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ヨーロッパ旅の記録〜フィンランドの魅力

"2017年7月24日〜9月18日まで ヨーロッパ8カ国を旅した記録"

8月29日
アカデミーで一人練習。練習後美術館を見たかったが、あまり疲れたくなかったので結局どこも見なかった。一箇所だけ、テンペリアウキオ教会(Temppeliaukion kirkko)に行くことにした。岩の教会という名で有名な、氷河期にできた岩をくりぬいて作ったというヨーロッパでもかなり珍しい建築の教会だ。天井は銅板、わずかなガラスの壁から淡い光が差し込んでくる。ここでコンサートが行われることもあるそうだが、行ったときは学生のようなミュージシャンが何か弦楽器を小さな音で演奏していた。岩と銅板の反響効果は、身体が心地良い周波に包まれているような、不思議な感覚だった。少なくとも音を人工的に増幅させる建築とは違い、柔らかい音の印象だった。フィンランドというと日本では家具やインテリアデザインなど、洗練されたイメージに宣伝されているが、こういう原始的、土着的、大胆で粗野な感じが、別のフィンランドの魅力だと思う。人々と接していても、そんな感じを受ける。

家まではヘルシンキ市内から40分くらいだろうか、バスに乗る。ヨーロッパの公共交通機関は日本ほど親切ではないので、駅名やバス停名が車内で電光掲示されたり、繰り返しアナウンスされることがない。似たような地名をぼそぼそっと一度アナウンスされるだけのことが多い。ただでさえ市街地を抜けると景色が変わり映えしないので、毎日通ううち、この家が出てきたらもうすぐだな、とか自分なりに目印をつけていた。しかしこの日は練習で疲れたのか、バスで眠ってしまった。外はもう暗いし、起きたときにはどこだかまったくわからなかった。しかも郊外はバス停がたくさんあるわけではなく、次のバス停までの距離がけっこうあるので、気軽に降りたりすると危険である。これは終点まで行って戻りのバスに乗るのがいいだろうと考えた。といっても、終点がどこなのか、ひょっとしたらとんでもない遠くまで行ってしまうかもしれなかったが。幸い、そう遠くなさそうなところで人が全員降りていった。ここが終点なのだとわかり、運転手さんに聞く。黒人の若い運転手さんだった。「ああ、そのバス停は過ぎたよ。このバスは来た道を戻るからまた乗っていけばいいよ」と優しく教えてくれた。発車時刻まで運転手さんと話をする。明日コンサートがあると話したら、行きたいから連絡先を教えてくれ、と言われる。フィンランドの男性は優しくて親切だが、あからさまにナンパしてくるのでときどき困る。でも、こんなふうに知らない人と話をすることは日本ではまずない。普段ある、人に対しての無意識の警戒心は、ヨーロッパにいる間は忘れていた。帰りは家のすぐ近くで降ろしてくれて、良い運転手さんだった。
無事帰宅。有希ちゃんにかなり心配をかけてしまった。

さあ、あすはいよいよコンサートだ。


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