見出し画像

【いばらきサッカーフェスティバル】鹿島アントラーズVs水戸ホーリーホック レビュー

画像はポピー畑です。きれいですね。

はじめに

レビューという名の鹿島アントラーズの戦い方整理。だいぶ鹿島びいきです。

水戸ホーリーホックサポの皆さんごめんな。俺は鹿島サポなんだ。一応。多分。

また、本稿では下図の番号や用語を使用する。引用元のnote[1]は本稿の最後に紹介する。


意外と使わなかった…

スタメン


前半

ミドルブロックを敷く水戸、大外を起点に攻め込む鹿島


2-1-2-5Vs4-4-2



鹿島の保持の配置はこんな感じ。2-1-2-5のような形をとる。
あえてぼかした言い方にしたのは「この選手はこのポジションにいないといけない!」というわけではなさそうだからだ。
ただ、

・ボランチの一方が4番のポジションに入って2CB+ボランチ(+GK)と人数をかけずに組み立てる
・サイドバックはポジションを押し上げて高い位置を取る
・サイドバックとサイドハーフは同レーンに置かず片方が大外ならばもう片方が内側に位置する。大外には原則一人。

をベースにサイドバック(というか濃野)がハーフスペースで高い位置を取る、2トップの一角が降りてくる、サイドハーフが内側に絞るなど他選手の動きも踏まえると立ち位置は2-1-2-5のような形になる。立ち位置に変化はあれど、役割的には似たような形になる。

組み立てにリソースをかけず、前線の厚みを増やす。その上でアップテンポに相手の背後のスペース、特にサイド深部を狙いながら前線の選手に素早くボールを届ける。ポポヴィッチ政権での戦い方をざっくり言うとこんな感じ。

対する水戸はセンターフォワードの安藤とトップ下の落合が横並びになる4-4-2のミドルブロックを形成。無理に植田と津久井にプレッシャーをかけずに中央へのコースを封鎖してサイドへの誘導を図った。
失礼ながら私は水戸の試合をあまり観たことがない。そのため、このブロックの作り方がスタンダードなのか、昨季の鹿島を見ての並びなのかは分からない。実際、鹿島は昨季この戦い方をしてくる相手に苦しんだ。しかし、結果的にこの水戸の選択は鹿島にアドバンテージを与えることになった。

中央にミドルブロックをしく水戸に対して鹿島はワイドに攻撃を仕掛ける。水戸の2トップがそこまでプレッシャーをかけないこともあって、鹿島は藤井と安西を中心に大外から崩していく。また、知念、樋口、津久井がフィードで逆サイドに送り、相手の逆サイドの広大なスペースを活かすシーンもあった。サイドのスペースを使いながら鹿島は水戸のブロックを崩していく。

特に右サイドからの崩しは効果的だった。

右サイドハーフで起用された藤井は持ち前のスピードで大外レーンをぶっちぎってシンプルに質的有利を生み出した。

そして何より大きかったのが濃野の存在だ。元々2列目の選手ということもあって、楔でボールをもらうのがうまい。大外でも内側でも背後へ抜け出せる彼は貴重なピースになった。カンセロをお手本にしているのも納得である。

和製カンセロになろう。


この二人のユニットが水戸戦では機能する。

相手からのプレッシャーが弱いこともあって植田が容易に運ぶ。

相手の左サイドハーフが中央のコースを切るならば、右サイドの藤井にコースが空く。

中央を切られたら藤井がもらえる

逆に相手の左サイドハーフが藤井へのコースを切るならば、楔にスペースが広がり、そこに濃野が顔を出す。

大外を切られたらギャップが広がる

水戸からのプレッシャーが少ない分、片方を閉じれば片方が空くという状況を作れたのが大きかった。前半23分に仲間さんがダイビングヘッドでゴールに迫るシーンがあったが、そのシーンも元はこの右サイド2人の位置関係から生まれたものである。


また、右サイドの崩しがうまくいったのはボランチで起用された知念の存在も大きい。縦横無尽に動かず、中盤の底でサポートする役に。基本的にビルドアップ時は相手2トップの間に入って組み立ての出口役を務めながら、相手2トップの配置を狂わせてパスコースを開けることが可能。その結果、右サイドで渋滞を起こさず、濃野が入るスペースや藤井の前にスペースを開けてることが可能になった。

