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第16回 風景描写

 子どもの頃からライトノベル作家になりたくて、そのためにはきちんとした日本語を身につける必要があると思ったので、帰国子女だけれど大学は国文学専攻を選び、中学高校の国語科教員免許も取得し、その後、ライトノベルのコースのある専門学校にも通い、2005年に講談社のホワイトハート新人賞を受賞した私の独断と偏見と経験による『執筆の処方箋』を全22回でお送りします。

 本来、風景は目で見て理解するものです。
 それを、小説では『文字』だけで伝えるのですから、作者が思い描いている風景を読者の頭の中にも描いてもらえるよう、常に意識して言葉を選び、紡いでいく努力を忘れてはいけないと思います。
 登場人物に感情移入をし、彼らと共に空想の世界を感じるためには、そこに存在する全てのものに対して自然に心の中で思い描けなければ、興ざめして読み進めるのを止めてしまうことでしょう。
 風景を身近なものとして想像させる手段の一つとして、『』があります。
 国語辞典によっては、十二単に使われていた伝統色の組み合わせ、襲色目(かさねいろめ)の一部が掲載されていたりするので、その種類豊富な色に驚くとともに、使いこなせたら素敵だな……と何度思ったことか(笑)。
 淡朽葉だの淡紅梅だの萌黄だの……作者がより現実味を出そうと思ってそれらのこまやかな『色』を描写したところで、必ずしも全ての読者が『色』に詳しいわけではないですから、逆効果になるでしょう。
 風景に欠かせない『色』を表現する時は、難しく構えないで、そこに小説の世界観や作品の雰囲気などを絡ませることで、『色』の演出効果を出すことができるのではないでしょうか。
 異世界にしろ近未来にしろ架空の国にしろ、作者が思い描く独自の世界観をしっかり想像してもらおうと思って、あれこれ情報を盛り込みすぎると……読者はついていけなくなると思います。
 わかりやすいだろうと思って比喩を多用したり、修飾語をたくさん使うと逆に混乱します。
 単語が持つ意味、言葉から想像できる印象に頼りすぎることなく、実際に思い描いている場所に近いところへ出向いてみて、五感で感じたことを自分の言葉で表現してみる練習をしてみるのもいいでしょう。
 簡潔な文章で重要なこと、伝えたいことを率直に伝える。
 読みやすく、わかりやすく、実在するものを記す。
 ぜひ、身につけてみてください。

第17回は、『見えないモノを描写する』です。

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