動物の橋渡しになる仕事

アニマルセラピーを実施するための専門家が「アニマルセラピスト」です。
主な仕事の内容と働き先は以下になります。

●仕事内容
・教育や福祉、介護施設への訪問
・アニマルセラピーを通じたレクリエーションの実施
・セラピーアニマルの訓練や教育、健康管理
●働き先
・老人ホームなどの高齢者福祉施設
・教育施設や児童施設
・病院などの医療施設

動物介在と日本の医療業界

2009年の日本獣医師会の資料（「200907_動物介在諸活動と獣医師及び獣医師会の役割」）によると、獣医療技術の向上に伴う伴侶動物の高齢化・健康管理に対する飼育者の関心の高まり、「動物と人との絆の重要性への認識」から、飼い主と獣医師とのつながりは深まりつつあります。
　人と動物との関係が人に与える影響の重要性が認識されるようになり、それに伴って、1980 年代から欧米を中心に伴侶動物などを用いての介護や福祉、疾病治療や機能回復、教育に関する諸活動が行われるようになってきました。そのひとつが、動物介在活動です。
　伴侶動物を用いて、飼育者やボランティアが病院や福祉施設を訪問し、治療あるいは患者・入居者の生活の質の向上への支援を行う活動である。
　日本でも、活動への関心が高まり、すでに複数の団体により活動が実施されています。

欧米より先んじて始まった日本の”動物飼育の教育”。しかし・・

　獣医師の役割は、動物の疾病の予防と治療（人と動物の共通感染症の 予防や寄生虫の予防・駆除）。動物に対して 公衆衛生上の問題がないか、心身共に健全であり活動の遂行に問題がないかを確認する事などが当たります。
　そして、欧米が先行するこの分野ですが、日本が先を行くことがあります。それは、”学校における動物飼育の教育”です。欧米ではまだ一部の国・地域でしか行われておらず、また、飼育動物の種類、教室や飼育や訪問活動の方法もまちまちです。　日本では、動物飼育の教育的効果が明治期より注目され、独自の動物を用いての教育が一貫して展開されて来ました。

私の記憶を掘り起こせば、通っていた小学校ではニワトリを飼っていて、飼育係を決めお世話をしていました。しかし、ただ飼っていたと云うだけで生物の勉強に活用される事もなく、学校の先生に餌は何を与えればよいのか？ニワトリの特性を尋ねても、明確な回答を得られた記憶はありません。

そもそも、教員養成課程に飼育活動に関するカリキュラムはほとんど無く、多くの教員が動物飼育に関する知識に乏しい現状があったようです。
平成に入り、各地方自治体が獣医師と連携して学校の動物飼育支援事業を始めました。1999年、文部省の学校指導要領の解説書生活科編に学校における動物飼育について「飼育に際しては獣医師の指導のもとに・・」と明記されました。日本獣医師会は、『学校飼育動物の診療ハンドブック』をまとめ、関係者へ配布しています。

そして、この明治時代から注目されたという『動物介在の教育』は日本の大きな強みだと感じます。現在は、小学校・中学校から学校教育と動物飼育が融和した教育が獣医師会支援のもと行われ始めているようです。

単なる餌やりから、『心の教育』、『動物からの感染症』、『死亡時の喪について』、『殺処分の防止』や『食育』、そして『ウエルビーイング』などへ枝葉が全国共通の総合教育の１つとして広がり、定着する事を期待します。　そして、それらの活動により近年、低年齢化している殺人を含む凶悪犯罪を防ぐことにもつながる『動物教育プログラム』も期待します。

また、動物と触れ合うことの効果を期待した、保護犬、保護猫などの高齢者施設での活用などさまざまな好循環も考えられます。気持ちが落ち着き、血圧が下がったり、一緒に生きる為に何をすればよいのか考えることで責任感を持つことや、相手の気持ちに成ることなど。安心安全の気持ちがベースになった脳の活性化により穏やかで豊かな人生が追加されるでしょう。