右サイドがうまくいっていて左サイドがうまくいってなのは右サイドのような配置のバランスが整備されていなかったからではと思っている。大外役として安西を確保しながらも、ボランチといえども二列目での機能も可能で本職はインサイドハーフということもあって8番でもらいたがる樋口、広範囲に走りながらサポートする鹿島の血液こと仲間さん。その上で聖真やチャヴリッチが近づき、左CBがそこまで縦パスを刺すのが得意じゃない右利きのCB津久井ということもあって人は集まるが、相手も集まる渋滞を引き起こしている感じは否めない。
一方でオープンな展開になってトランジション合戦を起こしたり、左サイドに集めて濃野や藤井のアイソレーションを生みだしたりはできるのだが。現に後半左サイドからの攻撃が多くなったのは前者が理由だし、津久井のフィードの質の高さで後者を生みだしたこともあった。

ミドルブロックを構築する水戸に対して右サイドの質的有利を活かしながら前進。相手のサイド裏をシンプルに縦に速く狙う。鹿島の保持は想定以上にうまくいっていたと思う。

鹿島の「ガンガンいこうぜ」ハイプレスと水戸の誘引ビルド(?)


4-4-2同士の戦い


一方の水戸はシンプルに4-4-2のような形で保持をする。ボランチの一角が4番のポジション、トップ下の落合が8番のポジションにまで降りてくることもあったが。GKも組み立てに参加させながらオープンな立ち位置を取りながら低いラインから繋いで組み立てようとしていた。

それに対して鹿島は4-2-3-1のような形でプレスをかける。2トップの一角が前のCBにプレッシャーをかけて、もう一方が相手のボランチへのコースを切る動きに。前者はチャヴリッチ、後者は土居聖真が担当することが多かった。バックパスや中途半端な横パスをトリガーに一気にプレスをかける。前へのハイプレスの連動はうまくいっていた。

ある程度オープンな立ち位置をとり、サイドバックを低いポジションに置く水戸は鹿島アントラーズのハイプレスをかいくぐって前進できず。むしろ鹿島からすればプレスをかけやすい配置であった。結果的にサイドバックのポジションでハメられることに。そして、前半20分、右サイドバックへのパスを奪われたことをきっかけに鹿島に先制ゴールを奪われる。

先制を奪われた水戸は図のように沖田がやや低いポジションに入って3-4-3の形でボールを回すことに。鹿島が2トップでプレスをかけるのに大して後ろ3枚で数的有利を作る。それに対して鹿島は4-2-4気味にプレスをかけることに。

水戸は3-4-3、鹿島は4-2-4

前半の水戸の保持を見ると鹿島のハイプレスの強度に耐えれず思わず下げて蹴ってしまうようにも見えたが、あえて水戸はオープンな立ち位置を取りながらハイプレスを誘導して一気にロングボールで前進しようとしていたようにも見える。現に鹿島の仲間と藤井のハイプレスを誘発して空いたスペースにSHが降りて前進するシーンもあった。あえてオープンな立ち位置をとり、相手のハイプレスを誘い出し空いたスペースをつかいながら前進する…いわゆる誘引ビルドアップ、疑似カウンターのような組み立てを行っていたようにも見えた。
特に前半30分以降に鹿島が4-2-4のプレスをかけたときには鹿島のボランチやサイドバックをつり出して楔で受ける落合などを起点に一気に前進するシーンも増えてきた。(鹿島のプレスのかけ方が"アレ"だったのもあるが。)トップ下の背番号8番の落合は出口として顔を出すのがうまいし、左サイドバックで27番の沖田はキックの精度が高く戦術をやるうえで面白い逸材も多い。

ただ、仮にこの予想が正しければ、狙いは分かるけど、だとしたらJ2で苦しまないならばもっと整備や選手のクオリティがもっと必要なのではと思った。そして何より鹿島みたいにノリでハイプレスかけるチームは少ないだろうし。

一方で鹿島の非保持はハイプレスは評価できるが、ブロックの作り方は結構怪しかった。基本的にベクトルを前に向けて前でつぶそうとしていたので、水戸が押し込んだ際にはポケットやバイタルに広大なスペースを空けていたシーンも多かった。特に昨季は5枚目のDFとして広範囲をカバーしてたピトゥカの不在は大きかった。昨季はこのスペースをピトゥカがカバーに入っていたので、その役割を担う選手はいなかった。水戸の崩しの質が高ければ、一気にやられてた可能性はある。ピトゥカいてほしかったな。でも試合中にポポヴィッチとガチで口論するピトゥカが容易に想像できるのはなぜだろうか。

