なぜ、「足袋」の着用をオススメするのか?〜合気道と畳との関係〜【中編】
【前編】では、
合気道ならではの「滑るような足捌き」と、そのために必要な、技術的なアプローチ(拇指球を中心とした足捌き)について書きました。
↓ ↓ 【前編】はこちら ↓ ↓
今回の【中編】では、
合気道ならではの「滑るような足捌き」を行うための、「素材」からのアプローチを考えていきます。
(3)滑るような足捌きのための、「素材によるアプローチ」
① 自然素材の稽古畳(柔道畳)からスタートした合気道
滑るような足捌きのためには、拇指球(足親指の付け根にある膨らみ)を軸にした足捌きが大切です。
ですが、どれだけ足捌きを工夫しても、足裏に床の素材がくっつくような環境ではどうでしょうか?
滑るような足捌きなどできません。
これは、合気道草創の時代には考える必要がない問題だったと思います。なぜならば、当時は「ビニール畳(後述)」がなく(あっても流通量が少なく)、稽古には「琉球畳表(*1)」の稽古畳(柔道畳)を使うことが基本だったからです。
そして、合気道は「琉球畳表」の上で生まれ、育まれてきました。
したがって、「合気道ならではの足捌き」とは、「琉球畳表の上で動くことに適した足捌きである」、と考えることができます。
これを言い換えてみます。
「合気道ならではの足捌き」とは、
「開祖・植芝盛平先生(大先生)や、合気道を体系的に確立された二代道主・吉祥丸先生、諸先生方が稽古をされていた環境で生まれ・自然と育まれた足捌き」である。
合気道において、何よりも大切な要素が足捌きなのだと考えれば、この点を見逃してはならないと思います。
② ビニール畳の上で行われている合気道
現在、合気道の稽古は、そのほとんどが「人工素材の柔道畳(通称:ビニール畳)」の上で行われています(伝統的な琉球畳表の畳や、ジョイントマットなどを用いて稽古をされている道場もあります)。
そして、この柔道畳は国際規格に沿って作られており、畳表(畳表面の、人が接する部分)の素材は「塩化ビニール」です。そして、畳の素材はインシュレーションボードを主体に、2層から3層になる発泡ポリプロプレンによって、クッション性を高めています(*2)。
クッション性は、受身の衝撃を和らげてくれるのですが、沈み込む性質にもなります。ビニール畳に乗ると、このクッション性によって、少しだけ足が沈みます。ビニール畳は、足が沈み込むため、足裏に吸い付くのです。
足裏に吸い付くようなビニール畳では、滑るような足捌きは難しくなります。
もうおわかりかもしれません。
当会が「足袋の着用」をオススメする最大の理由は、
「ビニール畳の上で、滑るような足捌きを行うため」です。
③「ビニール畳」と「合気道の足捌き」
ビニール畳の普及と、合気道の普及は、時期が重なります。
というよりも、ビニール畳の普及によって、あらゆる場所で手軽に稽古できるようになったことが、合気道の普及に寄与したとも考えられます。
過程はどうあれ、現状では、ほとんどの合気道の稽古が「ビニール畳」の上で行われています。
前項では、足裏に吸い付くようなビニール畳では、滑るような足捌きは難しい、と書きました。無理に行えば、足を痛めてしまいます。
特に、合気道ならではの足捌きである転換・回転を、足裏に吸い付くビニール畳で行う際には注意が必要です。足裏が畳に張り付いた状態で、上半身だけぐるっと回転させることをイメージしてください。自分の膝に、自分で関節技をかけるような状態になり、痛めてしまうのです。
こうしたケガを防ぐために、
ビニール畳では、「ビニール畳に適応した足捌き」が必要となります。
ですが先ほど、
「合気道ならではの足捌き」とは、
「開祖・植芝盛平先生(大先生)や、合気道を体系的に確立された二代道主・吉祥丸先生、諸先生方が稽古をされていた環境で生まれ・自然と育まれた足捌きである」、とも書きました。
このように考えると、
「ビニール畳に適応した足捌き」とは、「本来的な(自然素材の畳の上で生まれた)合気道ならではの足捌き」から変化する可能性が高くなります(※もちろん、稽古環境への適応は、1つの進化形ともいえます)。
では、われわれはどうすればよいのでしょうか??
