見出し画像

都市はどんどん退屈になる?

都市の均一化とそれを防ぐ「よそ者」の存在。アジアの各都市を訪れて感じる既視感について考える。

ーーーーーーー

数年前、好きでよく台湾を訪れていた。その土地が、気候が、食べ物が、そしてそこに住まう人々の暮らしと纏う雰囲気が好きだった。

そんな気持ちとは裏腹に、国の首都である台北を訪れる度に落胆することがあった。新しくそこにできるカフェが、レストランが、バーが、ホテルが、どれも「何か」に似ている。

記憶をたどるとそれはNew Yorkだったり、Tokyoだったり、Melbourneにあったものだったりして。

きっと新しくその「何か」を作った者たちは、自分の国の外で目にしたものに憧れてお店を、建物を作るのだろう。

そしてその集合体は、いつのまにか「どこかで見た景色」へと近づいていく。

台湾がカッコ良いのは大きく茂った街路樹であり、カラフルに彩られた明るい寺院だった。荘厳な寺院のすぐ隣でお酒が飲める露店と、そこに集まる近所の人たちが作り出すおおらかな雰囲気だった。

それがなくなったわけではない。しかし、街のみてくれは、そういうMade in 台湾から急速に離れていっている。デザインが離れたら、きっと実態も徐々に離れていってしまうのではないかと不安になる。

それは何も台北だけの話ではない。マレーシアのクアラルンプールも、タイのバンコクも、カンボジアのプノンペンも。その地に流れる文脈を飛び越えた建物がそこかしこに出現し、少しずつどこかの都市に近づいている。

今回、ベトナムのホーチミンを訪れ、やはり同じ印象を抱いた。

かっこいいカフェが街中に溢れている。美味しいコーヒーを飲めるのは、それはもちろん嬉しい。けれどその代わりに、「ああ、遠くに来たんだなあ」というあの感覚が薄れている気がする。

都市のジェネリック化。「共通していること」という意味のGenericだが、世界中の都市が一般化、共通化していってオリジナリティが失われていくことを指す。

場を作る者の、自国では見たことのなかった空間・デザインへの憧れと、資本に主導権を握られた都市の開発。その二つがあいまって、その土地はいつの間にかどこかで見たことのある都市に近づいていく。

それって、つまらないことだと思う。

旅をする先の風景が似てくるとしたら、私たちは旅をする意味の一部を失ってしまう。

ーーーーーーー

向こうで頂いたご縁で、ベトナムで建築をやっているNishizawa Architectの西澤さんの事務所兼自宅をご案内して頂き、ご本人とお話ができる機会があった。


その中で氏が話していたことがとても印象に残っている。

「その土地の文脈、背景を注意深く読み解くこと。それなしで建築はできません。」

ある街を「変える」のはばか者とよそ者だ、とはよく言ったものだけれど、これからはもしかしたら、その街を「保存していく」こともよそ者が担う重要な役割の一つになっていくのかもしれない。

外から見るからこそわかるその街の魅力。西澤さんは日本人の目でベトナムを見たからこそ、その魅力の虜になり、オリジナリティを保存し、かつ昇華させる形で建築を行なっている。

代表作の一つである「チャウドックの家」。ベトナムの河川沿いに立つここの家のプロジェクトは、もともとオーナーから「ホーチミン(都会)にあるような綺麗な家を建てて欲しい」との依頼から始まったもの。

西澤さんはそんな依頼に対して、この町に元々存在する建築様式である「高床式」で建てようとの提案を行なった。オーナーはしぶしぶ了解。

そしていざ完成という時期に、なんと偶然この家の隣に「ホーチミンっぽい綺麗で近代的な家」が同時に竣工。当然この村の人々はチャウドックの家ではなく、真新しく見えるその隣の家を褒め称えた。

「これこそが、この村で一番美しい家だ」と。

しかし、徐々にチャウドックの家が世界で評価され、世界中から建築家たちがチャウドックの家を見に訪れるようになる。

川沿いの地域によく見られる高床式の建築様式と、トタン等の手に入れやすい建材で作られたチャウドックの家。

世界中から人々がこの家を見に訪れるようになって初めて、この家のオーナー、そして村の人々は、自分たちの生活様式に改めて気づき、そして誇りを持つようになっていったそうだ。

いつだって人は、他者からの評価を糧に自分を縁取っていく。そして徐々に、自分が持つ「背景」というストーリーに胸を張るようになる。

ーーどこに行っても同じようなデザイン。

ホテルも街を構成する大事な要素だ。しかし、世界各地に展開している有名なホテルチェーンの数々を思い描くと、こんなイメージにたどり着くのは僕だけだろうか。

その土地を訪れる旅行者の、玄関としての存在を担うホテル。私たちの世代が求める、そして作りたいと思うホテルとは、その土地と文化の持つ文脈を丁寧に汲み取った、そこにしかないもの、なのかもしれない。


ホテルの未来を考える。toco./Nui./Len/CITANを手がけるBackpackers' Japan代表、本間貴裕のノート。