保持でも非保持でも鹿島の戦い方がかみ合った前半だった。一方で水戸が色々試そうとしていた分、かみ合った前半だからこそもっと圧倒するべきだったとも思っている。


「前半だけで長い!」と思っただろ?安心しろ。
スクロールバーを見てみろ。
後半のボリュームはこれの半分以下だ。力尽きました。


後半

オープンなトランジション合戦に

前半はそこまで前にプレスをかけなかった水戸は後半サイドハーフも前に出てプレスをかけることに。CFの一角が鹿島の2ボランチへのコースを切り、SHの選手が直接CBにプレスをかける。その結果、植田や津久井が運ぶというシーンは減った。シンプルにスピードでぶん殴ってた藤井が交代したこともあって、前半で見たCB中心の組み立てから縦への攻撃はあまり見られないようになる。

また、前半4番を務めていた知念から佐野海舟に交代。基本的に中盤の底から動かずに仲介役に徹する知念とは違い、佐野海舟はある程度動きながら時には高い位置に入ったり、サリーダをして2CBの間に入ったりした。しかし、佐野海舟が動き過ぎるあまり、結果的にゾーン1とゾーン2を仲介する役が不在となり、パスコースが確保できずに相手の2トップ+SHのプレスをかわすことができない。尤も、2CBが少し広がって相手の3枚の間隔を広げたり、樋口や2トップの一角が少し下がって出口を確保してサイドを起点に前進すればうまくいったかもしれないが、合流してから1日しか経過していないということもあってチームとして嚙み合っておらず連動が見られなかった。なんで合流して1日経っているかどうかの選手を出すんだよ()

繋ぎがうまくいかなくなったのは藤井から師岡に変わったのも大きい。元々本職がウイングバックで基本的にスピードで打ち勝てる藤井は低いポジションでも前を向けたのに大して、本職はセンターフォワードである師岡の場合だとどうしてもサイドの低いポジションでハメどころにされてしまった。足元こそあるものの個で打開できるタイプでもなく、相手ラインと駆け引きして裏抜けするタイプじゃないので高い位置でも機能しにくい。

内側で受けるのがうまい濃野に替わって須貝が入ったのも大きかった。オーバーラップやアンダーラップを効果的に行い守備に定評はあるが、内側で受けるのもそこまでうまくなく大外を個で打開できるタイプではない須貝と師岡のコンビはお互いにとってもあまり良くなかった。

個人的にはパレジが入った段階でパレジを右に、師岡を左で見てみたかった。実際、上手く繋がらなかったものの、師岡が空いたハーフスペースでボールをもらうシーンは印象的だったし、本職がセンターフォワードということもあって大外を任せられる安西とのコンビを見てみたかった。パレジと須貝のコンビも二人の適性を計るという意味でも見てみたかった。これは個人的な余談。

CBからの組み立てがうまくいかない一方で水戸のSHが前から奪いにいく分、サイドにスペースを作ったり、相手のハイプレスを誘引してシンプルに相手の最終ライン裏やターゲット役の知念を狙ったりシーンは増えた。ゾーン2を仲介しての前進こそは減ったものの、シンプルにロングボールを相手DFライン裏に放り込むのが有利な状況は作ることができたのだ。実際、サイドの空いたスペースで濃野がフリーな状況を作り、前半60分には植田のロングボールから裏を抜けてフリーになった知念がシュートを打つなど、決定的なシーンはあった。アップテンポが当たり前な前半ではあったが、テンポダウンしてこういうシーンが増えたらよね~。

ロングボールが増えたこともあって鹿島側もよりオープンな立ち位置になる。

静でチームを底からコントロールする知念から広範囲に動いてカバーする佐野海舟がボランチになったこと、水戸のハイプレス、鹿島の保持の変化もあって両者オープンな立ち位置になることに。その結果、選手間の距離が広がる。鹿島のテンポダウンや疲労もあって、鹿島側もパスが繋がらなくなる。結果的に時間が過ぎるに連れてマイボールがいったりきたりするトランジション合戦となる。