④ 解決策としての「帆布の縫い付け」(でも一般的には難しい…)
この点についての対応としては、合気会の本部道場や、多田先生が主催する道場(自由が丘道場・月窓寺道場 等)の対応が参考となります。
これらの道場では、ビニール畳のクッション性を保ちつつ、合気道ならではの滑るような足捌きができるように、畳表に「帆布」が縫い付けられています。
ちなみに、本部道場の畳表に帆布が付けられた経緯についても、多田先生がお書きになっています。合気道の稽古における、畳表の(素材の)重要性がよく分かるお話なので、こちらも引用させていただきます。
自由が丘道場でも、以前はビニール畳がそのまま使われていたと、先輩から伺ったことがあります。そこに帆布を付けたのは、「座技や足捌きを存分に稽古できるように」、という多田先生のこだわりでした。
ですが、帆布の縫い付けは常設の専用道場でなければできません。公営の柔道場を借りるような場合には不可能です。そして、かなりの費用も必要です。つまり、一般的な道場では、真似することが難しい。。
それでは、ビニール畳の上で、合気道ならではの滑るような足捌きを可能にするためには、一体どうすればよいのでしょうか??
(4)合気道至心会のアプローチ
① 畳は変えられない。ならば「何か」を履いてはどうか?
私が稽古させていただいた道場の環境は、多田先生のこだわりによって帆布が縫い付けられていました。研修会などでたまにお邪魔した本部道場も同様です。
しかし、東京で稽古している間にも、外で稽古をする機会はありました。演武会、講習会・出稽古、広島やイタリアなどへの遠征稽古。そして、こうした機会にお邪魔した武道場は、もれなく全て、「ビニール畳」でした。
「ビニール畳」の上で、合気道ならではの滑るような足捌きをするにはどうすればよいか??この点について、私は試行錯誤を重ねました。
1つはもちろん、拇指球を中心とした足捌きの徹底です。しかし、技術だけではカバーできないのは、先述のとおりです。
そこで、いろいろなものを履いてみました。
足とビニール畳との間に「帆布」を挟むのが理想の状態とすれば、ビニール畳の上でも「何か」を履けば、その理想に近づけるのではないか、そう考えたのです。
②「足袋」が良さそうです
「足袋」以外に、次のようなものを試してみました。
靴下(五本指でない)・・・すぐにズレる。耐久性に難あり。
靴下(五本指)・・・(少し軽減されるが)すぐにズレる。耐久性に難あり。
剣道用サポーター(足袋型・下の写真)・・・一部分だけが合成皮革でカバーされているため、足捌きに違和感が出る。
革靴(新品)・・・裏に凹凸のないタイプを、板張りで試してみました。これを履いて畳の上での稽古はできません。膝を痛めます。
いろいろ試した結果として、「足袋」が一番でした。
ビニール畳の上でも(少し)滑りますし、「拇指球を中心とした足捌き」を意識すれば、足裏とビニール畳との引っ掛かりが随分と軽減されます。
ビニール畳での稽古には、「足袋」が一番良さそう、というのが、(現時点での)私の結論です。
あとは、柔道用のビニール畳にも、畳の目の向きがあります(本来の畳に少しでも近づけたいというこだわりでしょうか)。畳の目の向きに沿って足捌きを行うと、少し滑りが良くなります。稽古の向きはある程度決められるので、この点も意識できれば、ビニール畳の上でも、より合気道の本来的な足捌きに近づけると思います。
③ その他の工夫(道具の活用など)
足袋を履けば、立ち技での足捌きは、帆布を張った畳での稽古にずいぶんと近づきます。しかし、座技(膝立ちを中心とした動き)ではそうはいきません。
足裏は「拇指球」という軸を意識することによって回転時の接地面を小さくできるのですが、座技の場合には、どうしてもこのような工夫に限界があります。
本部道場で帆布が取り付けられた経緯(上述)にもある通り、無理に座技を行えば膝や足の甲を痛めてしまいます。この点については、プラスチックのシートや、ジョイントマットによる対応を検討中です。
このように当会では、合気会本部道場や、多田先生の傘下道場の稽古環境を理想のものとして、そこに近づけるための工夫を凝らしています。
(2/3終わり、次は、、)
(3/3)「(参考)オススメの足袋」~「(おまけ)畳あれこれ話」
[注釈/参考文献]
(*1)琉球畳表:自然素材である、カヤツリグサ科七島藺三角藺(しちとういさんかくい)を原料とした畳表
(*2)参考:「(有)セキ畳店HP」(最終閲覧:2022/12/30)
【合気道至心会のご案内】
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