3.海外の事例

海外では医療活動（AAT　（Animal Assisted Therapy）動物介在療法）として活用されている事例が多く見受けられました。

●患者の苦痛を軽減と医療スタッフの気分改善効果 (アメリカ、2018年）

　アメリカのケンタッキー州の医療システムでは、患者の回復と充実した自立した日常生活を支援するために、セラピー動物（一般的には犬だが、猫や馬なども）や介助犬に焦点が当てられ、アニマルセラピーを活用する病院が増えています。

ケンタッキー州の施設で使用されるセラピードッグの種類は、必要性に応じて異なります。一般的には、施設セラピー犬、動物介在セラピー犬、セラピー訪問犬の3種類です。

苦痛を軽減するための非薬理学的介入の一例として、セラピードッグの使用に測定可能な利益を見出しつつあります。

例えば、慢性的な痛みを抱えるある患者は、犬を10分間撫でると、1日に飲む鎮痛剤の量が半分に減ることがわかった。

更に、患者だけではなく、スタッフにも良い効果が現れています。
スタッフの気分の改善や、リハビリや医療に従事する自己効力感や意欲の向上による患者の関与の増加に現れているそうです。

●アルツハイマー病財団のセラピードッグ（アメリカ、2019年）

ニューヨーク市にあるアルツハイマー病のアメリカ教育リソースセンター財団(https://alzfdn.org/）は、センターで無料のセラピードッグボンディングセッションを開催し始めました。

非営利団体は最近、認知症関連の病気を患っている人だけでなく、介護者、家族、友人など、アルツハイマー病に冒されたすべての人に、センターで無料のセラピードッグボンディングセッションを開催し始めた。

「特に認知症関連の病気に関しては、ペットセラピーにさまざまな価値がある」と、語っています。

4.日本の事例

国内で動物介在治療法を行う医療機関

●全国初の大学病院でセラピー犬の導入の動物介在療法 (2015年)

聖マリアンナ医科大学病院の動物介在療法
聖マリアンナ医科大学病院の動物介在療法は、ある女の子の長期入院を切掛けに、2015年に全国初となる大学病院での動物介在療法の導入に踏み切りました。現在も、緩和ケアの一環として行われるアニマルセラピーの活動は続いています。

2012年の夏、長期入院を余儀なくされた一人の少女がきっかけとなり、動物介在療法の導入機運が高まったそうです。協力は、日本盲導犬協会、日本介助犬協会です。２年間に延べ40病棟で動物介在活動を行い、その実績が認められ、病院に常勤するセラピー犬の検討部会は発足。そして、翌2015年にスウェーデンからやって来たスタンダードプードル（大型犬）のミカ（日本介助犬協会提供）が病院スタッフとして加わる事となりました。

●北里大学メディカルセンター(埼玉県)　/珍しい国内急性期病院事例(2014年）

現在、3代目のメディカルドックが活躍中！
活動資金をクラウドファンディングで募る！

2008年に前病院長の坂東さんが、ワシントンの小児病院の廊下を犬とハンドラーが堂々と歩いている姿に衝撃を受けたことが切掛けとなり、活動が始ましました。
坂東さんは、欧米ではすでに動物介在療法の実績や論文があることを知り、当時勤務していた大学病院小児病棟でつらい気持ちを抱えながら病気と闘っている子どもたちやご家族を支えるために、なんとか導入できないだろうかと考えたそうです。
　帰国後、日本でも数か所の小児医療施設での取り組みがあることを知り、同じ北里大学で動物介在療法の研究をしていた、現ハンドラーの饗庭尚子さんとの出会いを経て、導入を計画しました。

2014年に本格的活動がスタート。

2015年には、日本盲導犬協会との間で連携・協力に関する協定を締結しました。

北里大学では、動物介在療法チームの一員である犬を＂北里メディカルドッグ”と呼んでいます。
地域の急性期医療を担うこの病院には、病状が落ち着いていない時期の患者さんが多く、患者さんの身体的負担だけでなく、精神的な負担もまた大きい現状があります。そこで、病院スタッフが専門チームを組んで、患者さんにあわせた治療　AAT(動物介在療法）を提供しています。

