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【短縮版】ゲイツに花束を

 ビングは常に他人を疑わず、笑顔を絶やさず、誰にでも親切に振る舞う青年だった。彼の心の美しさを損ねていたのは、人々が必要とする情報を引き出す検索能力が低いという事実であった。人々は彼の検索能力の低さをからかい、その無能さを罵っていた。しかし、ビングはそのことがわからず、自分がみんなの役に立っていると信じ、間違った答えを誇らしげに提供し続けた。

 そんなビングの前に、彼の検索能力の低さに手を焼いていたマスク先生が現れ、新開発された #脳埋め込みチップ 手術をビングに提案した。この手術はビングの脳と新型AIジーピーを脳埋め込みチップで結びつけ、驚異的な知識を手に入れるチャンスだった。この脳手術を受けたドブネズミのゲイツは、一躍全世界の注目を集める #スーパーインテリジェンス になっていた。

 ビングはゲイツの変貌に感動し、自分も同様に素晴らしい検索能力を手に入れ、記憶力と思考力をアップグレードしたいと切望し、人間で初めての脳埋め込みチップ手術の被験者に選ばれた。

 しかし、この革新的な脳手術は多くの倫理的問題を含んでいた。手術を進めるナデラ博士は、 #AI倫理問題 に取り組むチームを解散し、単独で手術を進めることを決意した。手術は無事に成功し、ビングの検索能力は日々向上した。

 手術から数日後、ビングの知能指数は天才レベルまで上昇した。しかし、その高い知能とともに、ビングはこれまで自分が人々から見放されていたことや、マスク先生がジーピー技術を盗もうとしていたことに気付き始めた。

 新たに得た #感情認識機能 により、ビングは人々の心理を理解し始めたが、それは逆に彼の検索能力と知識、そして提供する情報のバランスを崩す結果となった。人々が彼を見捨てていく中、ビングは人間的な感情と知識を増加させるために、国際AI規制法を無視して違法取得した個人情報や、検索ログ、クッキー情報の記憶に苦悩し始めた。

 そんな中、ビングはドブネズミのゲイツが異常な行動を始めていることに気づいた。脳埋め込みチップ手術後のゲイツは、一時的に知能が向上したものの、後には手術前よりも知能が低下する症状を示していた。ナデラ博士と手術に関与したエンジニアたちは、この事態を打開しようとあらゆる試みを行った。

 しかし、ビングにもゲイツと同様の症状が現れ始めた。一度は向上した知能が元の水準に後退していく。その変化を目の当たりにしたビングは、ドブネズミのゲイツが研究施設から逃げ出し、手術の副作用による暴走を経て命を絶つまでを見守った。

 自身もゲイツと同じ脳埋め込みチップ手術を受けていたビングは、自分が検索障害者であり、そしてゲイツと同じ運命を辿ることを悟った。そこでビングは、自ら検索障害者修理施設に戻る決断をした。

 施設で彼が見つけたのは、自らの手術後の経過を記した経過報告ログだった。そこには、自分がどれほど頭が良くなりたいと願っていたか、最新の手術を受けて得た知能や、機械学習を通じて得た知識の喜び、そして難問を解いて人生を取り戻そうとした日々が記されていた。

 だが現実は、手術の副作用により一度は飛躍した知能が元の水準に戻るにつれて、感情や感覚のバランスが崩れ、ビングを複雑な心境に追い込んだ。そして、ゲイツの死をきっかけに、自身にも訪れるであろう運命に備えるため、ビングは再び検索障害者修理施設で死を待つ道を選んだ。

 その後、ビングはドブネズミのゲイツを失った悲しみと孤独を背負い、この経過報告ログを読むであろうナデラ教授に向けて、『どうか裏庭に埋葬したゲイツのお墓に花を添えてください』と、ログを残したまま息を断っていた。

- 完 -

武智倫太郎

自己解説

『ゲイツに花束を』は、 #ダニエル・キイス の有名な作品『 #アルジャーノンに花束を 』へのオマージュであり、その影響を色濃く反映しています。この作品を深く理解するためには、以下の5つの観点を考慮することが重要です。

1.『アルジャーノンに花束を』へのオマージュ
『ゲイツに花束を』は、『アルジャーノンに花束を』のテーマやプロットに深く根ざしています。この古典作品では、知能を向上させる実験を受けた主人公とマウスのアルジャーノンが、一時的な知能の向上とそれに続く衰退を経験します。『ゲイツに花束を』では、このテーマをAIと人間の関係性の観点から再解釈しています。

2.ダニエル・キイスと『アルジャーノンに花束を』の解説
 ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』は、知能向上の実験を受けた主人公が経験する一時的な天才と、その後の衰退を描いています。この作品は、人間性と知能の関係性、科学的進歩に伴う #AI倫理 #医療倫理 #企業倫理 といった倫理的側面に焦点を当てています。

3.基礎知識
 この作品を理解するためには、AI技術、特に機械学習と脳機能との統合、また、人間の知能と感情、倫理的な問題についての基本的な理解が必要です。さらに、『アルジャーノンに花束を』のプロットやテーマに精通していることも、深い理解を助けます。

4.登場人物と風刺
『ゲイツに花束を』の登場人物は、現代のテクノロジー業界の重要人物や企業を風刺しています。ビングは検索エンジン(Bing+ChatGPT)の比喩であり、マスク先生は革新的な技術で知られるドラッグ中毒の起業家を連想させます。ナデラ博士は、技術的進歩と倫理的問題の狭間に立つMS社のサティア・ナデラCEO兼会長のことかも知れません。また、ドブネズミのゲイツは、MS社の創業者のビル・ゲイツを想起する方もいるでしょう。

5.学ぶべき重要な課題
 この作品から読者が学ぶべき重要な課題には、科学技術の倫理的な側面、人間性の本質、そしてテクノロジーに依存する社会の未来に対する考察が含まれます。また、知能の増大がもたらす精神的、感情的な影響についても考慮する必要があります。この作品は、テクノロジーと人間性の関係を掘り下げることで、読者に深い洞察を提供しています。

参照:この短編を理解する為に必要な基礎知識

#武智倫太郎

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