試合が進むにつれてつながらなくなるもののカウンターの数は増えていく。しかしスコアは変わらず試合終了。お察しの通りここで力尽きた。

総括、課題

ポジティブに語ってこんな感じ。もちろん課題は保持の仕方にしてもプレスのかけ方にしても色々あるんだけど、シーズンを通して課題になりそうなのは次の三点。

一点目は90分を通してのテンポ。前半はアップテンポに縦に速く攻撃を仕掛けるが、このテンポを実際に90分維持するのは難しい。スプリントの回数が増える分、選手への負荷も増えるし、後半テンポが落ちた瞬間一気に攻撃の質が落ちる。実際、同じようにトランジションの優位性を活かそうとしたヴァイラー政権ではこの90分のコントロールに苦しんだ。90分の質を維持するという意味でも、緩急をつけるという意味でもどこかで落ち着く時間は欲しい。ゲームテンポを変えることを期待できるのは我らが柴崎岳主将だろうか。でもJリーグでテンポ変えてなんとかするクラブは少ないから、やっぱり交代選手のクオリティに期待するしかないかね。

二点目はスペースがない時、特に相手が引いてきた時の振る舞い。今回の場合だと相手の最終ラインの裏やサイド奥にスペースがあったからこそ強さを活かすことができた。相手が低いラインで構えるとスペースが確保できずに自慢の背後への狙いが通用しなくなる。特に相手が5バックで構えたときはただでさえスペースがない上に、相手サイドバックをつり出しても相手は4枚残るので数的にも質的にも有利を作りにくい。構える相手に対してラインを高くする分、カウンターのリスクも生まれる。極論、相手側からすれば「同じテンポで勝手に縦に急いでくれるなら、構えて勝手に疲弊するのを待てばいいじゃん。相手のライン裏には広大なスペースがあるんだし。」となる。ある程度、丁寧に崩すシーンや相手のハイプレスを誘引するシーンも欲しくなる。その点、この試合の水戸のようにある程度相手からプレスを受けることを前提な戦い方も必要となるときがくるかもしれない。

三点目はフィニッシュワークでの振る舞い。シンプルに前線に厚みを持たせて縦に速くボールを運ぶ分、組み立てにリソースを割いていた昨季以上にボールを前に運べるようになったし、ボックス内に人数を確保することができるようになった。昨季親の顔より見た「ボックス内に垣田しかいない」という状況は避けれそうである。この話、擦りすぎて親どころか自分の顔より見たのかもしれない。ある程度ファイナルサードに人数をかけて攻撃できるようになった分、次のフェーズは「どうやって崩すか」と「どうやってチャンスを作るのか」になるだろう。特にサイドを中心に相手DFラインの裏を狙う分、サイドハーフやサイドバックのチャンスクリエイトの質は求められる。練習試合のハイライトなんか見てもサイド奥にはたどり着けるものの、やることなくて藤井や安西がとりあえずクロスをあげるシーンとかあったので、今回紹介した押し込んでからのペナ角クロスや先制点のような空いたスペースにボランチが走りこんでミドルのような崩しのバリエーションを増やしたいところ。それでもこまったら樋口のセットプレーでなんとかします。

非保持に関しては一旦保留。正直、どこまで整備するのか、どこまで改善す
るのか分からないので()

その点、開幕戦の相手である名古屋グランパスは難敵になるだろう。5バックで構えてスペースを決してくる代表例のようなチーム相手を崩すのは難しい。逆に永井とユンカーの前にスペースを与えることになる。保持でも非保持でも名古屋側に優位を与えることになり、完成途中の現状からすれば苦しい戦いになることは想像できる。一方で勝てば十分自信をつけられる相手なのは間違いない。

名古屋に勝って勢いをつけたいですね。

ブラーボ、鹿島アントラーズ。


参考文献

さて、本稿の最後にnoteを一つ、本を一冊紹介する。

[1]

本稿で使用した画像はkeita(@keitakrn)さんのこのnoteから引用した。使いやすい上に文字数の節約にもなるので皆も積極的に使っていこう。
なお、このnoteは今話題のレヴァークーゼンとライプツィヒの戦い方について書きすぎなんじゃないかってレベルで詳細に書いてある良記事である。是非。

[2]

https://www.amazon.co.jp/Jリーグ新戦術まとめ図鑑2023-サンエイムック-三栄/dp/4779649714

本稿では触れなかったが、こちらは昨季のJ1の戦術について分かりやすくまとめられた本である。鹿島のことはもちろん、最近のJリーグのトレンドにも触れていている。初心者にも読みやすい本である。

ところでガンバ大阪の47番っていい選手ですよね。
副キャプテンだし。
情熱のゲレイロだし。

以上。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?