ヨーロッパ旅の記録〜Zürich到着、Cabbioloでのワークショップ〜

"2017年7月24日〜9月18日まで ヨーロッパ8カ国を旅した記録"

7月24日
朝、Zürichに到着。曇り空、肌寒い。
今日から約2ヶ月ヨーロッパに滞在する。とりあえず二週間分の予定は決めてきたが、それ以降は何も決まっていない。全く未知である。
長旅で疲れたのでホテルで休んでから、夜、Nik Bärtschのライブを聴きに行く。Nik Bärtschを知ったのは昨年、日本で彼の公演を聴いたのが最初だった。今までに聴いたことのない音楽、作曲と演奏の手法に魅了された。ヨーロッパの旅の始まりに、まず彼のワークショップを受講することを決めスイスに来た。
Nikは毎週月曜日に、Zürichにある彼が仲間と共同経営しているExilというライブハウスで定例ライブを行なっている。ライブ会場の入り口でNikが笑顔でお客さんを迎えていた。私もそこで彼と顔を合わせた。昨年日本でのコンサートのときに少し会話をしたくらいだったが、彼はきちんと私のことを覚えていてくれ、再会を喜んでくれた。物腰が柔らかく静かに笑顔で話す人だ。
この日はトリオでの演奏だった。ジェットラグで頭が朦朧としていたが、ライブは素晴らしかった。
たった一人でヨーロッパに来て心細いところへ、ライブで隣に座ったドイツ人のおじさんと仲良くなり、ホテルまで送ってもらった。日本では絶対にしないけれど、ここは旅先。この先の様々な出会いが楽しみになった。
明日からワークショップが始まる。

7月25日
Zürichから電車でBellinzonaへ向かう。列車の旅で有名なスイス、車窓からの景色が美しい。Bellinzonaはスイスの東南にあり、すぐそこはもうイタリアだ。この地域ではイタリア語を話す人が多い。
Bellinzonaからバスで30分ほどのCabbioloという村にある宿泊施設で一週間のワークショップが行われる。
午後から夕方にかけてワークショップ参加者が徐々に集まってくる。参加者はスイス、フランス、ベルギー、アメリカ、そして日本から計13名。日本人は一人だった。部屋は相部屋を希望したので、ドイツ人でスイスに住んでいる同年代の女性とシェアすることになった。
ワークショップには何度も参加していて顔なじみの人と、初めての人がいるようだった。もちろん私は初めてだし、言葉にも不安があったので初日はとても緊張した。夕食をみんなで取り、Nikからワークショップについての説明を受けこの日は終わった。

7月26日〜29日
ワークショップの内容は、メディテーション、合気道、体を使ったエクササイズ、リズムトレーニングと毎日同じ時間割で行われた。これらは全てNik Bärtschの音楽に見て取れる哲学、思想に沿ったもので、一貫して関連性があってとても面白いものだった。
音楽のアンサンブルはスポーツと同じで、いわばチームプレイ。コミュニケーションが最も大切である。そのことを、Nikは身体を使ったエクササイズで示してくれた。呼吸をすること、自分の体幹を意識すること、相手から受け取る、また相手へ投げるときの反射神経、それらをあくまで自然な流れの中で行うこと。うまくいってもいかなくても、それを受容すること、全てが演奏に通じることだった。気持ちのいい気候の中で、毎朝このトレーニングが行われた。
Nik Bärtschの音楽は、ポリリズムと言われる、異なる複数のリズムパターンを組み合わせる手法で書かれている。事前にNikから課題曲が出されていたので、それぞれ自分の楽器でそれらの曲を練習した。Nikの複雑な曲は一人で練習しているときにはよく理解していなかったが、Nikはとても明晰にリズムレッスンをしてくれたので、最終的には音がよく聞こえるようになった。とにかく、この一週間は心と身体をオープンにして、聴いたり感じたりすることに集中した。

7月29日
ワークショップ5日目はオフ日だった。スイスは本当に自然が美しい。合宿所のまわりは集落と言えども家は点々としかないし、何もない。とにかく自然しかない。参加者の中には車を使って街へ出る人、ハイキングへ出かける人もいた。私はここにいるのが心地よかったので留まり、数人の仲間で近くの滝を見に行ったり、昼寝をしたり、日本とのメールのやりとりを少しして、のんびり過ごした。日本でこのようなゆったりとした時間を過ごすことはほとんどない。言ってみたら余白のない日常から逃れるためにヨーロッパに来たのかもしれない。一週間も経たないうちに心が自然と自由になっていたのは自分でも驚きだった。
ここへ来て最も嬉しかったことは、同じ音楽に共感する仲間に出会えたことだった。参加者の中にはプロのミュージシャン、趣味で音楽をやっている人(それでもレベルは高い)と様々だったが、同じ目的でやって来る人たちの間には当然共通する興味やシンパシーがある。毎日、夜な夜なセッションをしたりNikの曲を練習したりすることが本当に楽しかった。日本にいるときにはとても想像できないことだった。

7月30日
最終日、一週間の練習の成果を発表するコンサートが行われた。お客さんは施設の他の宿泊者やオーナー家族。とても小さな手作りコンサートだが、細部に渡って綿密にプロデュースするNikの姿勢には感動した。全員で演奏する曲と、有志によるソロ演奏やグループ演奏で構成された。私は4人のグループでNikのModul 55を演奏した。この演奏はずっと美しい思い出として記憶に残るだろう。
最高の景色、気候、食事、トレーニング、仲間との時間、Nikの素晴らしい人柄、この一週間で細胞が全て生まれ変わった気がした。ヨーロッパに来れたことをまず感謝した。


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Aiko Kono

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