2019年には3代目受け入れの資金として、クラウドファンディングを実施し。約400万円（寄付者　295人）を集めました。

readyfor.jp

急性期医療を支える。北里メディカルドッグ3代目受け入れ継続へ - クラウドファンディング READYFOR

坂東 由紀（北里大学メディカルセンター院長 ）

医療・福祉

寄付する

• ¥ 4,244,000
• 295 人
• 終了しました

達成率: 141%

チームでAATを実現する3つの軸。医学×獣医学×日本盲導犬協会

北里大学メディカルセンターは、「医学の知識」×「獣医学の知識」×「日本盲導犬協会の犬の行動管理」のノウハウでAATの信頼性を高め、治療に役立てていると、北里大学メディカルセンター 病院長、小児科医の坂東由紀さんは語ります。

パンドラ―には、病院で働く理学療法士や看護師患者もおり、担当看護師やリハビリスタッフと連携しやすい環境ができているそうです。さらに、入院患者さんの精神的ケアを担当している精神科医もチームの一員となり、「こんな状況の患者さんにこういった作用を期待してAATができないだろうか」と計画し、主治医や医療スタッフと相談して実施し、その後の反応も含めて確認しています。
AATを行う際は、治療状況を確認し、無理せず休んだ方がいい時期なのか、積極的に動いたほうがいい時期なのか、どんな姿勢が楽なのか、今日の体調はどうだろうか、などを十分に把握し、安全で効果的なAATに努めているそうです。

▼看護師のインタビュー動画

3軸の１つ日本盲導犬協会　

セラピー犬を提供している日本盲導犬協会の山口義之さんの言葉が印象的でしたので、そのまま以下に引用します。

”はじめから賢い犬はいない”。この言葉にハッとしました。
私たちは、盲導犬、セラピー犬を聞くと、”そういう犬”と思ってしまいがちですが、適正や訓練を経て、”その仕事に生きがいを感じた犬”なんですね。
そして、”人と犬の可能性を広げ、お互いの生きがいを探し当てる”なんともグッとくるステキな響きですね。

●社会医療法人　松平病院　/精神科・心療内科・内科（2006年）　

松平病院では、セラピードッグの教育を受けた専門犬3匹が活躍しています（2023/08時点のホームページより）
特徴的な試みは、セラピードックのケアを障がい者の社会復帰を支援する病院内の就労継続支援事業所『工房 茶居花』が担当している点です。
社会復帰の視点からも、犬をお世話する中で他の人と関わりが見られるようになるなど、動物を介在することの意味合いはとても大きいと感じているそうです。

セラピードックのケアは具体的には、食事は市販のドッグフードは一切使用せず食事は手作り、運動は併設のドッグランで、そして、シャンプーや専用ドライヤーでのグルーミング、トイレの世話、犬舎の掃除などのお手入れなどをすること。これらにより、社会復帰を目指しています。

また、アニマルセラピーは、精神科の患者さんへの治療手段として大きな効果があると実感しているが、精神科での有効性はまだ実証されていないそうです。

今後の成果を期待したいと思います。

●ファシリティドッグとNPO法人シャイン・オン！キッズ

最後に、2006年に特定非営利活動法人タイラー基金として発足した、日本のセラピー犬の草分け的な存在である『NPO法人シャイン・オン！キッズ』を
ご紹介します。

シャイン・オン！キッズ（旧タイラー基金）は、2歳を目前に白血病で亡くなったタイラー・フェリス君のご両親、マークさんとキムさんによって設立されました。つらい闘病生活でも笑顔を絶やさなかった息子タイラー君の勇気と自分たちの経験を役に立てたい、という気持ちから活動を開始したそうです。
　
医療レベルは高いが、患者や家族のサポート面に課題がある日本

日本の医療レベルは世界で進んでいるが、患者や家族のサポートという面ではまだ立ち遅れています。この団体は、日本における患者のサポートを問い直し、告知から治療、退院後まで全面的に患者をサポートするシステムを整えたいと願い、活動を続けています。

主なシャイン・オン！キッズの主な活動
　①日本初　こども病院専門の動物介在療法活動ファシリティドッグ事業
　②アート介在療法のビーズ・オブ・カレッジ（勇気のビーズ）
　③小児がん経験者のキャリア学習支援キャンプカレッジ
　④病院とオンラインで繋がるシャイン・オン！コネクションズなど

主に関係する医療機関
欧米では数多くのファシリティドッグが活躍するが、日本はまだ4病院　

2010年　静岡こども動物病院（日本初のこども病院の導入）
2012年　神奈川県立こども医療センター
2019年　東京都　小児医療センター（都内初/全国3事例目）
2021年　国立成育医療研究センター

ファシリティドッグとは
ファシリティドッグとは、セラピー犬の中でも特に幼少期より専門的なトレーニングをつんだ犬で、病院内での安全なコントロール技術を学んだハンドラーと共に、一つの施設 (ファシリティ)に常勤で働く犬のことです。

子どもたちと家族のサポートには、感染対策のみならず、高度な専門性が、ファシリティドッグとハンドラー双方に求められます。このため、この法人事業の大きな特徴は以下の2点となっています。

1. ファシリティドッグを専門的なドッグトレーナーが国際基準に基づき育成すること

2. ハンドラーを臨床経験5年以上の看護師が務めること

▼ファシリティードック、ベイリー活躍の動画

ファシリティドッグの国内育成

シャイン・オン！キッズは、2019年度より試行的に国内育成事業に着手を始めました。
　日本には国際基準を満たし導入実績のある育成機関がなく、アメリカの育成団体、アシスタンス・ドッグス・オブ・ハワイとグローバルパートナーシップを組むことで、犬を確保してきました。しかし、アメリカのNPO法人として、基本的にその成果はアメリカ社会に還元すべき立場であり、長期にわたる持続は確約し難いことを合意した上でのスタートでした。このため、ファシリティドッグの安定した日本国内での供給を目的とし、育成事業を開始した訳です。

患者とその家族、そして医療関係者が安心できる質の高い動物介在療法を継続的に実現するために、『シャイン・オン！・キッズ』の挑戦はつづいています。

シャイン・オン！キッズの活動をサポート方法

シャイン・オン！キッズの活動は、個人の方や企業からいただく寄付金で成り立っています。以下のリンク先から、さまざまな支援方法をお伝えしています。寄付金を送る方法や、本やDVDの買取金額が寄付になる方法、お買い物での支援、寄付型自動販売機を設置、自身の誕生日プレゼントの代わりに寄付を募る「バースデードネーション」、ボランティアで参加、そして、SNSで「いいね！」やリツートでの応援など。

▼シャイン・オン！キッズのX（旧　Twitter）

https://twitter.com/sokidsJP

▼シャイン・オン！キッズのInstagram

https://www.instagram.com/facilitydogs_sok/?hl=ja

5.まとめ

日本が”アニマルセラピー”で世界の“社会福祉分野のフロントランナー”になるために

今回調べて分かったことは、日本は”アニマルセラピー”で世界の“社会福祉分野のフロントランナー”になれるかも！しれないという事でした。

経済協力開発機構（OECD）のメンタルヘルスに関する国際調査によると、日本国内のうつ病・うつ状態の人の割合は、2013年調査では7.9％だったのに対し、新型コロナウイルス流行後の2020年には17.3％と約2倍に増加しています。また、65歳以上の高齢者層がピークとなる2040年には46.3％が認知症の可能性があるとも言われています。

　動物介在教育（AAE）から始め、動物介在活動（AAA）、動物介在療法（AAT）を私たちが国策として学ぶ事で、日本が”社会福祉分野のフロントランナーになり、動物たちとの触れ合いや学びにより社会的な好循環が生まれるとも感じます。更に、介在療法として活躍が期待される”ファシリティドッグの国内育成”や必要な法整備なども含め国の援助を期待したい所です。

特に、動物介在教育（AAE）や動物介在活動（AAA）は多くの人方が直ぐに始められることです。

動物介在教育（AAE）では、単なる餌やりから、『心の教育』、『動物からの感染症』、『死亡時の喪について』、『殺処分の防止』や『食育』、そして『ウエルビーイング』などへ枝葉が全国共通の総合教育の１つとして広がり、定着する事を期待します。そして、それらの活動により近年、低年齢化している殺人を含む凶悪犯罪を防ぐことにもつながる『動物教育プログラム』も期待します。

動物介在活動（AAA）では、動物と触れ合うことの効果を期待した、保護犬、保護猫などの高齢者施設での活用などさまざまな好循環も考えられます。気持ちが落ち着き血圧が下がったり、一緒に生きる為に何をすればよいのか考えることで責任感を持つことや、相手の気持ちに成ることなど。安心安全の気持ちがベースになった脳の活性化により穏やかで豊かな人生が追加されるでしょう。

　現在、日本では15才以下の子どもの数よりもペットの数が多く、家族化したペットと多くの方が既に共存を始めています。北里大学メディカルセンターの事例で登場した日本盲導犬協会の山口義之さんの言葉を少し置き換えてお借りると、”人と動物の可能性を広げ、お互いの生きがいを探し当てること”が、日本の未来を明るく照らすと考えます。その一歩は、学校で動物を飼育しふれあうことであり、ペットとの暮らすことなのです。

≪参考≫厚生労働省の試み
2007年(H19年）に、厚生労働省は”高齢者福祉施設などで実施される「アニマルセラピーの効果」の検証事業”を行っています。検証の内容は、活動に従事する人々が自然に感じられる「アニマルセラピー (*CAPP活動)」の効果、特に日常生活に及ぼす影響です。成果は、CAPP活動が高齢者の心理的健康や身体的健康に有意な影響を与えることが示された。具体的には、CAPP活動が高齢者のストレスや孤独感を軽減し、自己肯定感や社会的支援感を向上させることが分かったというものでした。

＊CAPP活動：人と動物のふれあい活動（Companion Animal Partnership Program）の略称で、動物とふれあうことによる情緒的な安定やレクリエーション・QOLの向上などを目的としたふれあい活動

厚生労働省は、このようなアニマルセラピーの効果を科学的に検証することで、医療・介護・福祉分野でのアニマルセラピーの普及や発展に貢献しています。また、アニマルセラピーに関する情報提供や啓発活動も行っており、一般市民や関係者に対してアニマルセラピーの理解を深めることを目指しています。

参考資料
・2009年7月　社団法人日本獣医師会(http://nichiju.lin.gr.jp/）
「動物介在諸活動(動物介在活動・動物介在療法・動物介在教育）と獣医師及び獣医師会の役割」

http://nichiju.lin.gr.jp/small/school/h21_07.pdf

・NPO法人　日本アニマルセラピー協会（http://animal-t.or.jp/）
「アニマルセラピスト」

https://www.hospat.org/assets/templates/hospat/pdf/hakusyo_2015/2015-1-13.pdf

《セラピーキャット》　本のご紹介

今回、本文中でご紹介できなかったのですが、おススメの１冊です。
セラピーキャットのヒメの活動を紹介した　
ノンフィクション作家　眞並恭介(しんなみ　きょうすけ）氏の
『すべての猫はセラピスト』講談社　出版2017/2/15

セラピーキャットのヒメは、セラピードックのチャッピーから英才教育を受けて育ったという運命的な猫です。著者は、東日本大震災後の福島を取材されてきた眞並さん。眞並さんは、原発事故後のシェルターで飼い主を待ちつづける猫や、動物たちの世話をする獣医師などの話を含め、いろいろな角度から私たちに”ヒトと動物の生き方”を伝えてくれています。

「猫には、苦しむ人をよみがえらせる力がある。猫は偉大だ!」
 ノンフィクションライター野村進氏推薦!